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「 私は絶対にルナ以外へ余所見なんてしない。これまでずっと仲良くやってこれたよね? 私からのスキンシップにも慣れてきているでしょう? 」
「 そ、それは……な、仲間だったので…… 」
「 ……じゃあルナはただの『 仲間 』で手を繋いだの? ……頭を撫でられたの? ……抱きしめられたの? ……キスもできたというの?
以前は未婚の男女がそんなことをするだなんて、ふしだらだと言っていたよね? 私はルナ以外にこういう事はしないよ。 責任を取って娶る覚悟がある! 」
――う、嘘でしょ?! ……わ、私を娶る?!
今まで『 好き 』という言葉も交わしたことのない二人。 ましてやセイフィオスはヒロインである聖女の攻略対象者だ。
自分はモブだと信じていたから、関係なく自由に過ごせるのだと思っていた。 ――だからこそ思ったままに行動できていたのだ。
「 お、王太子殿下に没落寸前の貴族令嬢など釣り合いません! 私は国の為に癒しの力の聖女になれるよう努めましょう! 魔力溜まりが消えたら、いずれは王宮文官に―― 」
「――ダメだよ。 」
「 ――?! 」
被せるように告げられた拒否に、ルナセイラは思わずたじろいだ。
「 王宮文官になって、誰かと結婚するかもしれない愛するルナを見守れと言うのかい? ――無理だ! とても耐えられない! ……今だって本当はずっと片時も離れずそばにいたいのに……。 」
紡がれるセイフィオスの重い愛の言葉が、非現実すぎて受け止めきれない。
セイフィオスは前世の自分の憧れのキャラクターだ。 それに、今世は『 推し 』だと断言できる。
だがそれはあくまで見つめて応援したい『 推し 』なのである。 ――彼と自分が結ばれたいなど微塵も思ってなどいない。
「 でも―― 」
「 ――たとえルナが私の事を好きになれなかったとしても、もう手放してあげることはできないよ。 」
「 ――え? 」
――ど、どういう意味?!
突如告げられた決定事項に、言葉の意味が分からず硬直してしまう。そんなルナセイラを熱の籠った眼差しで見つめながら、想像以上に重い現実を彼は突きつけてきた。
「 ブレド王国は、代々聖女が現れたら王家の者と婚姻を結ぶことが決まっているんだよ。 ――だから……聖女候補とエディフォールが釣り合いが取れるのか、確認の為に私は身分を偽って学園に赴任している。
あの子はエディフォールが娶るから、癒しの力の聖女であるルナの相手は、王族で独身の私しかあり得ない。 ――他の男になんて絶対に譲らないよ。 」
――え?!セイは二人が釣り合うか見定めに来ていたっていうこと?!
衝撃の事実に愕然とする。
セイフィオスはエディフォールがアイナに釣り合わないと判断した場合、自分が相手となる為に学園に来ていたということなのだろう。
――だからセイも攻略対象の一人だったのね……。
「 あの……もし婚姻を断ったら……どうなるのですか? 」
「 ――どういう意味? 私と結婚したくないのかい? ……私が嫌なら他の王家に準ずるものがルナの夫候補になるのだろうけれど、私は絶対にルナを手放すつもりはないよ? 」
再び低い声音で脅すように告げられ、暑くもないのに汗が背筋をとめどなく流れていくのがわかる。
「 あの……結婚どうこう以前に、私は一生結婚するつもりがなかったのです! 恋人すら…………いえ、恋すら私は諦めていました。 ……ですから私はセイにはふさわしく――。 」
「 ――ふさわしいなんて気にすることはない良いよ。 諦める必要もない。 ルナが私の愛を信じられるまで愛を囁き続けてあげるから。 それに……ルナも私に触れられても気絶しなくなったでしょう? 」
――ドキンっ!
甘く誘うような声音で言い当てられて頬が熱をもつ。
「 あの日から少しずつ、負担を感じさせない距離感を模索して、ゆっくり私とのスキンシップに慣れてもらっていたからね! 」
――え……慣らされていたの?!
確かに前世を思い出す前は、手の甲へのキスで気を失う程の拒否反応を見せた。 しかし、前世を思い出した事もあり、セイフィオスに触れられても気を失うことはなくなったのだ。
それが前世を思い出したからなのか、セイフィオスに慣らされたのが理由尚可は甲乙つけがたい。 ただ、もし他の男に触れられそうになったとしても、彼に触れられるのと同じように受け入れる事は出来ないだろう。 ――それだけはわかる。
ルナセイラにとって、セイフィオスが特別な事には変わりないのだ。
「 あれだけ甘えてくれたでしょう? ……頭も、撫でられたくなかった? 」
悲し気な眼差しを向けられると、胸がきゅうっと締め付けられるように苦しいのはなぜなのだろう。 『 そんなことない 』と、慰めてあげたくなってしまう。
彼はルナセイラにとって初めての異性の友人だ。いや、親友と呼べる程に気を許すことができる存在だろう。 セイフィオスがいなかったら、たとえ目標があっても、両親への想いがあっても、押し潰されそうな孤独な学園生活に耐えられなかったかもしれない。
――でも……私は聖女かどうかまだ確定したわけじゃない……それに没落寸前の令嬢よ……つり合いが取れるわけがないわ……。
セイフィオスは前世からの憧れの魔法剣士様でもある。
――私が先生の恋人? 婚約? 結婚? ――無理よ……。
彼はあくまで推しであり、恋人だなんて恐れ多すぎるのだ。身の丈に合わなさすぎる。
「 セイが頭を撫でてくれて……私は嬉しかったです。 ……このままの友人関係では……駄目ですか? 」
「 ……君はもうすぐ卒業したら文官になるつもりなんだよね? 」
「 …………。 」
「 ルナは卒業後、私と離れてもつらくないの? 私に頭を撫でてもらえなくても構わないのかい? 」
――嫌に決まってる……甘えたい……でもそんなわがまま言えるわけない……。
「 …………ルナ、今の君がどうしても『 恋人 』への段階に足踏みしてしまうなら、もう少し待つよ。 君の心が恋愛に向くまで、ゆっくり友人関係から少しずつ恋人になれるよう慣らしてあげる。 」
「 …………慣らす。」
「 そうだよ。……ただ何もせず待っている事はできないよ。 他のオオカミが狙いすぎていて、心配過ぎて嫉妬でお仕置きしたくなってしまうからね。」
熱の籠った眼差しのままルナセイラの耳元まで近づくと、セイフィオスは色気をたっぷりと含んだ声音で囁いた。
――ひぃっ! お仕置き?! ……こわい!
先程の更衣室でのセイフィオスのお仕置きを思い出し、羞恥でぶるりと身体が震える。 まるで狙いを定められた子ウサギのような彼女の反応に、セイフィオスの瞳にはさらに深く重い熱が籠る。
「 私は聖女に導くためのサポート役だからね。 これからはもっと一緒にいられる。 ……仲よくしよう。ね? 」
「 お……お手柔らかに……。 」
「勿論優しくするよ。 あと、ルナが聖女という事実はしばらくウィスを含めた三人だけの秘密にしよう。 ……他の者に『 聖女だから 』というい大義名分をくれてやるつもりはないんだ。 」
それは攻略対象たちに向けての言葉なのだろうか。
真意はルナセイラにくみ取ることは叶わなかったが、攻略対象たちにこれ以上絡まれずに済むならそれに越したことはない。
「 私もその方が助かります。 」
セイフィオスの提案に一も二もなく賛同した。
『 聖女 』という理由で他の攻略対象たちにまで絡まれるのはごめんだ。 『 秘密 』は、ルナセイラにとっても都合が良い。
「 ルナがわかってくれてよかったよ。これからよろしくね。 」
考え事に夢中になっていたルナセイラは、隙だらけだった。絶好のタイミングをセイフィオスは逃すつもりはない。
再び彼女の腕を掴んで引き寄せ、きゅうっと柔らかい身体を抱きしめる。 そして、どさくさに紛れて彼女の額にチュっと唇を落とした。
――?!
「 ~~~っセイ~~~っ! 」
ルナセイラは一瞬思考停止したが、我に返ると火を吹くかのように顔は真っ赤に染まり、たまらず叫んでいた。
くつくつと笑いを堪えきれないセイフィオスを『 かわいい 』と無意識に感じてしまった心を誤魔化すように。 それから数十分ルナセイラの小声の説教は続いたのだった。




