馬車の護衛での稼ぎ方~起承【転】結~
オレは言った。
「道を開けてもらうか」
馬車から降りて、野盗共を睨みつけた。
「へへへ。有り金と荷車だけ置いていきな。
そうすれば命だけは見逃してやるよ」
「そいつは嬉しいな。だが、こちらも仕事でな」
山を登りきる手前、野盗が道を塞いでいた。
もちろん見逃してくれる様子はない。
見える範囲では前方に3人。馬車の後方に気配はない。
「念のため、こちらも言っておく。
黙って道を開ければ、まだ廃業せずに済むぞ」
「そいつは嬉しいな。だが、こちらも仕事でな」
嫌な笑いをしながら、同じセリフを返してきた。
先を急ぐ身だ。時間は無駄にできない。
となれば。
「先手必勝!」
オレは叫び、左の野盗にナイフを投げた。
すぐさま剣を抜き、そいつに突進する。
「うわっ、危ねえ!」
ナイフは当たらなかったが、野盗は怯んだ。
一気に距離を詰めたオレは、すかさず剣を大きく薙いだ。
避けた野盗共は、上手く道の端に固まった。
「今です!馬車を走らせて!」
二頭の馬はけたたましく鳴いて、一気に走り出した。
◇
「さっさと歩きやがれっ」
・・・オレは野盗に捕まっていた。
「ざまぁねえなぁ、冒険者さんよぉ」
「オレも、そう思うよ」
オレは後ろ手に縛られ、洞穴に連れてこられた。
野盗の根城のようで、略奪品と思しき樽が置いてある。
飯の残りも見えるな。山で採れたきのこの鍋か?
「ツイてると思ったのは間違いだったか」
「ツイてるヤツが、すっ転ぶわけねぇだろぉ」
野盗共は声を上げて笑った。全く以って仰る通り。
あのとき――オレは走り出した馬車に飛び乗ろうとした。
だが事もあろうか、足元の石に躓き、すってんころりん。
馬車はそのまま走り去り、残されたのはズッコケた冒険者。
一体、何の冗談だ。オヤジに話せば、大ウケ間違いなしだ。
いっそ吟遊詩人になって、一儲けしてやろうか。
それが良い。命がけの冒険者稼業なんてオサラバだ。
「ここに座ってろ!大人しくしておけよ、冒険者さんよぉ」
大金持ちになったところで、乱暴に背中を押された。
略奪品が置いてある一角に、押し込められてしまったのだ。
今は大人しく言うことを聞くしかない。
依頼者は西の村に着いてる頃だろうか。
オレの人生最後であろう依頼は果たせたわけだ。
報酬はオヤジに払われて、ツケも返済できる。
真人間の仲間入りだ。オヤジも喜ぶことだろう。
ひょっとすると感動のあまり、泣きむせぶかもな。
冒険者の鑑として、街に銅像を建ててくれるかもしれない。
そうなればオレの名は未来永劫、後世に語り継がれるだろう。
「さて、冒険者さんよぉ。覚悟はできてんだろうなぁ?
こちとらアンタのおかげで、いい迷惑したんだよぉ」
歴史書に名が出たところで、イチャモンをつけられた。
せっかくの良いところを邪魔され、オレはむかっ腹が立った。
冒険者としての覚悟はできてる。こうなりゃヤケだ。
「いい迷惑? そいつは気分爽快だな」
「テメェ!」
野盗はオレの胸ぐらを掴み、強引に立たせた。
「覚悟はできてんだろうなぁ?」
「それは先程も聞いたぞ。他に言葉を知らないのか?」
そう言った瞬間、オレは殴り飛ばされ略奪品の樽に突っ込んだ。
その衝撃で樽が壊れ、中のきのこや見覚えのある草が落ちる。
鍋の飯は山で採れたのではなく、略奪品だったのか。
そんなことを朦朧と考えていると・・・。
「もうテメェはお終いだよぉ」
ここまでか。
野盗の抜いた剣に自分の顔が写るのを見て、そう思った。