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Act.4 裏の世界

前後左右あらゆるところにある扉から彼らの仲間らしき人間がぞろぞろとやってくる。中には剣や斧などの刃物を持った人までいる。

 大人数を相手にするのは慣れているし、今はローグという頼もしい仲間だっているんだ。


「この人数相手でも大丈夫か?」


「あぁ、大人数の乱闘は慣れているし問題ないわ。」

 

 「じゃあローグ頼みだ。ジャックを守ってくれ。」


「あぁ、任せな。」


 武器を手に入れることができればこの後がかなり有利になる。まずは武器を持っているやつをやるのが無難だろう。二、三歩助走をして武器を持つ男の頬へと殴る。その時男はこれを避け、俺の一撃は頬をかすめただけだった。しかしこれは予想外のことではない。ティルポスでたった一人7年生きた俺にとっては次の策も当然用意してる。今のあいつの顔は誰が見てもわかるほど安心感が漏れまくっている。一歩踏み込み、無防備な脇腹に拳を叩き込んだ。彼が斧を振ろうとした時には既に遅く気付かぬ間に気絶した。そして斧を奪いこいつらのボスらしき男の方へと走っていく。

 

「うおおおおおおおお!!」


「殺っちまえ!!」


 何か声が聞こえたので周りを見てみるとさっきまで自分たち含めて数人しかいなかったのが20人以上に増えている。相手を応援する人たちが過半数を占めているが中には俺たちを応援する人たちもいる。なぜだろう、いつもよりも遥かに強くなっている気がする。

ボスらしき男は今ローグとの戦闘でこっちに意識が向いていない。これなら気付かれずに倒せる!

 俺はあいつに向かって斧を投げようとする。いくらこういう場面を経験してもやろうとする時の緊張感はいつまでたっても治らない。こういう時こそ冷静にならなければ、ミスをしてもまた他の男から奪えばいいんだ、落ち着け、俺。

 覚悟を決め投げる。軌道は問題なく男の方へと向かっている。後少しで届く。それに男は何も気づいていない。だけど空気を切る音が想像以上に響いていたのか一人の人がこちら側を振り向いた。そしてその人は死ぬことへの抵抗感は全くないのかそれとも声をかけても間に合わないと察したのか斧の方へと飛び込んだ。もちろん、そいつには斧が胸に突き刺さり、大量の血を流しながら倒れている。

 俺は攻撃が当たらなかったことなんてすっかり忘れ、今の人の行動にすごく驚いた。なぜ他人のためにここまで自分を犠牲にできるのか?そこまで他人のことが重要なのか?これが友情なのか?俺には何一つとわからない。


「大丈夫か!」


 彼らの仲間の一人が心配するがボスは気にしなかった。

 

「こいつのことは後だ!さっさとこいつらを殺すぞ!後あれ持ってこい!」


 

「いいぞ!いいぞ!無名集団がここのトップを倒す展開はアツすぎるな!!」


 観客の熱量はどんどんと熱くなっていく。同時に2階席、3階席の人たちも俺たちのほうを見ていて、今、この闘技場の視線は全て俺たちに集まっている。なんだかすごく気分がいい。応援されてやる気がでるというのはこういうことなのか。

 俺が一人を戦闘不能にし、ローグは10人近くを仕留めている。ジャックを守りながら戦って、身動きが取りづらいというのに俺以上に戦果をあげている。それだけじゃない、彼女はボスにも目をつけられているというのにだ。ここまで強い人を今までに見たことがあるだろうか。しかもこれが女性だというのが最も恐ろしい。とは言っても奇襲はバレて今の状況はいいとはいえない。それにあいつが言っていた()()というのがすごく怪しい。おそらく何か奥の手を隠しているのだろう。

 ボスはさっきの斧の攻撃の影響で俺しか眼中に入っていない。さらにあいつは怒りが爆発する寸前だ。怒るということはつまり判断力が鈍る。その点でいえばこちらは有利と言えるかもしれない。今が倒すチャンスだ。そうして俺は再びさっきと同じように助走をつけ男の腹へと殴る。拳は命中し一撃で胃袋が破れたかのように男は倒れる。しかし同時に胸騒ぎがした。何か嫌な予感がする。


「鎖よ、獲物を絡みとれ!!『罪縛の鎖(ギルティー・チェイン)


「ク、クソ。動けねぇ。」


 床から鎖が現れ俺とローグ、ジャックの手足を拘束された。

 なぜこいつらが魔術を使えるんだ?まさか国と繋がっているのか?だとしたらまだ何かしらの魔道具を持っているはずだ。そしたらこっちの勝率は皆無に近しい。

 今すぐに逃げようとしても全員が拘束されている。体が動けない以上もうどうしようもできないから後は運任せだ。正直なところ神頼みをするようなやつは好きではないし、したくもない。しかし何も抗えないこの状況ではもうこれしか残された選択肢はない。

 ボスが俺のほうにやって来た。彼の殺気はドバドバと滝の如く漏れている。


「ボス、あの女と男を先に殺らなくていいんですか?あいつらは戦えそうにないんですよ。」


「黙れ!!私は今すぐにこの男を殺さないと気が済まない。こんな屈辱初めてだ。まずは手足を切り裂いてからとことん苦しませて殺さないとなぁ。」


 あいつは言うまでもなく本気で殺す気だ。死にかけた場面は何度もあるが手足を魔術で拘束され、ここまで絶望的なのは初めてだ。生き延びようという気も起きず俺は完全に諦めていた。しかしここでこんなクソみたいな人生で終わる訳にはいかない。せっかくの新しい人生が始まるんだ!!ここで諦めてどうする。己を鼓舞しまだ足掻こうと心を切り替えようとする。


「死ねぇ!!!」


 彼の拳が俺の方へとやってくる。やってくるまでの時間は信じられないほど長かった。


「鎖よ、獲物を絡みとれ!!『罪縛の鎖(ギルティー・チェイン)


 瞑った目をおそるおそる開けるとそこには俺の顔面のわずか数センチ手前で、新たな鎖に全身を縛り付けられ、何もない空間を殴ったまま静止しているボスの姿だった。どういうことだ?ローグの方を見ても拘束されたままだし、他の奴らも拘束されている。第3の勢力がやってきたのか?


「何勝手にここの魔道具使ってるんだ。許可を出した覚えはないぞ。」


 その声が聞こえた瞬間歓声は一斉に止み、静寂に包まれた。声だけで体が震えるほどの威圧感だ。戦ってもいないのにさっきの男とは段違いに強いと確信した。俺ですら勝てる確率は低いだろう。


「いくらここが無法地帯と言われてもここにはここのルールってもんがあるんだ。法は守らなくてもここの法は守らないと困るんだよ。責任は俺にすべてかかるんだ。お前らだって生きられなくなるかもしれないだろ。」


「す、すみません。オーナー。」


 さっきまで偉そうだった男は彼の前では頭は床につきそうなまでに下げる。同時に男は震えが止まらなく、汗が顎を伝い、床へと滴り落ちる。どうせあいつはこの後処刑されるのだからこんなにも焦っているのだろう。


「やったからには責任を取らないと困るからなこっちにこい。」


 そう言い、男は全員の鎖を解き、ボスと肩を組みながら奥へと進んでいった。その時の彼の顔はさっきの俺の顔と同じだった。

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