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モブに転生したと思ったのに私もヒロインって本当ですか?  作者: 芹屋碧
三章 認められる聖女と認めない聖女
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 「・・・・でてきたら?」


 「ーー・・・まさかバレていたとは・・私もまだまだですね」


 校舎の玄関から入ってすぐの柱の影から現れたのはセイオスだった。


 「先生は僕から隠れるのは無理だと思うよ?魔力隠さなきゃばっればれだからね」


 さも当然とばかりに呆れた口調で言うサーシェン。


 「なるほど?ではマジェスティ君は魔力を見ている訳ではないのですね?」


 「へぇ〜?先生は見る人なんだ?僕は匂いだから見なくたってわかるよ」


 「匂いか・・・・敵には回したくないね。」


 ニヤリと笑うセイオスの瞳は笑っていない。


 「そんなの先生次第なんじゃないのぉ?僕は誰の敵でもないし・・・味方でもないけど」


 「敵にならなければ私も君をどうこうする気持ちはないよ」


 ぴりつく空気の中も二人は笑みを絶やすことはない。


 「それで?ルナセイラ嬢に付いてた影は先生の?」


 「そうだと言ったら?」


 「役に立たないんじゃないの?僕を気にして様子伺い続けていたら護るものも守れないと思うよ?」


 「・・・・さっきは助かった。それは感謝する」


 「別にぃ?・・・ただしっかり護ってないと、僕が横槍入れちゃうかもよ?」

 

 「ーー君に奪われたりはしないよ」


 「へぇ~?本気なんだ?ならもっと気をつけてなよ。・・・・アイナはまだ諦めていないよ?

 聖女は大事だけど・・・・一番大事なもの失ったら意味ないんじゃない?」


 「・・・・忠告には感謝するよ」


 「僕はルナセイラ嬢を気にいっているだけ!・・・それだけだよ。じゃぁね〜」


 ひらひら手を振って去っていくサーシェンの背中を苦虫を噛み締めるようにセイオスは見つめた。


 ーー・・・・まさか他の生徒を差し向けていると言うのか?


 「ーーウィス」


 「ーーなんでしょうか」


 「ルナセイラへ攻撃した令嬢たちが聖女候補と関係があるのか調べろ。・・・今日のような失態は二度とするな!!」


 「――御意!!」



 昨日アイナを学園長室へ呼び出して今後の身の振り方を選ばせた。


 全てはルナを守るため。


 たとえ名ばかりであっても、ルナが治癒の力を確実に皆の前に見せても安心な状況を作るまでは、アイナにはまだ聖女でいてもらわなければならない。


 彼女が心を入れ替えて聖女になる努力をすると誓わせる必要があったのだ。


 それがルナを独占したい私欲ゆえだ

ったとしても・・・・





 八年前、王城の庭園で私とルナは出会った。


 当時十四歳だった私は思春期で王立魔法アカデミー入学前の自由な王城での生活を満喫していた。


 庭園の東屋でのんびりしながら本を読んでいた私の元に、小さな迷い人がやってきたのだ。


  一目見た瞬間天使が舞い降りたのかと思った。


 陽射しを浴びてキラキラ輝く白金の髪の毛、こぼれ落ちそうな大きな紫紺の瞳。星屑が閉じ込められて輝くように煌めき、小さな口元はさくらんぼのように瑞々しく赤い。


 百七十は超えた私の胸下ぐらい迄の背丈の彼女は、可愛らしい白地に淡い桃色や空色の小花柄のワンピースドレスを、アンダードレスでふわふわに膨らませ、歩くたびにふわりと揺らめく。


 彼女の周りだけが輝いているように見えて、私は読んでいた本をうっかり落としてしまった。


 「あの・・・こんにちは・・・お邪魔してしまって・・ごめんなさい」


 ぺこりと頭を下げると、サラサラと金糸のような髪の毛は動きに合わせて揺れ動き、しゃらしゃらと音が聞こえそうなほど美しく幻想的に見えた。


 「かまわないよ、君はご両親ときたの?」


 「はい!お父様と一緒にきました。・・・ちょっとだけお散歩していたはずだったんですが・・・・迷ってしまったみたいです・・」


 彼女の不安気な眼差しは、強烈な庇護欲をそそられた。


 「君はどこのお家のご令嬢かな?」


 「私はオレイヌ家です!」


 「そうなんだね、今日はオレイヌ伯爵は国王陛下との謁見に来たようだから、庭園のバラのアーチ門へ行けば女官たちにお父上の所まで案内して貰えるだろう。

 良ければ、オレイヌ伯爵令嬢をエスコートさせていただいてもよいかい?」


「本当ですか?ありがとうございますっ!!」


 ルナセイラは満面の笑顔を向けた。


 花が咲き誇るような彼女の美しい笑顔は、セイフィオスの心をしっかりと射てしまった。


 初めて感じる胸の高鳴り、甘く微かに切ない感情。ルナセイラから一時も目を離したくない、誰にも彼女を見られたくない独占欲が既にセイフィオスの中には生まれていた。


 王城で九歳のルナセイラと出会い、セイフィオスは間違いなく初めての恋をした。


 しかし、翌日には彼女が没落寸前の貴族だとわかり自分の初恋が終わってしまった。


初めて感じる抑え難い感情、セイフィオスは自分を律するために全ての出来うることに全力で取り組んだ。


 気づけば王立魔法アカデミーに入学してすぐに魔法、体力、体術、弓術、剣術スキルが全てSSランクに到達していた。


 それでもルナセイラを忘れることができなかったセイフィオスはさらに魔法と剣術を極め、魔法剣を想像することに成功したのだ。


 アカデミーを卒業した今でも、在学中に魔法剣の創造に成功した者は存在していない。


 私が十九歳の時、聖女候補である平民のアイナが聖魔法を発現させた。


 早急に彼女の対応を考え、四人のアイナをサポートする貴族が選ばれた。


 四人の内の一人は私の弟エディフォールだった。


 私は父上から弟が将来アイナと上手くやっていけるか見守り助けてやってほしいと頼まれた。


 そして私は非公式ではあったが、王命により姿と身分を偽って王立魔法アカデミーへ魔法学教諭補佐セイオス・メルフォードとして赴任したのだ。


 アイナが入学した時、サポート役達も皆同じ学年、同じクラスである必要があった。


 アイナは当たり前だが、勉強が間に合うわけもなく必死で教え込まれても学年成績は二十位にも届かなかった。


 それでも、努力すれば特進クラスでもやっていけるだろうという父上の判断で、特例処置が施されアイナはなんとか特進クラスへ入ることができた。


 あの時、特進クラスの中で一際目立ったのはルナセイラ・オレイヌだった。


 学年成績は二位であり、剣術スキルも既にAランク、体力はSランクに到達していた。唯一魔法スキルは初級のCランクではあったが、女生徒でここまで優秀な生徒は稀であった。


 そして私の心を捕らえて離さなかった令嬢でもある。


 しかし、再会したルナセイラは明らかに昔の面影がカケラも残らない姿になっていた。


 入学早々に、男子生徒たちが「残念な地味令嬢」とぼやいていたのを聞いた瞬間、なぜか自分だけが本当の彼女を知っているのだという優越感が生まれていた。


 ーー八年も会っていなかったのだから、何の感情も生まれるはずがない。変わり果てた彼女を見て幻滅してもおかしくないのでは?


 幾度となく自問自答した。だが、私の心は恋心が衰えるどころか、更に恋しい想いが募っていた。


 同じ学園で過ごすことができる三年は神が自分に与えたご褒美だと何度も何度も感謝した。


 ーーたとえほんの少しでもルナセイラと共に過ごせるならそれでも構わない!!


 学園生活が始まり、私は二十四時間聖女候補の見守りを始めた。


 彼女は放課後決められた聖魔法特訓の為の王都の医療院を回って、治癒魔法の特訓をするはずだった。しかし、彼女は逃げたのだ。


 サポートしているエディフォールまで一緒になって向かったのは、中庭の奥まったベンチ。


 私はすぐ上に見える三階の図書室に向かうと、窓際から彼らの姿がしっかりと見えるのを確認した。


 ーーアイツらは一体あんな所で何をしているんだ?


 最初はよくわからなかったが、エディフォールがアイナの相談に乗っている様子だった。


 確かに入学時から自分のレベルに合わないクラスに入れられたのだから、悩みもおおいのかもしれないと私も察した。


 しかし、それから五日経っても一向に医療院に行こうとしない。私は苛立ちが隠せなくなっていた。


 気のせいかもしれないが、二人の距離感もおかしくなってきている気がする。ベンチに座る二人の肩がいつの間にかピッタリとくっついていたのだ。


 ーーまさかアイツら特訓にもいかず逢瀬をしているのか??


 セイフィオスはわざわざ変装までして地味な教師を演じ見守っているというのに、彼らの不真面目さに怒りで握りしめていた拳がわなわなと震えていた。


 それでも見守りに徹しようと思っていた矢先、二人は未成年であり婚約者として認められた訳でもないのに、しっかりと手を握り合ったのだ。


 チッ!!


 思わず感情的になり私は怒りの感情を漏らし舌打ちしてしまった。


 ーーなんて奴らだ!!私の時間を返せ!!


 声に出さなかった自分を褒めても良いのではないかとその時は思えた。しかし、ふと視線を感じて目の前を見ると、一つ先の長テーブルの窓際に愛しのルナセイラが腰掛けていたことに気づいてしまった。


 彼女は瞬発力が優れているのか、バレないように本に視線を移してはいたが、明らかに本をもつ指先の震えから、私の怒りの形相をしっかりと見てしまったに違いない。


 ーーな・・・なぜこんなところにルナセイラが?!


 怒っていた姿を見られた事にショックが隠せず私は項垂れた。そして王城の自室に戻った後、そもそもの原因に対して怒りが再熱した。やりきれない怒りと焦燥感で、私は朝まで素振りをした。


 それでも図書室であの二人をのぞいていたのは幸運であったのだろう。


 今までは気づいていなかったが、ルナセイラも毎日図書室に放課後通っていたのだ。しかも、勉強や読書の合間に私と同じようにあの二人を眺めていたのである。


 私は意図せず同じ共通の話題を手に入れていたのだ。


 嬉しくてすぐに声をかけようと思ったが、念には念を入れて、確実にルナセイラが二人を見ていると確信できるまで待った。


 そしてルナセイラに気づいてからおよそ一週間後、私は意を決して彼女に声をかけ、「覗き見仲間」になれたのだ。


 それからの日々は私にとって薔薇色の学園ライフだった。


 全く医療院に行かず、中庭でアイツらが逢瀬を繰り返そうと、他のサポートをしていた男子生徒にも粉をかけて逢瀬を始めようと、私はエディフォールを哀れにも思わなかった。


 アイナの魔法スキルがほとんど上達していなくても、学年成績が変わらないままでも、見て見ぬふりをし続けた。


 挙げ句の果てにはその彼らのふしだらな関係を餌に私はルナと仲良く過ごしたのだ。


「見守り」を続けていたおかげで、今ルナと恋人に近い関係にまでなれたのだが、私はどうやら聖女ではなく魔女を育ててしまったのかもしれない。


 アイナの好きなように学園生活を送らせてしまったせいで、学園の中でアイナは四人のナイトに守られるお姫様のような聖女扱い。


 ーーどこがお姫様だ!・・・どこが聖女だ!まだ初級も初級の見習い聖女ではないか!


 サポートしていた四人は何も言われない事に味をしめて、アイナを抱きたい放題だ。


 ーー私だってルナを抱きたいのに!!


 おかげで四人は聖女候補に対して「彼女は正義」かのような発言までし始めるほど。


 ここまで聖女候補の育成に手を加えなかった私の失態は明らかだったが、今年になってルナが突然変わった。


 急に私を守ると言いだしたのだ。


 一体どうしてしまったのか、最初はさっぱりわからなかった。しかし、翌日事態は急変する。


 ルナは六年前の姿で登校したのだ。


 全校生徒が驚くのも仕方ない。彼女は今も昔のまま天使だったのだから。


 私は昔の姿を再び見ることの出来た喜びよりも、隠していたかった彼女の美しさを知られたショックの方が大きかった。


 授業中ずっと気もそぞろで、ルナを熱い眼差しで見つめる男どもの目を潰したくて仕方なかった。


 このクラスは特進クラス。この学園で一番トップの者たちが集まる。そんな奴らが全員ルナを見つめている。


 ーーた・・・耐えられない・・・攫ってどこかに彼女を隠したい!!


 放課後一目散で三階の図書室へ移動し、すぐさま図書室の一番奥のスペースに認識阻害の魔法をかけた。


 ーーこれで私が連れてきたもの以外はこのスペースに立ち入ることすらかなわない!!


 ルナがやってくると勢いに任せてちゃっかり手を握り、すぐに奥へと誘った。彼女を窓際へ座らせると、私もさも当然とばかりに横へ腰掛ける。


 そして、彼女が自身の姿を隠さなくなったのが私のためだと告げられた時、深い愛を感じた。


 ーーどんな愛だってかまわない!!私の事を今ルナは一番に考えてくれている!!


 叫びたいほどの幸福が降り注いだが、それでも彼女が姿を戻したことは危険なことに変わりない。


厳しい言い方をしてしまったが、全くしょえる様子もなく、アイナをサポートしている四人に言い寄られても平気だと自信満々で答えるルナが愛おしくて堪らなかった。


 ーーもう無理だ!!たとえ誰が反対しようと私はルナを娶る!!王太子妃に相応しくないというなら、時期国王の座などエディフォールにくれてやる!!


 私の意思は揺るぎないものになっていた。


 それからはルナが拒否反応が出ないギリギリを攻め続けた。私の努力は報われて、今では私に頭を撫でられている時のルナの表情は甘く蕩けそうな恋人の眼差しに変わっていた。


 ーーとうとうここまできた!!ルナは気づいていないけれど間違いなく私に好意を抱いている!絶対にこのまま逃しはしない。

 たとえ神々が許さなかったとしても私の気持ちは変わることはない! 





 心配事は後はアイナのことだけだろう。


  ーーあれだけ泣き喚いて聖女として努力すると決めた者がルナに手を出すのか?


 憔悴しきっていたのは間違いなかった。


 あの後アレクシス・バンデントイルと一緒にいたと報告を受けたが、アレクシスはアイナに心酔しているようだがルナセイラに害を向けさせるようなことをするだろうか。


 脳筋で、頭で考えるよりも行動した方が早いと考えるアレクシスが、アイナと共に謀略をねるとは考え難い。


 しかし、アイナは知略に長けている訳ではないが、自分に都合よく物事を良くも悪くも捉える所がある。


聖魔法スキルのランクは殆ど上がってはいないというのに、補助魔法の能力は補助スキルではSランクとも言える難易度だ。


 アイナが必死で研鑽を積んでいれば、とっくに聖魔法スキルもSを迎えていただろうと想像できるのだから勿体無い。


 ルナセイラのように努力を惜しまない性格であればーー。


 考えても仕方のない事ばかりが頭に浮かぶ。


 今更悔やむべきではない。


 少しでも早くルナを立派な聖女に育て、私への恋心を認識してもらわなければならない。


 どちらがかけても私は彼女を失いかねない。


 ーーたとえ誰に恨まれようとも・・・・必ず成し遂げてみせる!!


 セイオスはぎゅっと拳を握り締め教員室へと向かったのだった。





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