初めて見る戦い
「敵襲!!」
馬車の外から鋭い声が響く。
「魔物だ!!」
馬車が急停止し、周囲が一気に騒がしくなる。
「殿下、お下がりください。」
ダンの危機迫った声が響くと同時に、騎士たちが素早く馬車を囲むように陣形を組む。
俺も思わず窓から外を覗いた。
そこには、牙を剥き出しにした巨大な狼のような魔物が5匹。
低く唸りながら、今にも飛びかかろうとしている。
「団長!私たちも出ます!」
若い騎士の一人が剣を抜き、前へ出ようとする。
「待て。」
団長は静かに右手を上げた。
「ここは俺に任せろ。」
「ですが……!」
「お前たちの役目は殿下をお守りすることだ。」
「1匹たりとも馬車へ近づけるな。」
騎士たちは一瞬だけ迷いを見せたが、すぐに力強く頷いた。
「はっ!」
全員が馬車を囲み、守りを固める。
その様子を見ていたエルフの女性副団長が静かに前へ歩み出た。
「団長。」
「シルフィーナか。援護を頼む。」
「承知しました。」
副団長、シルフィーナは背中に背負っていた弓を手に取り、1本の矢をかまえる。
その瞬間、柔らかな風が彼女の周囲を包み込んだ。
風が渦を巻くように矢へ集まり、青白い光を纏っていく。
(あれが……魔法?)
思わず息を呑む。
一方、ダンは大剣をかまえ、刃が陽の光を反射し、美しく輝く。
「《炎纏》」
静かにそう呟くと、剣身を赤い炎が包み込んだ。
炎は激しく燃え上がることなく、まるで剣そのものが熱を帯びたように揺らめいている。
「行くぞ。」
ダンは一歩踏み込む。
次の瞬間、その姿が消えた。
「速っ……!」
目で追えない。
気付いた時には、1匹目の魔物の懐へ入り込んでいた。
振り抜かれた剣が閃く。
鮮血が舞い、魔物は悲鳴を上げる間もなく倒れ伏した。
間髪入れず、2匹目が飛びかかる。
ダンは体をわずかに捻るだけで牙をかわし、そのまま剣を横1文字に薙ぐ。
炎を纏った刃が魔物を斬り裂き、巨体が地面へ崩れ落ちた。
「ギャアァァッ!!」
残る3匹が一斉に襲いかかる。
その瞬間だった。
ヒュンッ!
鋭い風切り音が森に響く。
副団長が放った矢が一直線に飛び、1匹の額を正確に射抜いた。
さらに風に乗った矢は軌道を変え、そのまま2匹目の肩口へ突き刺さる。
「すごい……。」
俺は思わず呟いていた。
ダンはその隙を逃さない。
一気に距離を詰め、最後の2匹へ斬り込む。
炎を纏った剣が閃くたび、魔物は反撃する間もなく倒れていく。
わずか数十秒。
5匹いた魔物は、1匹残らず地面に倒れていた。
静寂が戻る。
団長は剣を軽く振り、付着した血を払うと静かに鞘へ納めた。
「周囲を警戒しろ。」
「負傷者の確認を。」
「はっ!」
騎士たちは素早く動き始める。
シルフィーナも弓を背負い直し、森の奥へ鋭い視線を向けていた。
俺だけが、その場に立ち尽くしていた。
魔法。
剣技。
そして、人間とは思えないほどの強さ。
昨日まで画面の向こうで見ていた世界が、今、目の前にある。
「……すごい。」
その一言しか、出てこなかった。




