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モブに転生したと思ったのに私もヒロインって本当ですか?  作者: 芹屋碧
二章 攻略対象たちが放っておいてくれません
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 「私は絶対にルナ以外を見ないし、二年半ずっと仲良くやってきただろう?最近ではスキンシップにも慣れてくれていたことくらい私が気付かないと思った?」


 「そ・・・・それは・・・な・・・仲間だったので・・・・」


 「――じゃあルナはただの覗き見仲間で手を繋いだの?・・・頭を撫でられたの?・・・抱きしめられたの?・・・キスもできたというの?

 以前は未婚の男女がそんなことをするなんてふしだらだと言っていたでしょ?私はちゃんと責任を取って君を娶る覚悟があるからしたんだよ?」


 ――う・・・嘘でしょ?!・・・娶るつもりで手を繋いだり隣に座ったり頭を撫でてくれていたの?!


 今まで好きという言葉も全く交わしていなかった私たち。ましてやセイはヒロインである聖女の攻略対象者。自分はモブだと信じていたから、例外だと思っていたからある意味自由になんでもできていたのだ。


 「お・・・王太子殿下に没落寸前の貴族令嬢など釣り合いません!私は国の為に聖女になれるよう努めますし、いずれは王宮文官に――」


 「――ダメだよ!・・・王宮文官になって誰かと結婚するかもしれないルナを見守るなんて、私にはとても耐えられない!・・・今だって本当はずっとそばにいたいのに我慢しているんだ!!」


 「・・・でも――」


 「――たとえルナが私の事を好きになれなかったとしても、もうルナを逃がしてあげることはできない。」


 「え?」


 ――ど・・・どういう意味?!


 「ブレド王国は、代々聖女が現れたら王家の認めた者と婚姻を結ぶことになっているんだ。だから、あの子がエディフォールに釣り合うのか確認のために私はここに来たけれど、ルナが聖女ならば絶対に私がルナと結婚する!!・・・他の男になんて絶対に譲らないよ!!」


 ――え?!アイナは殿下と釣り合うか確認されてたの?!・・・・聖女になったら絶対結婚?!


 衝撃の事実に愕然とする。


 「・・・もしかして・・・セイとの婚姻を拒んだとしても・・・他の誰かと結婚しないとならないのですか?」


 「・・・・・どういう事?・・・・私と結婚したくないということ?・・・私以外は許さないよ?」


 再び低い声音で脅されているかのような雰囲気で告げられ、熱くもないのに汗が背中を流れていくのがわかる。


 「あの・・セイと結婚したい、したくない以前に、私は一生結婚するつもりがなかったのです。・・・・恋人すら・・いえ、恋すら私は諦めていました。・・・ですから、私はセイにはふさわしくはありません。仲良くしていただいたことは、本当に学生生活の幸せな思い出だったのです・・・」


 「ルナが純粋なのはわかっているよ。でも思い出なんかには絶対させない!

 ルナは私に触れられても拒まないでしょ?

 気を失ってしまったあの日から、君が他の男に取られないように少しずつ負担を感じさせない距離感を模索しながら、ゆっくりスキンシップを慣らしてきたんだよ」


 ――・・・・・計画的だったんだ・・・・


 「あれだけ甘えてくれたのに・・・頭撫でられたくなかった?」


 「・・・セイが頭を撫でてくれて幾度となく救われましたよ・・・でも・・・」


 確かにセイの事は大好きだ。初めての異性の友人だ。いや、親友と呼べるほどに気を許すことができた人だ。彼がいなかったら、押しつぶされそうな孤独に耐えられなかったかもしれない。


 ――・・・自分がモブだと勘違いしていたのがいけないのはわかっているけど・・・本気で攻略対象たちが私に恋することなんてあり得ないと思っていたんだから・・・しかたないじゃない・・・・


 セイは憧れの魔法剣士様。目に入れても痛くない程に憧れている。でも、恋人?婚約?結婚?彼はあくまで推しであり、恋人だなんて恐れ多すぎるのだ。


 「これまでの関係では駄目なのですか?」


 「・・・君はもうすぐ卒業したら仕事をしてしまうでしょ?ルナは私と離れて共に寄り添い合ったり、私に頭を撫でてもらえなくてもよいの?」

 

 「・・・・・」


 ――嫌に決まってる・・・セイに甘えたいよ・・・でも・・・


 「――・・ルナ、どうしても今、君が恋人への段階も足踏みしてしまうなら待ってあげるよ。君の心が恋愛に向くまであと数か月くらい待てる!・・・ゆっくりもう一度友人関係から少しずつ恋人になれるよう慣らしてあげる」


 「・・・慣らす?」


 「流石にただの友人関係だけじゃ、私は我慢できないよ・・・他のオオカミが狙いすぎていて心配過ぎて嫉妬でお仕置きしたくなっちゃうから。」


 ――ひぃぃいっ!!・・・・お仕置きっ・・・こわいっ!!


 「これからどうせ聖女になる為に、私と一緒に過ごすことも多いのだからその中で慣れてよ」


 「・・・これまでの友人関係から・・・ゆっくりで・・・いいんですよね?・・・私に合わせてくれますか?」


 「勿論!・・・ただ、他の者にルナを触れさせたくないから、大義名分を与えてやるつもりはないんだ。だから、ルナが聖女という事実はしばらく私と君とウィスの三人だけの秘密だからね!」


 「・・・それは。・・・私もその方が良いです」


 『聖女』と言う事実を『秘密』にという話は、ルナセイラにとっても都合が良い。


 この状況で、聖女と公になって更に他の攻略者の事まで構ってなんていられないのだから。


 セイの怒る顔がありありと思い浮かんでぞっとする。


 「ははは・・ルナがわかってくれてよかったよ!これからよろしくね?」


 きゅうっと抱きしめると、セイオスはルナセイラの額にちゅっと唇を落とした。


 ――!!!?


 「~~~~~~~っセイっ!!」


 言った傍から濃いスキンシップをされ、ルナセイラの頬は火照り、溜まらず叫んでしまった。



***



 コンコン――


 「――アイナです。お呼びと聞きました!」


 魔法実技の授業の翌日、王立魔法アカデミー学園長室にアイナは呼び出されていた。


 「こちらへかけなさい」


 「――はい、失礼します」


 ソファに座っている学園長が、アイナを指定したソファへ腰かけるよう促す。


 学園長室には学園長とブレド王国王太子殿下がソファへ腰かけており、王太子殿下の後ろには漆黒の髪色にアメジストのような宝石の色をした瞳の側近らしき男が控えている。


 ――うわ~~!!素敵!!今日はセイオス先生じゃなくて正装のセイフィオス殿下として会えるなんてラッキーだわ!!


 アイナは自分がどのような用件で呼ばれたかはわからなかったが、今まで聖女という立場で罪を問われることなどなかったので、昨日の事があっても全く気にも留めていなかった。


 給仕が紅茶の用意を済ませると、退出を見計らい話が始まった。


 「今日はなぜ呼ばれたかはわかるかな?」


 「――・・・ごめんなさい、わからないです」


 学園長からの問いに、少し瞳を潤ませてかわい子ぶりながら知らない素振りをする。


 「実は昨日生徒の訓練着がなくなった事と、魔力暴走がおきたことでの話

を何人かの生徒に聞いているんだ。」


 「・・・そうなんですね」


 「昨日訓練着を持っているアイナ君をみたという人物がいるのだが、なんでオレイヌ君の訓練着を持ち出したんだい?」


 「学園長先生、私はルナシエラさんの訓練着だなんて持ち歩いていません・・・自分の訓練着を持っていただけです・・・まさか疑われているわけじゃないですよね?」


 「あぁ、私は疑っているわけではないんだよ。そうですよね?王太子殿下」


 「無論だ、疑っているのではない。もう一度聞く。何故持ち出した?」


 「ですから疑わないでください。私は持ち出してなど!!」


 ぱちんっ!


 セイフィオスが指を鳴らすと、三人が見える壁面に、昨日のアイナの訓練着持ち出しから隠すまでの犯行の一部始終の映像が流される。


 「う・・・嘘よ!!」


 アイナはがくがく震えながら認めようとしない。


 「疑ってなどいない。確信があるからこそ理由を聞いただけだ。馬鹿者め!」


 普段のセイオスとは思えないような冷徹な声音は、昨日の『行け!』と冷たく命令してきたセイオスを思い出させる。


 いかに普段のセイオスが優しい態度をとっていたのかがよくわかった。王太子としてなら、こんなにも相手に冷たく接することが出来るのだ。もしかしたらこれが通常なのかもしれない。


 「昨日のルナセイラ嬢の魔力暴走、何故魔力強化をして自爆させようとした?」


 ――ば・・・・バレてる?!なんで?!


 淡々と冷徹な声音で紡ぐセイフィオスの言葉は、どれも適格過ぎて言い返せない。


 ――なんで?!・・・魔力強化なんてどうやって気づけるっていうのよ!!・・・あり得ないわ!


 「――なぜバレたのか?・・・という顔をしているな?」


 「わ・・・私はそんなこと考えていません・・・能力強化なんて・・・して――」


 「――魔法スキルSSランクの特殊能力というものがある。

 それは各個人の持つ魔力を感じる能力だ。お前はバレないと思ったようだが、私はお前の魔力を色で確信している。

 昨日実技中、ルナセイラ嬢が魔法を放とうとした瞬間に魔力強化したところまでしっかり私が見ている。」


 「なっ!!・・・う・・・うそ・・・」


 ――そ・・・それじゃ・・・昨日の時点で・・・セイオス先生には私がしたことが全部バレバレだったという事?!


 顔面蒼白で膝の上に置いていた手はがくがくとあり得ない程に震え、まるで地獄へ突き落されたような気持ちになる。


 「ご・・・ごめんなさい・・・わ・・・私がしました・・・」


 もう言い逃れなどできないと察して謝った。


 「――・・・・で?なぜそのような愚かなことをした?」


 アイナが謝ってもセイフィオスの追及は止まらない。


 ――な・・・なんでよ・・・謝っているんだから許してくれればいいでしょ?!・・・理由なんてどうでもいいじゃない!!


 「~~~~~・・・」


 「言わぬのであれば犯行の映像と共に、明日全校集会を開き皆の前で聖女の悪行を晒すが?」


 「そんな!!・・・わ・・・私が・・・私の罪が公にバレたら・・・聖女としての活動はどうなるのですか!!」


 「お前は聖女を今ここで言及するのか?散々聖女らしくない振る舞いをしておいて?」


 「――・・・へ?」


 アイナにはセイフィオスが何を言っているのか理解できない。


 「――私はセイオスとしてお前が入学した当初からずっと監視してきた。朝登校してから王宮の部屋に帰るまで。・・・いや、帰った後もだ」


 「う・・・嘘・・・それじゃまさか・・・」


 「そのまさかだ!・・・お前の聖女とは到底思えぬ何人もの生徒との性交を全て映像で残している。」


 「――!!」


 セイフィオスに告げられる言葉はまさに断罪。アイナは頭の中が現実逃避で真っ白になっていく。


 「そんな・・・うそ・・・こんなのひどい・・・私は・・許されていたの・・・貴方だって本当は私のモノだったのに・・・全部・・・全部あの女が・・・ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいっ!!」


 「――何を言っている?!」


 「私だって・・・ヒロインなのに・・・愛されたかっただけなのに・・・っ!!」


 「何が言いたいのか理解できん。

 お前はひろいんとやらではない!聖女候補だ!・・・お前の為に、お前を助ける為に、貴重な人財を国王陛下がお前に一時的に貸し出しただけだ!

 ・・国の為に研鑽を積むようにとの国王陛下からの王命すら無視し、学びより恋愛に現を抜かす所業。他の者を責める権利などお前にはない!」


 「う・・・うぁぁぁああああああああっ!!!」


 セイフィオスの言葉に限界を迎えたアイナは号泣し、追及どころではなくなってしまう。


 「お前にはどちらか選ぶ権利を与える。一つは学園でしっかりと聖女として学び直し、危機に向けてしっかり備える事。もう一つは王宮の牢獄で罪を償う事。どちらかを選べ。」


 明らかな脅しである。聖女として生きないのであれば罪人としてどんな目に合うのかわからない。


 「っぅ・・・ひっく・・わ・・私は・・・・聖女としてしっかり努めます・・っぅう・・っふ・・」


 嗚咽を漏らしながらも、必死でアイナは選んだ。


 ――こんなところで・・・私ばっかり不幸になって死ぬなんて・・・絶対いやよっ!!


 「今の言葉決して忘れるな。もしまた問題を起こしたり、ルナセイラ嬢に手を出した場合は死刑すら覚悟せよ!」


 「・・・はい・・・」


 未だ嗚咽を漏らしながらもなんとか返事をすると、退室の許可を得てアイナは学園長室を後にしたのだった。


 「うぅぅぅ・・・・うぁぁぁあぁぁぁ・・・・」


 アイナは校舎の中庭のいつものベンチで、救いのない現状に打ちひしがれた。


 絶望が絶え間なく押し寄せてくる。


 これまでの上手くいかなかったセイオスの攻略は、彼が自分を監視をしていたからなのだと、今更やっと今理解した。


 本当であれば、入学当初ストーリー通りの純粋な乙女を演じてヒロインになれたなら、不審者のように徹底的に監視されることもなかったのだろう。


 それでもどうしてももう一人のヒロインであるルナセイラと比べてしまう。


 ――なんで・・・なんで彼女は性交して良くて、私は駄目なのよ!・・・彼らに手を出しただけで監視されるなんて・・・こんなのってないわ・・・



 「――アイナ?!どうしたんだ?!」


 アイナは声がする方へ振り向いた。


 「――・・・アレク・・・シス・・・」




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