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聖女の文献を確認する作業は日を跨いでも行われた。
想像していた以上に資料は多く、仕分けだけでも時間がかかってしまう。
食堂へ行って夕食をとる余裕もなかった二人は、軽食を談話室に届けてもらいキリが良いタイミングで食事をとった。
「思った以上に記録がたくさん残っているのですね・・」
「そうだね・・・私もここまで多くの文献や聖女の物が残されているとは思わなかったよ」
たくさんの資料に囲まれて顔を綻ばせながら話すルナセイラに、セイフィオスも感慨深げに頷き同調した。
恐らく癒しの力の聖女ローナが記していたであろう日記や、侍女たちの報告日誌。聖女の一日の行動の記録を取った書類など、全てを残してくれていたのだろう。しかも、どの冊子も厳重に保管されていたようで、綻びも殆どない綺麗な状態だった。
「この記録を読み進めれば、間違いなく個別ではなく複数、もしくは範囲的な治癒も可能になりそうです!」
「そうだね!・・かなり時間はかかりそうだけれど、時間もない。二人で手分けして読み進めていこう!」
二人は頷き合い文献を読み進めていく。
***
「あの・・聖女の日記に、杖の話が幾度も出てくるのですが、杖はまだここに残っているのでしょうか?」
ルナセイラは疑問を口にする。
「こちらにも杖の話は何度も出てくるね!・・というか、この杖についている貴石が重要なんじゃないかなと・・私は思うんだよね・・」
「貴石・・ですか?」
神妙な面持ちで問うルナセイラに、コクリと頷き話を進める。
「うん、この貴石・・『リリベラの涙』というリュキスエントという石みたいなんだよね」
「リリベラの涙・・いかにも聖女に強い関連がありそうですね!」
「そうなんだよ、しかも、このリュキスエントていう貴石に関しては、聖魔法の使い手である聖女の持っていた杖にもはめ込まれている石なんだよ」
学園の図書室で調べた際、聖魔法の使い手の聖女は戦いの際杖を用いて魔獣を浄化した。と、記されていたことをルナセイラは覚えていた。
その杖の力は能力を高めるだけでなく、安定させるとも記されていたと覚えている。
――もし・・本当に聖魔法の聖女と同じ石で治癒の力が高まるのなら・・もしかして・・
「・・ということは、聖魔法を使う聖女と同じ貴石で私も魔獣を浄化できるようになるという可能性もあるということですよね?」
「可能性は高いね!」
「・・この部屋には杖らしきものが見当たらないのですが、父に確認してみましょうか?」
「頼むよ!」
すでに時間は日を跨ぎ深夜であった為、すぐに伯爵を呼ぶことはできなかった。その為、きりが良いという事にして二人もそれぞれ仮眠をとることにしたのだった。
***
「――杖・・ですか?」
「はい、文献の中で何度も登場するのですが、その杖にはめ込まれている『リリベラの涙』というリュキスエント石が聖女の力を高め、安定させる効果を出しているようなのです」
「そうなのですか?!・・実は杖はあるのですが・・はめ込まれていた石は劣化していたのかある日割れてしまいまして・・それ以来とりあえず保管増していたのですが、役に立たないかと思いこちらにはお持ちしなかったんです」
「石が劣化?!・・それでも・・杖を見せてもらえるだろうか」
「承知いたしました、殿下がそうおっしゃるのであればすぐにお持ち致します」
伯爵は恭しく頭を垂れると、すぐに立ち上がり部屋を後にした。
数十分経たぬうちに戻ってきた伯爵の手には確かに三十センチメートル程の長さの杖が握られている。
握られている杖には確かに石ははめ込まれていないが、わざわざ割れたリュキスエント石の欠片も伯爵はご丁寧に持ってきてくれた。
「・・これが聖女の杖・・ルナ・・一度握ってみてくれるかい?」
「はい・・」
伯爵から杖を受け取って握っていたセイフィオスはルナセイラへ杖を渡した。
握ってみても特に何も感じない。
――やっぱり石の方が大事なのかな?
ルナセイラは杖をテーブルに置いて、割れてしまったリュキスエント石の欠片に触れた。
――ぱぁぁああっ!!
ルナセイラが石の欠片を摘んだ瞬間、石から治癒の力を使った時と同じ光が溢れた。
――これは・・治癒の力!!
間違いなくリュキスエント石こそが能力アップの為のアイテムだった。
「ま・・間違いありません!!この石こそが・・治癒の力に必要な石です!!」
解決の糸口が掴めた喜びで思わず顔が綻んだ。
しかし、リュキスエント石は正常な形ではなかった。
「・・どうやら私たちは、『リリベラの涙』リュキスエント石を探さなければならないようだね・・」
苦笑しながらもセイフィオスは告げた。
苦笑もしたくなるのだ。
『リリベラの涙』とは、非常に貴重な石だったからである。
魔力溜まりの浄化後に発現すると言われている非常に貴重な石。
恐らくこれまでの聖女たちは、その発現した石を杖にはめ込んで能力アップを図っていたに違いない。そうなると、その石を探す必要があるのだが、これまでの魔力溜まりから発現したリュキスエント石は、全て王家が回収し、厳重に保管後次の聖女に武器として託されてきた。
魔力溜まりを浄化した後、聖女の使った杖がどうなったか記されていなかっただけでなく、杖事態残されていないことからも、恐らく治癒の力の聖女の杖と同じように、他の聖女たちの杖にはめ込まれたリュキスエント石も浄化後割れてしまったのだろう。
もし・・前回の浄化で生まれたリュキスエント石が残っていたとして・・その石は一つだけの可能性が高く、アイナが手にする可能性が非常に高い。
――・・どうしたら良いのだろう・・
再び出口の見えない迷路に迷い込んでしまったかのように絶望が顔を出す。
折角治癒の力を浄化に変えられると思っていたのが、ぬか喜びに変わってしまった衝撃は余程大きかったのだろう。
ルナセイラは摘んでいた石の欠片をぼーっと見つめていた。
「あの・・確実ではないのですが・・」
突然伯爵が話し始めた。
「実は私も治癒の力の聖女の文献を昔読んだことがありまして・・その時に、この治癒の力の聖女の杖が出来た経緯が書いてあった文献を読んだことがあったのです」
「作った経緯・・ですか?!」
「はい、私も杖がどのように聖女の力に影響を与えたのかはよくわからなかったのですが、興味深かったのは石を探す冒険をしたと記されていたことでした」
セイフィオスの問いに、伯爵は頷き話を続ける。
「石探し?!・・それは・・リュキスエントということ・・ですか?」
「恐らく・・そうでしょう。これらの文献のどこかに記されていたので後程探し出すことは可能だと思うのですが、その旅は過去の魔力溜まりの遺跡を調査していくというようなものでした。」
「それは確かにそうでしょう。魔力溜まりのあった遺跡からリュキスエントは発言したという文献を私も呼んだことがあります。・・ですが、もうすでに全て回収された後なのではないでしょうか?」
一瞬嬉し気に見えたセイフィオスの面持ちは再び陰る。
「・・それはわかりません」
「わからない?」
伯爵の言葉にセイフィオスは怪訝な眼差しを向けた。
「はい、どうやら石の発現のタイミングは浄化の直後ではないようなのです」
「どういうことです?」
「場所によって石の発現するタイミングが違うらしいのですよ。恐らく王家もそのことはわかってはいると思います・・しかし、何年も経ってから石が発現した場合、必ず全て回収できるでしょうか?・・もしくは・・発現が一度きりと限るでしょうか?」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた気がした。
三人の間に緊張が走り、たらればな妄想が頭をよぎる。
「・・探してみる価値は・・あるのでは?」
躊躇った二人に伯爵は口火を切って告げた。
「今までの魔力溜まりの遺跡を・・巡るのですか?」
「そういう事になりますね・・」
セイフィオスの問いにあっさりと答える伯爵だったが、話はそう簡単ではない。
「伯爵殿はそういうが、魔力溜まりの遺跡は現時点で十か所ある。しかも、その魔力溜まりのいずれかが新たな魔力溜まりとして復活する可能性も秘めている」
「そうですね」
「伯爵殿はその危険地帯へルナセイラ嬢を赴かせようというのか?」
緊迫した空気が漂う。
「それ以外に方法がありますか?」
「・・・・」
臆せず応えた伯爵に、二人は言葉を失った。
――それしか・・方法はない・・の?
まだ浄化できるかもわからないルナセイラが、たとえ優秀なセイフィオスを連れて遺跡を巡ったとしても、万が一魔力溜まりに遭遇して魔獣に襲われてしまったら対抗する術がない。
魔獣に対抗できるのは、浄化の力だけなのだから。
「・・ルナ・・本当は危険な橋は渡らせたくない・・しかし、今の時点で伯爵殿が言うように石を探す以外に手立てもないのが現状だ・・」
「そう・・ですね」
「私はたとえ自分の命の危険が迫ったとしても、ルナを優先すると誓える。しかし、ルナの気持ちを私は大切にしたい・・貴女はどうしたい?」
返事を求めるセイフィオスの表情は辛そうに見えた。
きっと想い人にそんな危険を背負わせたくないのだろう。
それはルナセイラも同じであった。
自分が「遺跡を巡る」と言えば、間違いなくセイフィオスも同行するに違いない。
自分の死はセイフィオスの死にも繋がっているのだ。
――それでも私は・・・
辛く重い決断を前に、体中の体温が冷え切っていくのが分かった。気を引き締めていなければ震えだしてしまいそうなほど寒くて凍ってしまいそうな気持にすらなる。
ソファに腰かけ拳を握りしめていたルナセイラの手に温かい温もりを感じ、自分の拳に視線を送るとセイフィオスの手が自分の手を包み込んでいた。
横に座るセイフィオスを見上げれば、彼は全てを理解したように「大丈夫」と言う。
――私が動かなくても、アイナが世界を救ってくれるかもしれない。・・だけど・・自分に治癒の力があるとわかってしまった。・・それなのに危険だからって目を逸らすのは私らしくない!!
セイフィオスの「大丈夫」は、私の決断への肯定であると勝手に判断させてもらった。
「私は・・遺跡を巡ります!!」
決意を込めた瞳を、セイフィオスは優しい眼差しで受け止め「私も共に行くよ」と言った。
こうして私たち二人だけの魔力溜まり遺跡を廻る旅が始まるのだった。
しばらく更新遅れましたが、明けましておめでとうございます。
今年はしっかり更新していけるようもっと頑張りたいと思います!
いよいよ次からは武器探しの遺跡巡りが始まります。他の小説との同時進行作業の為ゆっくりな更新となりそうですが、是非気長にお付き合いください。
未熟なため執筆修正も都度行っております。
読みにくい部分も多いかと思いますが上達するまでお付き合いいただけましたら幸いです。
ブックマークなども、少しでも興味を持っていただけましたら是非よろしくお願いいたします。




