表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/53

海賊退治での稼ぎ方~幕間「胃袋」~

 お姫様は言った。


「あの符牒、どう思われますか?」


 オレはお姫様の求めに従い、隣国の王城に来ていた。その用件は言うまでもない、あの屋敷で見つけた例の符牒についてだ。あれだけ見事に痕跡を消しておきながら、証拠としては致命的とも思える符牒だけ、これ見よがしに残していた。その意図を推し量るためだった。


「きっと裏組織による作為的な行動でしょう。おそらく符牒に挑戦状の役割を担わせたのではないかと」


「挑戦状、ですか。それは我が王家に対しての?」


「今のところは、そう考えるのが妥当だと思います。その理由までは分かりかねますが・・・」


 王家の品を運ぶ船を襲えば、遅かれ早かれ王国が動き出す。裏組織の狙いは、王国を動かすことだったのではないだろうか。だがオレという邪魔が入ってしまい、それは叶わなかった。そこで予定を変更して符牒を残した。符牒を残すことで、王国に対して何かを狙っているはずだ。それが何かまでは分からない。そして理由も全く分からなかった。


 お姫様はオレの意見に少し考える仕草をすると、うつむき加減に口を開いた。


「理由なら・・・あるのかもしれません。王国の(まつりごと)は綺麗ごとだけでは立ち行きません。また建国時に大きな(いくさ)があったと聞き及んでいます。戦に敗れた者の子孫の中に、今だ恨みを持つ者がいてもおかしくありません」


「なるほど。ですが、まだ漠然としていますね」


「ええ、それだけ心当たりがあるということです。お恥ずかしいことですが」


 お姫様はそう言うと、少し悲しそうに微笑んだ。これが上に立つ者の宿命なのだろう。そして少女の身でありながら、それを自覚している。オレは遣る瀬無い気持ちになった。すると暗い雰囲気を察したのか、お姫様は努めて明るく話題を変えてきた。


「ああ、そう言えば! 本当に爵位を辞退しますか? 冒険者さんはこの件一番の功労者ですよ?」


 思い出した。この王国から爵位を賜る話をされたのだった。本来なら喜ぶべきなのかもしれないが、猫に小判、冒険者に爵位だろう。


「大変有難いお話ですが、辞退させていただきます。冒険者は自由の身が一番ですので」


 それに・・・・爵位を受けると危険な気がする。そう、知らないところでお姫様との結婚話が進んでいくような、そんな嫌な予感がしたのだ。まさか当の本人を無視して話を進めることはないと思うのだが、恋する乙女の行動力は凄まじいものがある。君子危うきに近寄らず。


「そうですか、残念です。では、せめて王家からお礼をさせてください。ささやかですが、お酒とお食事をご用意しております」


 酒と飯! それなら大歓迎だ。金銭だったら受け取りづらかったが、食事なら遠慮することもあるまい。それにオレが頂かなければ、せっかくの料理が無駄になってしまう。


「それでしたら有り難く頂戴します」


 オレが嬉しそうに返事をすると、お姫様は女中さんに声を掛けた。


「聞いてのとおりじゃ。食事を運んでまいれ!」


 すると3人分ぐらいの美味そうな料理と、見るからに上等そうな酒が目の前に運ばれてくる。これだけの量があれば、満足すること間違いなしだ。


「どうぞお召し上がりください」


「それではお言葉に甘えて頂きます」


 女中さんに酒を注いでもらい、料理を口に運ぶ。見た目からの想像通り、どれも美味い! いくらでも入りそうだ。オレは次から次へと酒と料理を胃袋の中に収めていく。


「お口に合いますか?」


「ええ、どの料理もとても美味しいです」


 嘘偽りない本心で料理を褒めると、何故かお姫様が頬を朱く染める。


「そうですか、それは良かったです。未来の夫のために、腕を()りを掛けて作らせていただきました」


 その言葉を聞いて、ピタリと手が止まる。ま、まさか、この美味い料理をお姫様自身が? しかもこの量を1人で? 王家の血のなせる技なのか、それとも恋する乙女の凄まじい行動力からなのか?

 お姫様お手製の料理の素晴らしさに驚愕するとともに、ある可能性が頭に浮かび背中に冷や汗をかいていた。その可能性とは、未来の夫(お姫様目線)を籠絡するため、まずは胃袋を掴みに来た可能性だ。いや、もっと言うと辞退した爵位と料理の二段構えだったのかもしれない。このお姫様は年端もいかないのに頭の回転が速い。


「どうかなさいました?」


 手が止まっているオレを見て、お姫様は不思議そうな顔をする。きっと大丈夫だろう、未来の夫はともかく、少女らしい純粋なお礼の気持ちでの料理のはずだ。あまり勘ぐるのはよそう。そう思って、食事を再開する。


「ところで、冒険者さん」


「はい、何でしょう?」


 暫く静かに食事を楽しんでいたのだが、ふとお姫様が話しかけてきた。オレは手を止めて、話を聞こうとした。すると・・・。


「小耳に挟んだのですが、女性の胸を掴んだのだとか」


 ――それを一体、どこで小耳に挟んだ!?


 お姫様の突然且つ静かな言葉に、滝のような冷や汗が背中に流れだす。


「私、これでも未来の夫を信じておりますからご安心ください。それに冒険者さんぐらいのお歳なら、仕方がないことだと聞いておりますので」


「いえ、ちょっとお待ちください。その事情と言いますか、理由を説明させていただけますか?」


 これでもオレは、それなりに経験を積んだ冒険者だ。だが今は空気に飲まれている! お姫様が醸し出す空気に飲まれているのだ!


「分かっておりますから大丈夫ですよ。さあ、お食事をお続けになってください」


 有無を言わさない迫力ある催促に、オレは食事を否応なく再開した。こうなると先ほどまで美味しく感じられた食事の味も分からなくなってしまう。とにかく早く食べ終えて、この場を辞することにしよう。そう決めたオレは急いで料理を口に運んだ。その様子を見て、お姫様は優しく微笑む。


「まあ、そんなにお急ぎにならなくても、食事は逃げませんのでご安心ください。それに、()()()()()()()()()()()()()()


 オレはこの場から逃げられないことを、この時点で悟った。このお姫様・・・意外と怖い!?


~次の苦難へ続く(かもしれない)~

段々と一話を表現するのに必要な文字数が多くなってきました。一話につき一万文字程度が最適と思っているのですが、なかなか収まらなくて。文字数が多いと時間も掛かりますので、来年からは二週間に一話とペースを落とそうと思います。時間がたくさんあれば良いのですけどね。もちろん早く書き上がれば、一週間でもUPするつもりです。

続きを読んでくださる皆様には本当に感謝しております。来年も何卒宜しくお願いいたします。引き続き暇つぶしにお読みいただけると幸いです(笑) 本当、暇つぶしにでも役立つと嬉しいです。


では、良いお年を! by 作者

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ