馬車の護衛での稼ぎ方~起【承】転結~
オヤジが言った。
「じゃ、頼んだぞ」
さも当然のように、オレの肩に手を置いた。
他の冒険者は居ない。依頼を受けて、出払っているようだ。
「話は聞いていたよな?」
確かに聞こえていた。
オヤジは普段、奥の部屋で依頼者と話をする。
わざわざ酒場で話したということは、そういうことなのだろう。
だが、聞こえないように話していた部分もあった。
オレは冒険者として、大切なことを確認しなければならない。
「報酬は?」
「喜べ、これでキレイな身になれるぞ」
即答。しかし残念ながら、答えになっていない。
オレは冒険者なのだ、必要なことは確認しなければならない。
再度、オヤジに尋ねた。
「報酬は?」
「喜べ、真人間の仲間入りだぞ?」
世知辛い世の中だ。ツケがあれば、知る権利は無いらしい。
とは言え、ツケの期限は3日。選択の余地なしか。
依頼者が訪ねてきたときの直感を信じるとするか。
「ツイてるかも・・・」と、そう感じたのだから。
◇
ツケがあっても冒険者。いつでも出られるよう、備えてある。
携帯食料、薬草、ロープなど、必要なものは荷物袋に放り込んでいる。
そして武器。剣とナイフ数本だ。
それらを手に部屋を出て、依頼者の馬車へ向かう。
オレは、軽装での近接攻撃を得意とする。
動き回って、相手を攻撃する戦闘スタイルだ。
熟練者とまでは言わないが、それなりに経験を積んでいる。
命あっての物種が信条だが、戦うべきときは戦ってきた。
問題は、相手の野盗だ。
昨晩のオヤジの話だと、襲撃は行き当たりばったりのようだ。
大人数で統率の取れた集団なら、もっと被害が出ているだろう。
そうなれば、自警団が動いているはずだ。
と言っても、油断は禁物。いざとなれば・・・。
「おい」
宿を出たところで、オヤジが声を掛けてきた。
「死ぬなよ。ツケを払うまでは」
オヤジは真剣な眼差しで、そう言った。
ツケの心配をしているわけでない。その目が物語っていた。
冒険者が宿を出るとき、オヤジはいつもこの目で相手を見送る。
娘さんもそうだ。宿を出る前、何も言わず両手で手を握ってくれた。
「ああ、真人間の仲間入りをするまでは」
オレはそう答え、宿に背を向け歩き出した。
◇
馬車は山に差しかかっていた。
ふと荷車を見ると、いくつかの荷物袋が並んでいる。
この荷と依頼者が、西の村まで到着できればいい。
「止めてもらえますか」
オレは依頼者に言った。
「街を出たときも言いましたが、もう一度確認します。
この先は野盗が出るものとして進みましょう」
依頼者は頷いた。
「馬を走らせて欲しいときは合図をします。
そうしたら思いっきり馬を走らせてください」
依頼者は再び頷く。
「もしもの場合、私が馬車を降りて食い止めます。
必ず道を開きますので、そこを駆け抜けてください。
そして、その際は――」
「本当に良いのかね、その・・・置き去りにして」
話を遮って、依頼者は申し訳なさそうに言った。
人のいい依頼者だ。人間すべからく、こう在りたいものだ。
そんな依頼者に、オレは答える。
「それが冒険者の仕事です。必ず依頼は果たします。
駆け抜ける際は、振り返らないようお願いします」
「ああ、分かったよ」
よし、山を越えようか。




