其の肆
そろそろ、肉体的にも精神的にも限界が見えてきた。
力が入らない。
ろくに物も考えられない。
今日が何日かもわからない。
ただ、今が夜中だということが、窓の外の景色からかろうじて推察することができた。
このまま目を閉じれば、簡単に逝けそうだな。
そんなことを考えているときだった。
突然ドアを叩く音がした。
――トントントントントントン
最初は空耳かと思った。いや、この身体状態だと幻聴といった方が正しいか。
――トントントントントン
だが、確かに音はする。
――ドンドンドンドン
しかもどんどん音が大きくなっている。
――ドンドンドン
なんだ?
叩くたびに数が減っている
――ドンドン
何かヤバい感じがする
――ドン
ついに一回になった。
そして次に聞こえたのは……
――宏志?
背筋が凍った。
ばかな……。
だが、今のは確かに
今のは確かに……
――宏志、いるんでしょ?
間違いなく、
沙代子の声だった。
ばかな……
沙代子、お前は……
お前は……
死んだはずじゃ
――宏志、開けてよ。
ピリリリリリ
今度は携帯が鳴り出した。電話だ。
ディスプレイには『沙代子』の文字
うそだ……
だって……
だってお前は……
電話のベルがやんだ。
そしてすぐにメールの着信音が鳴った。
いやだ
見たくない
見たくない!!
しかし、
俺の意思とは関係なく、俺の右手は携帯へと伸びていく。
やめろ
見たくないんだ!!
だけど、俺の右手は言うことを聞かない。
右手だけではない。
目も、言うことを聞かない。
ディスプレイに映った文字の羅列が、目に飛び込んでくる。
『私を愛しているならここを開けて』
「うわぁっ!!」
俺は携帯を投げ出した。
携帯が玄関のドアにバンと当たる。
その時
カチャリ
玄関の鍵が開く音がした。
ゆっくりと、ドアが開く。
そして…………
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
〜バレーコード〜終幕




