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89話目 エルサレム

 ユートピアの各所から爆発が起こり、摩天楼が猛火を噴出す。

 それはこのバベルの塔でさえ例外ではなかった。


「これは……」


 結城が驚く中、神の使者は悪魔のような笑みを浮かべていた。


「ハッハッハ! どうだね? 君達の自慢の理想郷が焼かれていくのは。君達は我が神に逆らう異端者。この理想郷を……いいや、魔都を焼き払い、ここを真の<エルサレム>とするッ!」


 笑い続ける神の使者に対してドクは。


「はぁ……その程度か」

「ハハ……はっ?」

「なーるほど、このユートピアに何人かのそちら側の信徒が潜り込んでいたというわけか。なるほど発想としては悪くない。ただ、アルカディアはともかく、こっちにソレは悪手だったね」


 途端、鼓膜を圧迫するような大音量で、アナウンスが響き渡る。

 これはゾーイでも、セカンのものでもない。


「ユートピア内に違反者を複数感知、機械兵を出撃させ、排除します。国民は速やかに理想法に従い、違反者を確保してください。繰り返します……」

「まぁ、トライアドのテストには丁度よかった。例を言うよ神のパシリくん」


 遥か下方の火災は見る間に鎮火され、もはや音沙汰も無い。

 何が起こったのか理解できない神の使者は、うろたえるばかり。


「ここはユートピア。誰もが理想の生活を営む場所さ。裏を返せば、理想ならざるものは尽く排除される……そう、ここは君達の想像しているお花畑ではない。緻密にして機密に構成されたディストピアだなんだよ!」

「なにを……なにを言っているんだ!?」

理想郷ユートピアの意に背く異物は、管理者ディストピアによって排除される。だよね、ユートピア?」


 それは『アレ』に向けられた言葉だと理解できたのは、結城とゾーイのみだ。


「さあ、宣戦布告は受け取った。始めようじゃないか……」


 ユートピアの防壁から、バベルの防壁から、各所から様々な砲門が開かれる。


「神を殺せるかどうか、その実験をね?」


 疾風迅雷……否、閃光轟音。

 色とりどりの光線から砲弾、ミサイルに至るまでもが一斉発射され、浮遊する城……エルサレムへと一直線に向かう。

 雲の奥、爆発と爆風が雲を徐々に剥いでいく。


「はっはっは。これはすごいな」


 雲が晴れ、浮遊する城の下部が露になる。

 それはそのまま、空飛ぶ島に違いなかった。

 肥大した結晶のような岩。その上にある平地に、巨大な白色の城塞が聳え立っている。

 そして、ソレを守るようにして、何かが周囲に展開していた。


「あれほどの砲撃を受け手なお無傷……間違いない。あそこで飛んでる蚊トンボみたいなのは、天使だろうね」


 ほぼ全てが純白の甲冑を着込んだ騎士の姿に、天使の白い翼を生やしている。

 剣、槍と盾を携えていながら、彼らは魔法陣を描くような配置で陣形を組んでいる。

 先ほどの砲撃ならば、通常の物質なら消し炭に出来るはず。


「霊力か、神力か……まあいい」

「み、見たか! 我らが守護天使様のお力を」

「朱、処分だ」


 ドクは楽しそうな狂喜の笑みを浮かべていながら、つまらなそうに呟いた。

 瞬間、空気を弾く音と共に、神の使者の首から上が消し飛ぶ。


おう。やっとか」


 朱は見事に神の使者を屠った。

 ただし、ドクの背後に隠れたまま、背後から撃ち抜いて、だ。

 神の使者がどうっと倒れたと同時に、両端の騎士が襲い掛かる。


「ハハッ!」


 朱はドクの身体を左の騎士へ蹴り飛ばし、右の騎士にしこたま弾丸を浴びせる。

 大口径の銃は容易く鎧に風穴を開け、血を噴出しながら騎士は倒れる。

 左の騎士は容赦なく蹴り飛ばされたドクを斜めに斬り伏せられる。


 そして、騎士は朱に近づこうとして……倒れた。

 その背後には朱、ではなく忍び装束の影、紅の姿があった。


「紅、久方ぶりの戦場だ。踊るとしよう」

「……私は争いは好まぬ」

「相変わらずめ。おいドク、これからどうする」


 と、朱は切断されたドクの肉体に語りかける。

 さすがに生きてはいないはず。その予想を、通信機のような音質の悪い音声が覆した。


「いやぁ、相変わらずは君もだよ。手荒だなぁ」


 その様子に結城とクロードも言葉を失ってしまった。

 ふとドクは愉快そうに笑う。


「はは、まさか怖ろしい敵にみすみす本体を晒すほど狂ってはいないんでね。これはただのアンドロイド。本物は君達が居た研究室に潜んでいたのだよ。ハッハッハ」

「いいからさっさと指示を出せ。気狂い博士」


 するとアンドロイドがキリキリと首の方向を曲げ、結城の方を向いた。


「うわっ、こっち向いた……」

「さて、結城。君は全員を引き連れて、あの城塞に向かってボスを叩いてくれ。そこの階段を登っていけばいいよ」

「これ、誰を倒せばいいんだ?


 神の使いとの戦い。自分たちはいったい何者を相手にすればいいのか。


「さて、それについては……」


 おもむろに朱がドクの首をナイフで切断し、髪を掴んで持ち上げる。


「時間が惜しい。昇りながら聞け」

「えぇ……」




 神が来訪しようとも、いつもように薄暗い研究室。いつものように闇を照らすモニターの光。

 そして照らされる、いつものドクがそこにいた。


「さぁて、では始めようか諸君。君達の理想が生きるか死ぬか、すべては諸君の、これまでの研鑽の度合いで決まるよ?」



 地下深く、事故が起きたらすぐさま隔壁を閉じて爆破すれば問題ないという惨たらしい設計で築き上げられた、生物兵器地下研究室。


「クッフッフ……とうとう神が来たか。ついに我々の研究成果を見せ付ける時が来たな」


 巨大なカプセルが並ぶ研究室ラボラトリー。培養液に浸るのは、どれもこれもが異形の極みであった。


「キシシ……我らが最高傑作、L生物ならば、必ず神の領域に達することが出来るでしょうナァ?」


 ドクにも及ぶかと思われる狂気の瞳を持つ研究者達は、コンソールを操って、ついにその封印を解く。

 カプセルの中から液体が抜かれ、異形たちはゆっくりと目を醒ます。


「あぁ、なんて美しい姿……さあ神域の可能性を持つ愛し子らよ、いまこそ……あれ?」


 まず、筋骨隆々の異形の一体。左胸部が開き、巨大な眼が覗く。

 それはいつぞやの、絶滅の理想者を彷彿とさせる外観だった。




 遠くから爆音が聞こえてきたかと思えば、今度は地下から震動が響いてくる。


「まったく、下の奴らは学習しないな。また事後処理で異能者を頼ることになるぞ。さて」


 ドッグの中は沸いていた。

 ついに訪れた神の軍勢との対決、己の理想と技術の結晶を披露する空前絶後の機会なのだからだ。

 MGシリーズが居ない今、兵器部門ミリタリーは次々と新兵器の出撃準備を終える。


 生身の人間が乗れば即時ミンチと化す性能にAIと電子化した人格を搭載した戦闘機。

 搭乗者の負荷を緩和させる機能を搭載し、あくまで生身の手動にこだわるパイロットが乗る戦闘機。

 ステルス迷彩、全方位ミサイル、レールガン、レーザー兵器、様々な兵装を積んだ人型兵器。

 パワードスーツを着込んだ兵士、人造人間……幾多もの傑作が格納庫から出撃し、戦地へと至る。


 地にはすでに純白の衣を纏う聖人と、白銀の鎧を備える聖騎士が戦列を組んでいた。

 空は純白の翼を羽ばたかせる天使の兵が覆い、逃げ場などすでにないと突きつけるようであった。




 異能者はミリタリーやクリーチャーが打ち漏らし、街に侵入してきた使途を排除する役目を負っていた。

 理想戦争を経て、異能の扱いなどもはや慣れたものである。

 ビルの上で観測するのはアクアマリン。水で巨大なレンズを作り、遠くの様子を見ている。


「私としては、前線で戦いたかったんですけどね。せっかくファンタズマゴリアで水を使役できるのですから」

「そんなの街の住人の身代わりにするのが最適でしょ。力に目覚めたせいで頭が回らなくなった?」


 イヤホン通信機越しに痛烈な批判をするのはガイアモンド。MGシリーズを相手に手間取ったのがよほど癪だったのか、かなり辛辣な物言いをする。


「なんでもいいが、体力の温存を忘れるな。俺達がやるのは時間稼ぎに過ぎない」


 オーバーヒートは変わらず、名前に似合わない冷静さであった。


「ええ。住民の避難が終わり次第、彼らと合流しなければ」

「あいつらだけで十分そうなもんだけどね」


 結城たちと同行しているユートピアチームは朱と、空を飛べるMGシリーズとゾーイのみ。

 異能者もやりようによっては飛べないことも無いが、彼らには別の重要な役割があった。




 ユートピアのみならず、アルカディアにも神の軍勢は迫りつつあった。

 突如、城の頂上にまで伸びてきた白の階段。神の使いを名乗る者。

 しかし彼らはアルカの指示によって待機していた蓮華に一瞬にして始末された。


「神様倒したらいよいよ最強になれそうな気がするぜ!」


 飛空挺に乗り空飛ぶ天使の群れを眺めている蓮華。


「そうだね、蓮華ちゃん……」


 そしていつものよう蓮華の隣にいるローラ。しかしその表情はどこか暗い。


「どうしたんだローラ。元気が無いな?」

「うん……ほら、私は一応魔女だから。神様とかそういうのには因縁というか、ちょっと思うところがあって」

「そっか。まあでもローラなら勝てるさ!」

「ありがとう、蓮華ちゃん。私も頑張るね」


 蓮華のいつもどおりの溌剌の笑みに元気を貰ったローラは精一杯の微笑で返した。


「さぁて、前の戦争より楽しめるといいな!」


 蓮華は挑発的に、天使達に拳を向けた。

 そんな彼女を見て、苦笑する少女。


「相変わらずですね。あのお二人は……」

「まあ、あの二人は特別だからな」


 飛空挺団と同じく、飛行する細かな影。

 かつて鉄の鳥と呼ばれたユートピアの戦闘機にも劣らぬ加速性と、勝る機動性を誇るは、竜騎士と魔女の駆る飛竜団。

 その先頭を飾るは、かつて理想戦争においてドクの実験兵器を撃破する役割を果たした一組。

 清らかな水を思わせる水色の髪と瞳を持つ魔法使い。タイプはウォーロック、職は精霊使い。

 その名はセレナ・アクエリアス。

 相変わらず地味なフードを被り、子供っぽいステッキを小さな手でしっかりと握る。

 

「魔とは超常なるモノ。理不尽と不条理の密なるもの……それなら、聖人の奇跡にだって対抗できるはずです!」

「ああ。セレナならきっと出来るさ。ウィンもそう思うだろ?」


 羽ばたく飛竜が甲高く短い鳴き声で応える。

 セレナの相方であり、前側に座る竜騎士の男。

 短めだった黒髪は少し伸び、大人の落ち着きを体得した青年。

 鉄の鳥をも翻弄する超一流の腕を持つ男。名は竜人。


「でも良かったのか? 下で友人の加勢に行ったほうが……」

「大丈夫ですよ。あの子なら」


 セレナは断言する。いつもの内気な彼女とは思えない、確信に満ちた声で。




 空は飛空挺に乗った魔女たちと、飛竜団、そして天使の白い翼に喧嘩を売るかのような黒い羽の鴉天狗が対抗している頃、陸でも聖人や聖騎士に遅れを取らない戦列が組まれていた。

 アトランティスからありったけの武装をかき集め、大隊が並ぶ。

 そしてその先頭に立つのは一人の少女。


「本当に、本当に大丈夫なんだな?」

「ええ。大丈夫ですよお父様。だからこれ以上グレイを待たせないでください」


 白肌白髪に青の瞳。まだ幼いながらも、装備は抜かりなく傭兵のそれ。

 隣の父親を、苦笑しながら促す。

 

「ほら、グレイさんが待ってますよ」

「そうだぞ、俺が待ってるぞ」

「いやでもなぁ……その歳で大隊指揮なんて、傭兵のやるようなことじゃないぞ」

「そんなの知ったこっちゃないです。死んだら本人の責任ですから」


 おおう、と父親は顔を覆う。

 対して背後にいるグレイは愉快そうに笑っていた。


「いやぁ、随分と朱の影響を受けたもんだなぁ。あとはあれか、ガンダーラでの」

「いいや、グレイ。これは私自身が掴んだこと。これは人にあげようとしてあげれるものじゃない」

「まったく、とんだ眠れる獅子だったというわけだ。そらザック、いい加減行くぞ」


 グレイがザックの襟を掴んで引きずっていく。


「何かあったらすぐに無線で言うんだぞ! アイス!アイスぅううううう!!!」


 アイスはやれやれと首を横に振る。


「まったく、過保護な親ってのは厄介だ。こっちの根が腐らされる」


 アイス・バイエルン。理想戦争ではザックと共に戦場デビュー。ガンダーラでラガーを倒すが、その後朱に飼われ、一時はユートピアのドクの元で結城たちと敵対した。

 しかし、今では朱の元を離れ、圧倒的戦闘スキルで戦争ごっこの覇者に君臨している。


「アイス」


 振り返ると、そこには懐かしい友人の顔があった。

 声をかけた方が、まるで驚いたような表情を見せる。


「久しぶりだな、レイア」

「久しぶり……しばらく見ないうちに、変わったようだな」

「そっちこそ、随分と様変わりしたみたいだ。前はすぐに噛み付きそうな走狗みたいだったのに」

「そんな風に思われてたのか……」


 長い茶髪と鋭い獣の眼光を持つ、両腕に鉤爪を装着した少女。

 レイア。アマゾネスの王女。

 理想戦争でアイスと面識がある。安全無欠の勇者と共闘し、ガンダーラ防衛で活躍した。


「そろそろ始まる。何かあるのか?」


 まるで銃身のように冷たいアイスの素っ気無さに、レイアは途惑っていた。

 すると、アイスは溜息を一つこぼす。


「これが終わったら、あの時みたいに力試しでもしてみるか」

「……!」


 レイアははっと目を開き、そして獣のような笑みを浮かべた。


「ああ、望むところだ。アマゾネスの本当の力、人間のお前に披露してやる」


 レイアは踵を返して会い方のところへ戻る。


「もういいのですか?」

「ああ、十分だ」


 金色の髪のエルフの問いに、レイアは満足そうに返した。


「正直驚いた。人間はあんなにも変貌するものなのか」

「ええ、人間とは、強い意志を持った途端に強くなったりするのですね」


 噂には聞いていたアイス・バイエルンの活躍。

 そしてその豹変ぶりは、レイアの想像以上だった。


「さて、それじゃあ私達も配置につきましょうか。一応は長ですからね」


 ティターナとレイアは、自らが率いる隊の先頭に立った。

 エルフとアマゾネスの混合部隊。剣と弓、そして魔法をもって神の使いに挑む。



「いやぁ、すごかったなぁ。あのアイスの目。もうアレはガチな奴だ」

「ふらっとどっか行って、ふらっと戻ってきたかと思えばあれだぞ? もうパパどうしたらいいか……」

「諦めろよ。むしろ傭兵として早熟してくれたほうが、下手打って死なれるよりマシだろ。なぁ、サリマ?」

「……えっ、あっはい」


 集団から離れ、グレイとザック、そしてサリマはチームの集合地点へと向かう。

 サリマ。ガンダーラ出身の、傭兵見習いである。

 今はグレイに傭兵としての技術を仕込まれている。


「上の友人が気になるか?」

「い、いえ。すいません」

「いいさいいさ。俺だってアイツのことが気になってる。まあアイツはなんだかんだやる男だから心配要らないが」


 短髪の逆立つ赤髪に、眩しい爽やかな笑みは、傭兵にしては空気が軽い上に、良識人といった雰囲気を歓呼しだしている。

 何の変哲も無い傭兵なので力は無いが、傭兵としての実力は確かで、頭が切れるため作戦立案に関わったりなどしていた。今ではサリマに傭兵教育を施している。

 一方、ザックはアイスの豹変振りに面くらい、父親としての自身をなくしてしまっている。


「その友達と生きて再会するためにも、踏ん張らないとな」

「はい。先生」




 神が率いる軍勢。神の集団といえばまず最初に宗教が思いつく。

 先ほどの老人がいわゆる布教を目的とした信徒であるとすれば分かりやすい。あの集団は一つの巨大な宗教団体と見て間違いない。

 そこに人間がいるのは恐らく、ネクストワールドが理想を抱く人間を転生させたように、死ぬ時まで信仰を捨てなかった者たちが拾われたのだろう。

 となれば、今回の相手のボスは二通りの予想が出来る。

 ひとつは教祖。その神を最初に信仰し、広めた偉大とされる存在。

 とある宗教を参考にすれば、その者はあらゆる奇跡を起こし、人を救ったり、悪魔を退けたりしてきた。

 もう一つは教皇。信仰する者たちを実際に統治する者だ。


 ちなみに、相手が何の神でなんの宗教なのかは分からない。

 というのも、神というのは世界ごとに存在し、どの世界の神を相手にしているのかは、実際に会っているであろう『彼』しか分からないのである。


「というわけで、君たちの任務はこの先にいるであろう、教祖か教皇、またはそれに類するボスを撃破すること」

「敵は聖職者ってわけか」


 結城たちが階段を上っていく間にも、周囲では激しい戦闘が行われている。

 戦闘機の機関砲が天使の羽に穴を穿ち、ミサイルがイカロスのように焼き落とす。

 地獄から這い出た悪魔のようなクリーチャーは天使を食ったり飲み込んでいく。


 ただでさえ手すりの無くて怖ろしい空中階段を、戦闘の余波を受けながら駆け上がっているのだ。

 朱がランタンのようにぶら下げるアンドロイド・ドクの頭部は、そんな中でも細かく解説してくれている。


「おっかねぇ……ていうか、そこかしこに天使がいるけど、そっちのほうが高位じゃない?」

「彼らはただの天の使い。パシリだよ。この世界に入った時点で、個人的理想を持たない存在はかなり弱体化される。それがこの世界のルールだからね」


 それは『彼』の計算のうちだったのだろうか。結城は考えるが、おそらく偶然ということにしたが、ふと彼が昔は神と通ずる存在であったと聞かされたことを思い出す。


「そうか。あいつは最初からこうなることまで考えていたのか。周到な」

「だろ? 私もそんな彼に惚れたんだ」

「えっ?」

「今度会ったらよろしく言っておいてくれたまえ?」


 ふと朱がドクの頭部を投げ捨てようとする。


「あー、朱? それはちょっとまずいなぁ」

「柄にもないことをほざくな。いつもより度を越して気持ちが悪い。このまま投げ捨てたいところだ」


「ひどいな。そりゃ私だって一応は女の子だ。淡い恋心を抱く時期だってあった」

「今は?」

「最高の実験サンプルになりそう」

「お前ほんっと最悪だな。これが終わったらさっさと死んでくれ」

「君が常識人ぶるのもどうかと思うなぁ。快楽殺人鬼シリアルキラー?」


 結城が見る限り、この二人、かなり仲が良いように見えた。

 それにしても階段は長く、辿り着いたころにはバテてしまいそうだった。



「ただ、かなり上位の天使はそれなりに強い意思を持っているだろうから警戒したほうがいいよ。神の分身ともいえる存在は、その理想も確固たるものだろうからね」

「なるほど、それは楽しみだな」


 呟くと、朱の眼がギロリと結城を見た。


「なんだ、お前。中々言うようになったな。お前なら私を殺せるか……」

「マスターに妙な目を向けないでください朱」


 レイランが結城と朱の間に割って入る。


「冗談だ。少なくとも、今は神の使いとやらに期待しておくとするか」

「マスター、彼女とはあまり関われるべきではありません」

「お、おう」

「ククッ」


 ふと思えば、レイランと初めて出会ったときは朱も一緒だった。

 またこうして、レイランと朱は同じ方向を向いて、同じ敵と相対している。それが不思議だった。

 友人、とはまた違うだろう。とはいえそこまで距離感は遠くない。


「マスター?」

「あっ、いや、なんでもない」

「マスター、この戦いが終わったら、マスターはご自身の世界を創られるのですか?」

「ああ。にしても、いまさら神に阻まれるだなんてな」


 いまさら。そう、いまさらである。

 結城にとって、神は干渉しない存在だった。

 前世、この妄想の願いは受け付けてもらえず、理想の祈りは聞き届けてもらえなかった。

 夢想は叶わず、空想も遥か遠く、手の届く場所には無い。

 そして結城は悟った。神は人を救ったりなどしないと。この世界に辿り着いたのは、同じく理想を抱く者のお陰であり、自身の力の賜物である。


「それを今更、神の勝手な理由で俺の理想を阻もうなどと……」

「ご安心を、マスターの道を阻む者は、たとえ神であろうとも斬り伏せてご覧に入れましょう」

「ふふっ、相変わらず頼もしいなぁレイランは」


 自分になど勿体無い。そう思わせるほどに。

 だからこそ、彼女の期待に応えなければならなかった。


「必ずこの理想は果たす。そしたら妄想の世界にご招待だ」

「今から楽しみです」


 レイランの浮かべた微笑は、やはり美の女神など霞むほどに美しい。

 結城は確信し、上を目指す。

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