65.5話目 性魔辞典
今回短め、申し訳
「と、いうわけで、特別コーナー! 今回は私が創った性魔を紹介するぞ! 結城と、ついでに読者にも見てもらおう」
部屋で力強く言う銀風を、結城とレイランは見ていた。
結城は椅子に座り、レイランはいつもの通りに傍らに佇み、傍に控える。
「勝手なコーナーを設けるな。あと読者ってなんだ」
「うん? なにをとぼけているんだ結城。干渉力ならば読者にすら干渉し……あ、なるほど。そういう設定なわけか」
「はいはい、分かった。分かったから紹介を始めてくれ早く」
よし来た、と銀風は辞典を開いた。
「まずは定番、ゴブリン、コボルト、オーク、スライム!」
すると開かれた辞典が眩い光を放ち始め、ふとした瞬間にはすでに四体の性魔が銀風の傍らに出現していた。
「なんで召喚してんの?」
「ふむ、どうやら熱が入りすぎて、一緒に干渉力も篭ってしまったのか」
「魔本になってるじゃねぇか!」
「まあまあ。さて、ではまずゴブリンから紹介してみるか」
ゴブリン。醜い外観の小鬼、妖精の一種であるという。
しかし銀風の左にいる少女は、醜悪さとは真逆だった。
ボサボサに跳ねまくった赤茶の髪、緋色の眼。薄緑の肌。小学生のような容姿で、似合わぬ鉄のメイスを右手に持っている。
余分な肉がなく、あばらがうっすらと浮かんでいるのが不健康そうな印象を受ける。そこがまた庇護欲を掻き立てる。
「なに見てんだよ。悪戯するぞ!」
そのうえ強気な性格がまた構ってやりたくなる。
「もともとは悪戯好きの妖精だが、この性魔ゴブリンは性的な悪戯を好む。数も多いからハーレムを作りやすいな」
「なるほど」
幼い姿のゴブリンの群れに一方的に悪戯される。悪くない。
「ゴブリンはその容姿だけなのか?」
するとゴブリンが答えた。
「あん?そうだよ。それがどうかしたのか?」
「なら新しくロリゴブリンとでも名づけたらどうだろう。ゴブリンにもホブゴブリンっていう友好的なゴブリンがいるらしいし」
「お前、安直な思考しているな。親近感が湧いたぞ」
「結城は本当に歩み寄るのが上手いな。さて次、コボルトだ」
ロリゴブリンの隣にはコボルトがいる。
ロリゴブリンよりも背が高く、中学生くらいの背丈にして、体の発育も進んでいる。
灰色の肌と、犬のような耳と尾を持っており、赤い服を身につけている。
「とにかく繁殖力が凄まじい野犬といったところか。舐めて欲しいところにバターでも塗ると一斉によってきてさぞ地獄……いや天国だろう」
「コボルトはバター犬か」
「わん!」
コボルトは元気よく鳴いた。
「これが思いのほか優秀で、主人の性欲を嗅覚で知覚出来る。相手の気持ちいいと感じるところも嗅覚で分かる」
「なんだそれ。それ本当に低級モンスターか?」
「ワン!」
コボルトは何かに気付いたような反応をし、四つん這いになりながらクンクンと匂いを嗅いで結城に近づく。
やがて辿り着き、すっぽりと顔を埋めた。
「銀風」
「良かったな結城。気に入られたようだ。次はオークの紹介だ」
「えっ、これ放置?」
顔をこすり付けるように動くコボルトの刺激は徐々に下腹部に精力が集中する。
「っ!」
しかし、突如コボルトがビクンと跳ね、後方に飛び退った。
何かと思って見れば、レイランが剣に手をかけていた。
「お邪魔でしたでしょうか」
「いや、ナイス」
落ち込んだ様子のコボルトが哀れではあるが、銀風の話に集中できないのも困る。
コボルトの隣、より高い背丈。高校生といった感じの雰囲気で、ムチムチとした肉感が露出した太ももから見える。衣服はなんてことはない地味なものだが、
「オークは哀しい種族だ。元々はエルフで、人間から酷い拷問を受けて心が歪んでしまったために見た目も醜悪になってしまった。人の苦しむ様を見るのが好物という」
「つまり、オークが人間やエルフを犯すのは自然なことというわけか」
気だるそうに髪をいじっているオーク。
「ってゆーか、マジ退屈なんですけどー」
「あ、そういう感じか」
「それはそうだ。なにせ似たり寄ったりではつまらない。だろう?」
微笑で挑発する銀風に、結城は同じく微笑で返した。
「ま、確かに」
「さて、オークは嗜虐性の強い魔物だから、性魔オークは当然サディストになる。あるいはリードするタイプ。性魔ゴブリンやコボルトは普通に相手の精気を吸う事でエネルギーに出来る。が、性魔オークは相手の苦痛を味わった時に分泌される成分が混じってないと栄養に出来ないし、相手が苦悶の表情を浮かべてないと楽しめない」
「別にいーじゃん。なんか文句あんの?」
キツく睨みつけてくるオークだが、性魔としての性質でその目線にすら淫蕩の色香を纏っている。
「いや、むしろ礼を言いたいくらいだ。これで集団逆レイプなんてされれば更に楽しめそう」
「次は定番中の定番、スライムだ」
更に隣、最後の一人……一体。
大きな青色の水滴のようだった。
「ふむ……」
結城が席を立ち、スライムに歩み寄る。
きょろきょろ、水滴を観察する。
高さは自分の腰辺りまであり、幅も肩幅ほどはある。
「スライムは元来待ち伏せするタイプだ。液体じゃ獲物を追うような高速移動は出来ないだろう?」
「なるほど、それもそうだな」
「マスター」
「大丈夫だレイラン」
おもむろに手を伸ばし、液体に指が触れた。
「生暖かい」
瞬間、水面を叩いたような音と飛沫。驚く結城は身を引こうとするが、水滴から手が離れない。
体中に飛沫がかかり、よく見ればひどく粘り気のある粘液だった。
「誘い、身動きを封じるか」
水滴から粘液の触手が伸び、結城の体を絡め取ろうとする。
「なるほど、モンスターとしては正しい。が、性魔としては至らない。知能がないから仕方ないか」
言葉が終えると同時に纏わり付く全ての粘液が弾けとんだ。
「性魔なら、性的に攻めろ」
飛び散った粘液は自らスライムのほうへと移動する。
それと同時にスライムも水滴のような形から徐々に変化し始める。
縦長に伸び、棒状のソレから横に二本の触手が伸びる。上部がきゅっとすぼまり、徐々に人の形へと近づいている。やがて髪が背の中ほどまで伸び、全ての変形が完了した。
全身が青い粘液で形作られた人型。
腕に覆われている、ふくれた滴る水滴のような乳房は、嫌でも目を惹くほどに大きく、豊満さと柔和さを主張する。
寄せられた谷間は、その存在だけで目を奪う。
自由自在の体が造り上げたくびれは、上の水球に対して細く、大きさを維持して尚、太くない。
そこから再び大きな膨らみを描く尻の肉付きがよく、しかし決して太くは無い太股。
へそ周りのV字ラインは確実に男を飲み込む吸引力じみて誘惑する。
「これは……すごいな」
魔物特有の、魔力が通う赤瞳は挑発的な微笑とあいまって、綺麗な絵になっている。
余裕の笑みを装いながらも、結城はその美貌を前に息を飲んだ。
「スライム。単純ながら、性魔としてのポテンシャルは本業のサキュバスすら凌駕し得る」
「マスター」
「大丈夫だ」
軽く握った手をゆっくりとその頬に差し出し、軽く撫でる。
そこから頭を慎重に、しかし軽やかに撫でる。
するとスライムは猫のように頬ずりをし始める。
「よし、落ちたな」
スライムの眼が、鋭く光った。
「おっと」
右手が大きな水滴の片方をさすり上げる。
声帯がないために声は出ないが、間違いなく嬌声が響いたであろう勢いで体が跳ねる。
「この粘液、触れた部分を性感帯にするのか。撫でたこっちがむず痒くなったぞ」
「ああ、私も性魔スライムは攻守最強だと思う」
スライム。その多様性と環境適応力、そして変幻自在さ。
幼女から美女、ショタからフタナリ、異種族まで幅広くカバーできることだろう。
スライムはそもそも異種族であるのだが、細かいことを気にしている暇はない。
「と、この調子で性魔を作り、ゆくゆくは淫蕩の理想郷を創る。これが今の私の理想だ」
「なるほどなぁ……ところでこの娘すごい絡みついてくるんだけど」
「それはそうだ。性魔は理性があっても本能に忠実だからな」
「いや、早く回収してくれ」
「そう遠慮せずに、じっくり味見して感想を聞かせてくれ。なんなら私も混ぜてくれ」
「そこは普通、席を外すって言うところじゃないのか?」
視線を交わす結城と銀風。欲情に満たされたスライムは、より強い刺激を求め、物欲しげな瞳を向けている。
その様を見て連鎖的に浴場した3体の性魔もまた、臨戦態勢に入りつつあった。
「まったく、此処を誰の屋敷だと思っているのかしら。貴方たちは」
幼くも艶かしい声と、鼓膜を弾くような破裂音が室内を満たす。
高貴な味のある妄想と干渉力。
開け放たれた扉の方を見れば、そこには孤高のお嬢様。
金色の眼は夜闇に浮かぶ満月、金髪は差し込む月光のよう。
「結城、さすがの私も、自分の邸宅でフィアンセが異種族乱交パーティを秘密裏に開いているのは我慢できませんわ」
見れば、ゴブリン、コボルト、オークは恐れ戦いている。
それは動物に近い性魔だから効果があったのであろう、魅惑の新月が持つ女王S気質。調教の技巧は鞭の音一つであらゆる野獣を躾けられる。それは性魔も例外ではない。
スライムにはあまり効果がみられないようだが。
「おっと、せっかくの私の性魔が暴君に汚されてしまう」
銀風が本を閉じると、顕現していたモンスターの全てが幻のように消えうせた。
「まったく貴女は本当に、油断も隙もありませんわね」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておく。さて結城、私の理想郷が出来た暁には是非堪能してもらうから、期待してくれ。ではまた。」
室内にもかかわらず旋風が吹き荒れたかと思うと、銀風の姿は消失していた。
「まったく……結城、お話を聞かせてくださいな。今回の事件、絶滅の理想への、あなたの思いを」
「絶滅の理想、そうだな。気持ちは分かる。痛いほどに。しかもそれを正しいと思ってしまう」
「それでも貴方は、今回はその理想を挫いた」
結城は頷く。悲哀と憐憫の感情は隠しきれず、椅子にどっと座り、額を抱える。
「理想そのものに優劣は無い。その思いの強さこそが……彼の理想は確かに強かった。ユートピアもだが、切望を感じさせる、切ない理想だった」
だからこそ負けるわけには行かなかった。己の味わった切望が劣るなどと認めたくは無い。
「理由が私怨ではなく人間の罪業そのものへの嫌悪だったから余計に困った。これは尚更ハッピーエンドに拘らないと思い直してはくれなさそうだ」
「そういえば貴方はバッドエンド嫌いでしたわね」
いかなる残酷な運命であっても、必死にしがみつき、もがいて足掻き、最後に報われるように。
そんな物語が結城は好きだった。
いや、誰もがそういう物語を望むはずだ。
「誰だって嫌いだろ? バッドエンド」
「さあ、バッドエンドの状況によりますわ。例えば貴方と私が最後の人類となったなら、私にとってはハッピーエンドですけれど、人類の滅亡は人によればバッドエンドでしょう?」
「男女残ったのに人類滅亡?」
「生活できない環境かもしれませんわ」
「まあなんにせよ、今の俺に絶滅の理想は必要ないものだ。人の価値は、俺の中にあった」
「自画自賛?」
「妄想のことだよ」
妄想が作り出す理想の人間たち。それは人間が抱く理想であり、理想の世界には理想足り得る価値がある。
人間の価値を、理想を外ではなく内に求め、現を抜かし、妄想し顕現する。
それが結城の出した答えだった。
「俺が死んだら、俺の中にある理想の人達も死んじゃうからな」
「……なるほど、相変わらず貴方は独特で、希少で、魅力的で安心しましたわ」
「それはどうも。俺はそろそろ執筆に戻る」
「あら、そろそろ食事時ですわ。栄養があったほうが妄想も捗ると思いますわ」
結城はそれもそうか、と立ち上がる。
「銀風とのディナーよりもワンランク上の味を堪能させて差し上げますわ」
悪戯っぽい微笑で言う新月に、結城は苦笑した。
「覗きは良くないぞ」
「問題ありませんわ。パーヴァートですもの」
格上のディナーを堪能するため、結城とレイランは新月に誘われる。
「デザートが自分とかいうのは無しだぞ」
「……もう、台無しですわ」
肆ノ章終わり。
お詫びの次回予告、次は安全無欠のお話




