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Act.1 旅立ち

「クスリ……トルナ、、クスリ、カエセ。」


「@¥#&#▲€£-@々‘〒)」


 一人の男は俺の左腕にしがみつき、もう一人の女は肩をかじろうと近づいている。

 俺は女の顔面を殴り、男の腕を折った。こいつらを殴るたびにいつも思う、こんなのが同じ人間だったんだと。そこら辺に生きているネズミなんかと変わらない。軽蔑しようとすら思えないほど乖離しており、まるで人型の獣だ。

 薬物を没収し、中毒者を始末する仕事を始めたばかりの頃はこの人たちは夫婦だったのだろうか?この人たちを殺したら子供はどう思うだろうか?と考えていたが1年もすればそんな気持ちはもう微塵もない。ただ明日を生きるために殺して金を得るだけだ。これじゃああんなのと一緒だ。薬物をやっていないだけで俺は既に人型の獣なのだ。


 周りには真昼間に働きもせず道端に寝ている廃人、ゴミ、朽ちかけた建物ばかりが見える。もうここに住んで7年も経つというのに未だにこの腐敗臭には慣れない。むしろここに慣れてしまったら俺もいよいよ廃人の仲間入りだ。

 もちろんこの街には廃人ばかりではない。この政府ですら手を出せない治安じゃ必然的に誰かと一緒に行動することになるからお互いを守るためにクランを作る。俺にとってこいつらは何度も喧嘩になっているが弱すぎて相手にすらならないから自立できていない弱者としか見ていない。けれどもこいつらを見るたびにもしクランの中にいたらどんな夢を抱いて、どんな仲間と一緒に過ごしただろうかと妄想してしまう。

 

 5分ほど経ってレンガ造りのボロい建物に着いた。ボロいとは言ったものの周りも似たような雰囲気だし、中心街を知らない人からすれば普通だと思うかもしれない。


「ブリスクさん、今日の回収した薬物持ってきました。」


「あぁ、助かる。これが今日の報酬だ。」

 

 茶色の布袋を渡されたが袋なんていらないほどの少量。それでもここの中では高収入だ。銀行に給料が振り込まれそこから下ろすシステムを当たり前だと思っていた俺にとってはかなり衝撃的だったのをよく覚えている。ここにきて俺は相当恵まれていたのだとつくづく思う。


「そういえば、お前ここで働き始めてから6年経つな。」


 普段は回収したものを渡して報酬をもらって特に話しをせず帰るというのに珍しい。何かやらかしたのだろうか。


「別に怒るわけじゃないから安心しろ。ただの雑談だ。実は私元々は官僚をしていたんだ。」


  彼がプライベートのことを話すなんてありえないし、知っている者は誰一人といなかった。とは言っても俺はさほど驚かなかった。むしろなぜこの人ほどの人物がこの職をしているのかが不思議だったからだ。


「あの頃はよくお前の母親のブリギッテにはよくしてもらったんだ。でもお前の知っている通り11年前に亡くなった。しかも事件の場に偶然居合わせたうえ、ダフォミラ人だったからというだけで犯人扱いされ、拷問の末に死んだからな。その時私は人種だけで決めつけることに心底腹が立ち、訴えてやろうとしたらこうなってしまったんだ。」


「ブリスクさんはダフォミラ人でもないのになぜできなかったんですか?」


「犯人と決めつけた警官は親父さんがお偉いさんでな。しかも本人は凄腕警官。その人を辞めさせるわけにはいかないし、普通の人間だった私を解雇したほうが良かったんだ。」


「じゃあ俺のこともここに来る前から知ってたんですか?」


「知ってはいたが会ったことはないな。まあこの話はここまでにして本題に入ろうか。お前に渡したいものがあってな。」


 そう言って渡されたのは一枚の紙だった。


「これはアムス大帝国行きのチケットだ。いつも任務をこなしてくれているお礼ってことで私個人の報酬だ。お前は賢いしこんなところで廃人の始末なんかするべきじゃない。世界一の大国に行ってまともなところで働いてこい。それにあそこならお前と同じ目を持っているしあの時みたいに目が理由で働けないことはないはずだ。」

 

これは俺の給料ですら1週間一切金を使わずにやっと買えるものだ。俺より立場は上だとはいえこんな高価なものを渡すなんて信じられない。これでクソみたいな人生を変えられる最初で最後のチャンス。しかし今の収入はこの地域ではとても良い。さらにここから離れるということはまた職を探さなければならないということになる。7年前の時みたいにアムス人特有の翠眼を理由に雇ってもらえなかったあの頃と同じ思いをしなければならないかもしれない。もしされるなら今回はダフォミラ人の特徴である褐色肌だということだろう。しかもダフォミラはアムスの植民地。少なくとも下に見られている。ブリスクさんのような差別をしないような人に出会えればいいが保証はない。これがアムス人とダフォミラ人のハーフである半端者()の運命なのだ。それでも俺はこの7年間明日死んでもおかしくないスラム街ティルポスで誰の手も借りずに生きてきたんだ。絶対に大丈夫だ、なんだかんだで生き抜いていけるに違いない。それに今まで獣同然の薬物中毒者を何百人と殺してきてるんだ、自己防衛だってできる。

 俺は決心した。もうこの意思は誰がなんと言おうと揺るがないと確信している。

 

「ありがとうございます、ブリスクさん。俺はこれでアムスに行って新しい人生を始めようと思います。今までありがとうございました。」


 チケットを握りしめながら彼に頭を下げて俺はここを出た。


「これからの人生楽しめよな!!二度とこんなところに戻ってくんなよ。」


彼と別れるのは少し寂しい。知り合いの中で唯一のまともで尊敬できる人だからだ。

 今は心配なんて一つもない。強く縛り付けていた鎖から解放された気分だ。一生叶わないと思った新しい環境に行けることになったからだ。父親の故郷はどんなところなのか、どんな人に出会うのか、楽しみでしかたなかった。この気持ちはあの頃家族みんなで暮らしていた時以来だ。

 こうして俺の第二の人生が幕を開ける。

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