其の参
アパートに帰った俺は、すぐに酒を飲み始めた。
飲まずにはいられなかった。
「くそっ!!」
机をこぶしで殴り付ける。
机から落ちたグラスが、音をたてて割れる。
怒っていた。
車を出せといった裕香に、そして何より車を出してしまった自分に。
何時間も飲み続け、気が付いたら日付が変わっていた。
もう、自分が何を考えているのか、どんな感情をいだいているのか、それすら分からないようになっていた。
そんなとき、突然電話のベルが鳴り出した。
誰からだろう……。
そう思った。
いや、本当はわかっていたんだ。どこからの電話かも、どんな内容かも。
わかっていた。ただ、わかりたくなかった。
「……もしもし」
――高島宏志さんですか?
「はい、そうですが」
――こちら、十河総合病院です。
「はぁ」
――赤金沙代子さんが、交通事故に遭い、先ほど亡くなられました。
「そうですか」
――?えーと、只今ご遺体は霊安室に保管しているのですが……
「ごめんなさい。今ちょっと行ける状態ではないので」
――しかし、明日にはもうご葬儀の方が……
ブチッ
気が付いたら、いつの間にか電話を切っていた。
それ以降、その電話が鳴ることはなかった。
その一週間、俺は魂の抜けた死骸のように過ごした。
会社にもいかず、テレビも見ず、食事もとらず、水すらほとんど飲まなかった。
ただ、酒ばかり飲んでいた。
沙代子の葬式にも、通夜にも行かなかった。




