夢の始まり
初投稿です。お願いします。
第1話 夢の始まり
「先生、本当にありがとうございました。」
病棟の廊下に、穏やかな声が響く。
「おかげさまで、予定より早く退院できることになりました。」
そう言って笑顔を見せる患者さんは、1ヶ月前まで立つことすら困難だった。
今では杖を使い、自分の足でしっかりと歩いている。
隣に立つご家族と一緒に何度も頭を下げていた。
「先生には感謝してもしきれません。本当にありがとうございました。」
「いえいえ。元気に歩けるようになって本当によかったです。」
俺も自然と笑みがこぼれる。
「ここまで頑張ってこられたのは小畑さんご本人です。私は、そのお手伝いをしただけですよ。」
「それでも先生のおかげです。」
患者さんは照れくさそうに笑う。
「退院してからも無理しない程度に、運動を続けましょうね。」
「はい!」
元気よく返事をした患者さんは、ご家族と一緒に病院をあとにした。
その後ろ姿が見えなくなるまで、俺は静かに見送る。
「退院か……。」
患者さんが元気になって帰っていく姿を見るたび、この仕事を選んでよかったと思う。
俺の名前はユウキ。理学療法士になって八年。
今年で30歳になった。
仕事は忙しい。
思い通りにいかないこともある。
それでも、「ありがとう。」の一言だけで、また頑張ろうと思えるやりがいのある仕事だ。
「ユウキさん、お疲れ様です!」
後輩が笑顔で声をかけてくる。
「お疲れ様。また明日。」
軽く手を振り、更衣室へ向かった。
病院を出る頃には、外はすっかり暗くなっていた。
コンビニで夕飯を買い、アパートへ帰る。
シャワーを浴び、食事を済ませ、ベッドに横になる。
ふと携帯を手に取り、お気に入りの動画アプリを開いた。
見るのは、大好きな異世界系アニメ。
剣と魔法。
冒険者ギルド。
魔法学園。
エルフや獣人。
そんな世界に、子どもの頃からずっと憧れていた。
「……いいなぁ。」
思わず小さく笑う。
「こんな世界に行ってみたい。」
アニメを最後まで見届けると、携帯を枕元へ置いた。
時計を見ると、夜11時をまわろうとしている。
「明日も早いし、そろそろ寝るか。」
部屋の明かりを消し、布団へ潜り込む。
「おやすみ。」
ゆっくりと目を閉じる。
疲れた体は、あっという間に眠りへ落ちていった。
どれくらい眠っていただろうか。
「……。」
不思議な静けさに包まれ、ゆっくりと目を開く。
辺り一面、真っ白だった。
天井もない。
床もない。
どこまでも白い世界が広がっている。
「……夢?」
思わず呟いた、その時。
「初めまして。」
優しく澄んだ声が聞こえた。
振り向くと、一人の女性が立っていた。
透き通るような銀色の長い髪。
見る者すべてを惹きつけるほど整った顔立ち。
そして、どこか安心感を与える穏やかな微笑み。
「私は創造神、エリシアと申します。」
突然の自己紹介に、俺は目を丸くした。
「創造神、エリシア様……ですか。」
少し考えてから、小さく笑う。
「なんだか、ずいぶん不思議な夢ですね。」
エリシアも優しく微笑む。
「そう思われても無理はありません。」
「それで……エリシア様が、どうして俺の夢に?」
「あなたに、お話ししたいことがあったのです。」
その声は、とても穏やかだった。
「あなたは、小さな頃から剣や魔法の異世界に憧れていましたね。」
「はい。」
迷うことなく頷く。
「ゲームも、漫画も、アニメも……異世界の作品は昔から大好きです。」
「もし本当にそんな世界があるなら、行ってみたいって、ずっと思っていました。」
エリシアは嬉しそうに微笑んだ。
「その願いを、私は知っていました。」
「え……?」
「ですから。」
エリシアは一歩近づく。
「あなたの願いを、叶えてあげます。」
「願い……ですか?」
「はい。」
「あなたを、異世界へ招待します。」
「えっ……?」
さすがに言葉を失った。
異世界。
そんな話、現実なら信じるはずがない。
でも。
夢だからこそ、自然と受け入れている自分がいた。
「もちろん、急に信じろと言われても難しいでしょう。」
「はい……。」
苦笑しながら頷く。
「でも、夢なら少しワクワクします。」
その言葉に、エリシアはくすっと笑った。
「まるで夢のようなお話ですよね。」
俺は頭をかきながら笑った。
「夢なら……楽しませてもらいます。」
創造神は優しく頷く。
「ありがとうございます。」
そして、ゆっくりと手を差し伸べた。
「それでは。」
白い世界が光に包まれていく。
眩しい。
そう思った瞬間、意識はゆっくりと沈んでいった。
「……もし。」
どこからか、優しい女性の声が聞こえる。
「もし……大丈夫ですか?」
まだ眠い。
きっと夢の続きだ。
「あと……五分だけ……。」
寝ぼけたままそう答えると、女性はほっとしたような声を漏らした。
「よかった……!」
「目を覚ましてくださったんですね。」
重たいまぶたをゆっくりと開く。
目の前には、陽の光を受けて輝く金色の髪。
透き通るような青い瞳。
心配そうにこちらを見つめる、美しい少女がいた。
「……大丈夫ですか?」
その声と同時に、心地よい風が頬をなでる。
草の香り。
青く澄んだ空。
俺はゆっくりと体を起こし、辺りを見回した。
「……え。」
ここ……
どこ、だ?




