11・貴族の家に招待された
モーリュック家までは馬車で行くことになった。
「ここだ」
そこに着くと、カーティスはドヤ顔で腕を広げた。
「わっー! 大きいね!」
リネットが目を大きくする。
彼女がそんな様子になるのもおかしくはない。
この周辺の領主……ということもあり、モーリュック家は豪邸であった。
中に入ると、広大な庭に噴水も置かれていた。
「エリク、わたし達もいつかこんな家に住んでみたいね」
横を歩くリネットが目を輝かせて言う。
「ん……そうだな」
というかその言い方だと、将来的には俺とリネットが同じ家に住むことになるぞ?
まるで結婚しているみたいではないか。
「ふふふ。心配しなくてもいい」
一歩先を歩くカーティスが振り返り、こう続ける。
「エリクならすぐにSランクまで昇格し、勇者と呼ばれるはずだ。そうなるともっと高報酬のクエストも舞い込んでくる。一気にもモーリュック家よりお金持ちになるかもしれないね」
「そうだよーっ! エリクがいれば、きっとそうなるんだからっ」
むにゅ。
リネットがそう言って、俺の腕に抱きついてきた。
「リネットのような可愛い女性に言い寄られるとは。さすがだね、エリク」
俺達を見て、カーティスが羨ましそうに言った。
やがて俺達は豪邸内に足を踏み入れた。
中も外観に負けず広くてキレイで、気後れしてしまいそうになる。
「カーティス、突然久しぶりに帰ってきてどうしたのだ」
奥に進んでいくと、顎髭を生やした男が現れた。
どことなくカーティスに似ている気がする。
「父上。今日は父上に紹介したい人がいて、帰ってきました」
どうやらこの男はカーティスの父親らしい。
カーティスの父は「ん?」と俺達に視線をやって、
「その者か。ようこそ、モーリュック家へ。カーティスの友なら歓迎するよ」
と柔和な笑みを作った。
だが、俺なら分かる。
この男、そんなことを口にするが、警戒心を張り巡らせている。
その証拠に瞳の奥は笑っていなかった。
「私はアドルフ。カーティスの父だ」
カーティスの父——アドルフはそう言って、手を差し出してきた。
断るわけにもいかないので、俺も警戒を怠らないまま握手をする。
「それでカーティス」
アドルフは手をすぐ離して、カーティスに視線を移した。
「お前が連れてきたというのだから、なにか面白い人物なのだろうな? 期待しておるぞ」
射貫くようにカーティスを見るアドルフ。
それを受けて、さすがにカーティスも背筋をピンと伸ばした。
「は、はいっ。父上には僕がAランク冒険者になったことは伝えていましたね」
「うむ。モーリュック家の人間なのだ。今更それくらいでは褒めないぞ」
「はは、もちろんです。父上に褒められることを目標に頑張っているところもありますから」
カーティスは快活に笑うが、どこか堅苦しい。
貴族の家ってのはどこもこんな感じなんだろうか?
「それで、このエリクと対決したんですが……」
その後、カーティスは俺との対決について一から説明をはじめた。
「な、なんだと……!?」
アドルフが目を見開く。
「私はこれでも冒険者を何人も見てきた。だからこそ、Aランク冒険者というのがどれだけの価値を持つかは分かる。その息子を……ダブルスコアで負かしただと……?」
信じられない、といった感じでアドルフが詰め寄ってくる。
彫りの深い顔のせいで、これだけ近付かれると威圧感がすごいな。
「……ま、まあ一応」
「エリクはすごいんだよー! すぐにでもSランク冒険者になっても変じゃないくらいー!」
何故だかリネットが自分のことのように胸を張った。
アドルフは興味深そうに顎を撫でながら、
「う、うむ……しかしにわかに信じがたいな。失礼だが、とてもそうは見えない。冒険者といったらもっと屈強なイメージがあったんだが?」
これでも鍛えている方だが、あくまで機能性を重視した筋肉なのだ。パッと見では分からないだろう。
「父上」
カーティスがアドルフにこう続ける。
「エリクは魔法使いです。僕のような剣士とはまた違います」
「ほう……魔法使いか」
ん?
気のせいか。
『魔法使い』という単語が出て、アドルフの目が一瞬光ったような……。
「ならば私の方でも一度力を試させてもらっていいかな? おーい、ベンノ!」
俺が言葉を発する前に、アドルフは人を呼んでいた。
「どうしましたか、アドルフ様」
するとすぐに扉からローブに身を包んだ男が現れた。
見るからに魔法使いといった感じの外見だ。
「この者はどうやら優秀な魔法使いらしい。そこでベンノに力を計ってもらいたいと思ってな」
「ほお……優秀ね」
ヘビのように細い目で俺を見るベンノとかいう男。
視線を向けられただけで、背筋がぞっとした。
「失礼ですが、あなたは何属性を使いこなすんですか?」
「氷属性だけです」
「こ、氷属性? ぷっ」
吹き出すベンノ。
「いやいや、失礼。まさか優秀な魔法使いだというのに、氷使いとは。これはアドルフ様も冗談が過ぎる」
なんか腹立つ男だな。
初対面で自然に人を見下してやがる。
好きになれないタイプだ。
「ベンノは私が抱えている魔法使いなのだ」
イライラしている俺に、アドルフがベンノの紹介をする。
「昔は王都の魔導騎士団にも所属していたことがある。一度私の前で戦ってくれないかな? なに、もちろん手加減はしてもらう」
魔導騎士団……王都の中でも選りすぐりの魔法使いを集めたと言われる集団。
一人一人が最低Aランク冒険者の実力を持ち、ドラゴンにすら立ち向かえるとも聞く。
このむかつく男がそいつかー。
魔導騎士団のヤツ等は無駄にプライドが高かったからな。この態度もある意味納得出来る。
「おことわ——」
「エリク! やったね! アドルフさんの前で力を見せられるチャンスだよ」
「うおおおおおお! 我が親友よ! 父上の前で力を示してくれ!」
真っ先に断ろうと思ったが、リネットとカーティスの二人がはやし立ててきた。
どうしてこいつ等はこんな性格なんだ。そして俺がいつカーティスと『親友』になったんだ?
アドルフの方を見ても「当然やってくれるよな?」と目で訴えかけているように思えた。
このおっさん、カーティス以上に強引な性格のようだ。
俺は溜息を吐き、
「仕方ありません。お受けいたします」
と戦いを渋々承諾したのであった。
◆ ◆
その後、俺達は中庭に場所を移した。
「エリク?、頑張って!」
「親友ならきっと勝てる!」
少し離れた場所で二人が応援してくれている。
「うむ、楽しむだな」
その隣ではアドルフが腕を組んで立っていた。
そして俺の目の前には……。
「あなたの力、見せてもらいますよ。ふふふ」
相変わらず人を見下したような態度のベンノの姿があった。
さっさと終わらせるか。
「先に言っておきます。私は炎属性の魔法使いです」
そう口にして、ベンノは手の平で炎を灯らせた。
「まずは私の攻撃を防いでみなさい。今から500℃の炎をあなたに放ちます。優秀な魔法使い……というのだから、これくらい防げますよね?」
こいつ……普通の氷使いには−273・15℃という絶対零度があることを知って、その発言をしてやがるのか。
ますます性格が悪い。
——手加減はするつもりだが、事故を装って俺を痛めつけるつもりか。
こいつの考えは見え透いていた。
「では行きますよ! くらいなさい!」
ベンノの手から炎弾が発射される。
炎弾はうなりながら、俺を焼き尽くそうと迫ってきた。
だが。
−1000℃。
これくらい手加減してやれば、あいつも大丈夫だろう。
同じように氷弾を放つと、向かってきた炎弾を飲み込み、あっという間に凍らせてしまった。
「え……?」
ベンノから気の抜けたような声が漏れた。
しかもそれだけでは済まない。
氷弾はそのまま直進し、ベンノに直撃してしまったのだ。
「ぐあああああああああ!」
声を上げ、後方に吹っ飛ぶベンノ。
勢いは止まらず、ずざざざざざ! と地面の上で滑った彼は、リネット達の前でやっと静止した。
「なんだ、これで終わりか?」
近付いて話しかけてみるが、どうやら立ち上がってくる気配がない。
先ほどの衝撃で前歯が一本折れてしまったみたいで、間抜けな顔になっている。
「ど、どうしてだ……私は500℃……あなたはそれを防ぐ手段など持っていなかったはず」
「絶対零度が氷魔法の限界と思うのは早計すぎる」
それに……決まっているだろう?
500℃と−1000℃。
単純に数字だけ見ても、俺の氷魔法が勝つに決まっているではないか——。
「す、すごすぎる……!」
アドルフはわなわなと震えていた。




