65話目 迷いはすれど、悩むことなく
「そう焦ることもない。もう一度世界を見直して、本当に滅ぼすべきと思うなら滅ぼすといい。俺はこの世界からはおさらばするから」
「どうしてそこまでする。お前は他者に不干渉なのではなかったのか」
なぜ結城が絶滅の理想に対してそこまでの温情をかけるのか。
過去の自分を重ねたからか、それとも理想の内容が他とは異質であり、興味を抱いたのか。
「さあ、なんでかな。強いて言えば、そうしたいからそうした」
「お人好しだな。苦労しそうな性格だ」
「よく言われるし、自分でもそう思ってるんだが、性分らしくて直しようが無いんだ。で、どうする?」
悪魔は選択を迫られる。
そう長く考えることもなく、答えはあっさりと告げられた。
「分かった。この理想、お前に一時託す」
微笑むは結城。新たな理想を飲み干した。
「いずれ吐き出す理想だけどな。さて、それじゃあ……」
「見つけたッ!」
声と共に砲弾でも飛んできたのかと、全員が思った。
地面を抉り、土埃の舞い上がる場所から響いた声。
「お前が今回の黒幕だな!倒しに来たぜ!」
ハツラツな声が響き、土煙から姿を現す一人の挌闘士。
クロードと魔耶が後ずさる。
「蓮華か」
「あれ、結城もいる。なんだ、先越されちゃったか」
「いや、今終わったところで……」
「もう終わっちゃったのか? じゃああんまり大したこと無かったのか。でも戦ってみたかったなぁ」
ふと気になった。気になってしまった。
今回の事件の黒幕である、絶滅の理想。蓮華ならどう相対するのか。
「戦ってみるか?」
「えっ、いいのか?」
「別に構わないさ。蓮華は相手を殺さないというし、まあ今回の騒動のペナルティってことで、此処は一つ」
結城が悪魔の方を見ると、悪魔は頷いた。
「死んでも文句は受け付けない。私は滅ぼすために生まれたのだから」
「なんでもいいぜ。勝つのは私だからな!」
地上最強を目指す格闘少女と、人類の絶滅を願う最強の悪魔。
悪魔はゆっくりと地上に降りた。と見えた瞬間、すでに蓮華の眼前にまで迫っていた。
襲い来る爪が、全てを引き裂く矛となって蓮華の体を穿つ。
「ッ!!」
強烈な勢いで蓮華の両足が地面にあとを残す。
しかし爪は蓮華の胴を貫通しなかった。
悪魔が見やると、蓮華の両手が、自らの胸部の前で爪を握っていた。
「ヘヘッ……あっぶねぇ」
蓮華は爪を片手で握り締め、一気に悪魔を引っ張った。
引き寄せられる悪魔の横を蓮華が通り過ぎ、また再び引っ張られる。
回る様に、踊るように、やがて悪魔の足が地面から離れた瞬間、上に投げた。
「炸裂技巧……天元突破ッ!」
踏み込む足が大地を震わせ、突き上げる拳は絶望を穿つ。
「ッ!?」
火山の噴火のような勢いで突き上げられた拳は見事悪魔の腹部を穿ち、花火のように打ち上げられる。
「決まった!」
「あーあ……」
クロードがらしくない声を漏らした。
そして結城は目を擦っていた。
「幻術でも見せられてるのかと思った」
「へへっ、地上最強は伊達じゃないぜ」
絶滅の理想は、最強の一撃にて容易く打ち砕かれた。
「私は絶滅をもたらす者。罪深き、人間という種を絶滅させる者」
その姿は突如、蓮華の背後に現れた。
超反応して襲い来る爪を伏せて回避し、足払いをかける。
だが悪魔は僅かに跳んでそれを避ける。
至近距離、悪魔の構える右腕が瞬きの間に襲う。
「がっ!」
地面に叩きつけられる蓮華。
眼前に迫る爪をなんとか掴み抑えている。
「お、おい! 力が増してるぞ!」
「わタしが全ての者の頂点ダ。絶望ノ世界を、絶滅の終焉ヲ」
悪魔の掌から鮮血が噴出し、肉を裂いて小さな手が露出する。
「ぐ、グロい!」
小さいとはいえ、普通の人間にしても大きい。
その指先の爪は容易く心臓にたどり着く長さと鋭利さがあると、見て分かる。
「ぬあらぁっ!」
迫り来る魔の手を右足で蹴飛ばす。
吹き飛ぶ腕。飛び散る鮮血。
「な、なるほどな……大体分かったぜ」
蓮華は左手を離し、ゆっくりと起き上がった。
悪魔の体は意に反して押しやられる。
「そろそろお遊びはやめて……本気で遊ぶぜ?」
立ち上がり、ついに悪魔と同等に立った。
「ワンミニッツゲームだ」
蓮華の口から出てきた単語に結城が首を傾げていると、クロードが隣にくる。
「結城、僕と君が戦ったとき、どうして彼女が動かなかったのか不思議だったよ」
「なんだクロード、藪から棒に」
「君がユートピアに向かっている頃、僕たちはガンダーラで強力な異能者と戦っていた。インフィニティ・エア、今では僕の友人だ」
「へぇ。理想比べで友人を作ったわけだ」
クロードの表情を見ると、なんとも言えない複雑な苦笑を浮かべていた。
「それで?」
「そこに蓮華が現れた。彼女は好戦的なんだね。とにかく戦いたがっていて、僕とエアで相手を務めた……」
苦笑は徐々に強張り、色をなくしていく。
「あれは、途方も無い力だった。結城、彼女は一体……」
「俺も詳しいことは分からない。ただ、それくらい地上最強への想いが強いって事さ」
「一体、何が彼女をそこまでさせるんだ……」
「蓮華、地上最強の理想の持ち主……」
レイランの声が蓮華を語り始める。
「レイランなら勝てるか?」
「断言は致しかねますが、手加減はまず出来ないでしょう。あとは、私が地上最強に勝る何かがあれば決着をつけられるかと」
「ほぼ互角ってところか」
それほどの力を持っていながら、自分の方が先に理想を叶える権能を得てしまったわけだが。
「マスターは自らの理想が叶えられる力を得ましたが、どうか油断にはお気をつけください」
自らの理想を叶えられたとしても、それが他の理想に勝っているとは限らない。
それでも結城は譲れなかった。
「俺の理想は誰にも負けない……いや、俺が負けさせない」
するとレイランは、安心した表情で優しく微笑んだ。
「その強きご意志、どうかお忘れなきよう……マスター、始まるようです」
「じゃあ、来いッ!!」
蓮華の掛け声と共に、悪魔の両腕が怒涛の連続攻撃で蓮華を攻め立てる。
荒れ狂う斬撃の嵐を、蓮華は身を引いて回避する。
「へっ!」
すると突如、蓮華は軽やかな足取りを深く地面に踏みしめる。
そして襲い来る爪に対して拳撃で打ち合い始めた。
二本の豪腕に対して、二本の腕で対抗する蓮華。
理想が理想であるとはいえ、生身で化物の巨大な腕に対して真っ向から挑み、拮抗していた。
ふと、悪魔の連撃が止まる。
血を噴出しながら、両腕がより強く、大きさを増しながら、同時にもう一対の新たな両腕が出来つつあった。
悪魔の翼のような両腕に目を奪われる蓮華。
その姿が消えたと認識した瞬間、強烈な衝撃が胸部を打った。
「ごっ……」
一対の巨大な爪が標的を刺し貫くように突き出されていた。
蓮華は直撃を受けるが貫通はしなかった。吹き飛ばされもず、しかし大きく仰け反りながら後ろに押し出された。
「がはっ……き、効いたぜ。残り30秒!」
血を吐きながらも威勢は衰えない。
悪魔は先ほどと同じように、姿が消えたように見えるほどの加速で突き穿つ。
それに対して蓮華は腰を落として待ち構え、突進爪が直撃する。
「ぐぅうううおおおおおお!!」
強烈な突進を蓮華は受け止める。
足は地面に跡をつけながら、後方に押し負ける。
だが、徐々にその勢いは衰えていく。
「ぐっ、ご、お……」
何かの鳴き声にも似た聞き苦しい音が喉から出る。
しかし、蓮華は倒れることなく悪魔に対抗している。
悪魔の小さい方の腕が蓮華の胴を掴む。
大きく広げられ、悪魔の双翼を思わせるシルエットを描く悪魔。
その胸部が裂け、過剰なほどに増幅されたあばら骨が蓮華に牙をむく。
次の瞬間、開いていた両腕が抱きしめるように一気に閉じられた。
豪腕の爪が蓮華の背面を捉え、あばら骨で出来た牙が前面を串刺しにする。
「がっは……かはっ……」
メキメキと骨の鳴る音、ブチブチと肉の弾ける耳障りな音が響く。
しかしそれでも尚、クロードでさえ止めようとはしなかった。
蓮華の体から力が抜けた頃合、悪魔はそこでようやっと蓮華を解放した。
「…………」
そのまま重力に任せて、その体は地に預けられるだろう。悪魔はそう思っていた。
「……耐えたぜ」
言葉一つ、倒れそうになった体は、その足がしかと踏みしめ支えていた。
「なるほどな、いい攻撃だったぜ。これが人類を滅ぼす力って奴なんだな!」
ああ、やっぱり、とクロードは頭を抱える。
「次はこっちの番だぜ。1分、耐えてくれよッ!」
傷口から血は流れ出し、骨も折れているはずの体は、それでもファイティングポーズを取る。
「馬鹿な、あれだけの攻撃を食らってまだ……」
しかしここまでのダメージを負えば、ろくな攻撃も出来ず、やがて力尽きるであろうという憶測を抱いていた悪魔。
その考えは、次の一瞬で簡単に捻り潰された。
「じゃあ約束どおり、一撃だぜ」
避けてよし、防いでよし、捌いてよし、流してよし。
敵に1分という攻撃時間を与えておきながら、自らは一撃という圧倒的不利を自ら提案した蓮華。
その表情からは一切の不安も見られない。
あるのは確固たる自信のみ。
ふとした瞬間、蓮華はすでに悪魔に肉薄していた。
それはまるで悪魔が行ったのと同じ、相手の反応を超える超加速。
大地を蹴り、深く踏み込み、拳が悪魔の鳩尾を穿つ。
「地昇地獄突きッ!」
打ち抜かれた悪魔の体は大きく吹き飛んだ。
しばらく滞空し、地面を跳ね転がっていったところで、ようやっと止まった。
その代わり、微動だにしない悪魔。
「あっ、しまった。加減を間違ったくさいぜ」
蓮華の言ったとおり、一撃で勝負は決着した。
「銀風、俺たちがやってたことって、なんだったんだろう」
「自信を失くすな」
蓮華の圧倒的な力で悪魔が打倒され、自分たちのしてきた行いの意味について考え始める。
悪魔はその存在を結城の妄想へと移した。
蓮華とゾーイはすでに帰ってしまった。
「ローラが待ってるから帰るぜ! じゃあな!」
「任務完了、これより帰還します。結城、いずれユートピアに遊びに来てください」
抑揚の浅い機械音声だったが、ゾーイは着実に人格を得始めていた。
レイランは結城の傍に控えている。
もはや全てが解決したような雰囲気だった。
絶望の理想。
この世界を見つめ、人間は罪から逃れ得るのか、それとも絶滅される罪は拭えないのか。
「理想に罪は無い。この世界には罪人なんていないさ」
結城の理屈が正しいのか否か、その答えは、これから解き明していくことだ。
「で、他の奴らはどうする」
絶滅の理想を抱くのは悪魔だけではない。
転生者も少なくない。放置はできないが、どうするか。
「そのままにしておけばいい。元々この世界は理想同士で競い争う世界だ」
「待て結城。それだと私の淫乱モンスター計画が」
「理想人以外のモンスターなら問題ない。むしろ見分けが付くから安心だ」
そしてもし異種族同士で夫婦にでもなれば、モンスターの嫁が人間の夫を脅威から護ってくれるだろう。
いや、そういう存在にするのだ。
「そういうことにしておけば、問題ない。むしろ好都合だ」
「結城、君は……」
クロードは物申したいというのが丸分かりの、不満そうな顔をしていた。
「良くも悪くも、俺は正義の味方だったわけだ」
「何を言って、人類の絶滅が正義の味方のやることなのか?」
「そうだよ」
結城は迷い無く肯定した。
クロードは嫌悪の感情を露にしていた。
「答えを急くなよクロード。簡単なこと、話は最後まで聞いてくれ」
「僕には、君の言う正義が分からない。君は人間があまり好きではないから、人間を滅ぼすことが正義なのかい?」
「だから急くなと……正義の反対は悪ではない。違う正義である。こんな言葉を聞いたことは無いか?」
安全無欠の勇者も、似たような言を聞いたことはあった。
どれだけ自分が正しいと思っても、相手にとっては間違いで、相手は自らと異なる正義を持つ。
正義とは剣のようなもので、自分の意志を貫くための建前だと。
「それはまるで理想のようだと、思わないか?」
「理想……」
「正義にしろ、理想にしろ、それは自分が命をかけて貫かんとする価値を有することがある。それがたとえ、罪深い人間を絶滅させることだとしてもだ」
「何が、言いたいんだ?」
なんと言ったらいいか、結城はしばし考え、空を見上げた。
「俺は正義も理想も尊重する。だから自分に相対する者以外に干渉することはほぼ無い。今回はちょっと干渉する理由があったが。まあ、正義の味方っていうのはそういうことだ」
「つまり、あらゆる正義を尊重するために、争いさえも肯定するというのか」
「だって、ここは元々そういう世界じゃないか。叶えたい理想の為に、己以外の全てを退ける。そのために力を得て、そのために戦うんじゃないか」
それは確かにそうだと、クロードは納得せざるを得ない。
しかし、人類の絶滅を肯定するなんてことは、絶対に間違っているはずだ。
「らしくないな勇者様、排他主義かい?」
「君には人情や道徳というものは無いのか」
それは珍しく、結城は敵意の眼光を向けた。
その荒んだ姿に、クロードはたじろいだ。
「クロード、その考えが彼のような絶滅の理想を生んだのだとなぜ分からない」
常識、道徳、規則、社会に存在する数多の束縛。
それは力持つ者。或いは多勢によって行使され、弱きもの、無勢を虐げる。
「身勝手な常識を押し付け、横暴な規則をねじ込ませ、道徳を盾に抗うことさえ赦さない。なるほど至極、人間は罪深い」
「罪深い、僕が……?」
「お前が今語ったのは、自らが追い求める理想じゃない。何の変哲も無い、多勢の正義だ。少数の正義は犠牲になれと言うたのだ」
結城が語る、絶滅の理想の根源。人間の罪の正体。
「俺が絶滅の理想に与したのは、それを確かめたかったのと、やはり多勢に滅ぼされる無勢な理想だと思ったからだ」
絶滅の理想を抱く者がいかに集まったところで、それに反対する人間の数は遥かに上回る。
「人間の絶滅なんて理想を持つ奴と分かり合えるわけない。そう思うだろう。普通ならば」
普通、常識、基準。多数派によって定められる事象。
「なるほど、そういうことだったんだね。僕もまだまだ未熟だった」
「さすが勇者ともなると物分りのいいことだ……」
「君がお手本を見せてくれたからね。丁寧に教えてもくれた」
向き合うべきことをしっかりと見定める。まさに勇者の器だった。
「それが君にとっての正義なんだね」
「俺にとっての……か。どうなのかね。自分が本当に正しいかなんて分からないし、ずっと考えている」
「あれだけ軽々と絶滅の理想を肯定していたのに?」
物憂げに俯いた跡、結城は語る。
「人生は長い。道に迷うことも、数多い正義と正義の間を彷徨うこともある。だからせめて、俺は迷いはすれど、悩むことはしないようにしている。楽しむようにしている」
「悩まない……」
「そうだ。あんまり悩むと心を病むからな」
結城は踵を返し歩き出す。
「せめて理不尽でなければ、不条理さえなければ、こういうのも悪くないだろ」
「結城、どこへ?」
立ち止まり、僅かに振り返り、横目でクロードを見た。
「こっちの目的はまだ終わってない。だろ? 銀風」
「ああ、その通りだ」
銀風は結城の横を通り過ぎ、さらに先を行く。
「モンスター性魔化計画は、絶滅から逃れたこの瞬間から始まる」
結城は先導する銀風に追いつき、流し目でレイランに気を配る。
言うまでもなく結城のあとに続いているレイランに微笑むと、レイランもまた微笑み返す。
「それじゃあ行きますか、銀風」
「ああ、ただの共存じゃ味わえない、快楽がそこにあるッ!」
二週間後…
「どうだ結城!」
「銀風、部屋にモンスターを連れ込むのはやめてくれ。写真じゃ駄目なのかよ」
「写真じゃおっぱい揉めないし嬌声も聞けないし味見も出来ないだろう」
「なんの味を見せる気だ」
今回、銀風が連れ込んできたのは、キノコの帽子を被った可愛らしい少女だった。
「種族はマタンゴ。キノコのモンスターだな」
「ああもう分かったよ。大体把握できた」
マタンゴ。キノコのモンスター。
そこに変態が絡めば、起こることは一つ。
「ま、マタンゴです。よろしくお願いします……」
「そいつは男の娘なんだな?」
「さすが私の相棒だ。その通り!彼は……付いている!」
大仰に言いながら、マタンゴ少年の服を疾風のごとき神業で剥ぎ取った
常識人ぶっていた結城もこれには思わず目を見張る。
「ほう、これは」
「っぅ!?」
それは確かにこぶりながらも立派なモノだった。その表面の艶やかさと綺麗なフォルムはさながらタマゴタケ。
驚きの声を上げてマタンゴ少年は蹲った。
「なっ、なにをするんですか!」
恥ずかしさに紅潮した顔と潤んだ瞳。乙女より乙女らしい恥じらいの姿は確かに扇情的だ。
「ふふっ、すまない。ついな。ほら」
「マタンゴって雄だけなのか?」
銀風がマタンゴに服を返し、いや、と否定した。
「ちゃんと雌もいる。が、雌も付いている」
「雌が付いてるって、フタナリかぁ」
フタナリ。両性具有。
それは禁忌と言ってもいい、神をも恐れぬ法理を捻じ曲げる所業の産物である。
「大丈夫なのかそれ」
「まあ待て、今解説する」
と、銀風はどこからか取り出した分厚い辞典を広げる。
「えーっ、菌類、植物系の魔物。胞子は鼻腔に寄生し、芳香には媚薬効果がある。主に排泄物などから栄養を摂取するためアナルを用いた性交やスカトロプレイを好む。相手の排泄物からエネルギーを摂取することが出来るから家計にも優しい。もちろん精が最も吸収効率が良い」
もちろんというのは、性魔は全てそういうことでエネルギーを供給出来るということを意味している。
吸精はサキュバスの専売特許であるが、パーヴァートの性癖も様々。サキュバスだけではジャンルは多様なジャンルの需要に供給しきれないのだ。
「マタンゴだけでフタナリと男の娘の需要を満たせる。一粒で二度美味しい素敵なモンスターだと思わないか?」
「まあ、確かに悪くない」
結城の視線はあの愛らしいタマゴタケを恥ながら隠すマタンゴから離せない。
「銀風、僅かに干渉力を感じる」
「よく気付いたな。マタンゴの胞子はマタンゴ自身の羞恥や淫靡な感情によって過剰に拡散される。そして干渉力を持った媚薬効果で獲物を引き寄せるわけだ」
「そりゃ気付くだろ。ここまで強力な媚薬効果があるんじゃ……常人には耐えられないぞ」
「一応はモンスターだからな。生易しいものでは意味が無い」
モンスターであるのだから、人間に対して脅威でなければ意味が無い。
男性から女性まで、モンスターは隙あらば淫靡を晒し、淫乱を誘う。
男の精を、女性の愛を餌として貪り、野生的な永遠の愛が生まれるのだ。
「気持ちいいから大丈夫だ。そうそう死にはしないと思うし」
「腹上死はしそうだな」
「それはまあ……愛ゆえにだ。今度まとめて紹介するから是非楽しんでくれ」
楽しんでくれという銀風の表情が一番楽しそうで、その凛々しさの中にある無邪気さが愛しく、マタンゴより目を惹いた。
「ああ、期待しないで待ってる」
「相棒にくらいは、遠慮なく期待しないかねお前は」




