「おには、おには」
節分の日が訪れれば
子どもも大人も隔てなく
みんな、「鬼はー外ー」と言って
豆を撒いている
それに応じて鬼たちは
外へ逃げて行ったり
またある時は
豆を撒いてない家を狙い
入り込んだりしていた
同じように福たちも
家に入れてもらっていたり
またある時は
豆を撒いていなかった家に
鬼が襲いかかるのを見過ごしたりした
そして鬼たちと福たちは
この年もいつもと同じように
節分に挑んでいったのだが
とある家に訪れてしまったばかりに
大変困惑することとなる
その家では幼気な少女が
無邪気に豆を撒いていた
しかし、少女はただ
「おにはー、おにはー」
とだけ言っていた
少女は豆を撒いているが
「おにはー、おにはー」
としか言わなかった
少女の言葉に
その子の母親も父親も
兄弟も姉妹も祖父母もイトコも
誰も訂正したり疑問を抱いたり
しなかった
むしろ
家族全員、少女と同じように
豆は撒いているのだが
「おにはー、おにはー」
としか言わなかった
これに鬼たちは大変困惑した
「おには」と言っている訳だから
鬼に対して言っていることは明らか
しかし、「おには」の後に
何も続いていないせいで
鬼はどうすればいいのかがわからない
「鬼を呼んでいるのだから
家に上がり込んでしまえばよい」
そんなことを言う鬼もいたのだが
豆を撒いている家については
豆を撒く側の要求を聞かなければならないという
古くからの決まりがあるため
ただ「おには」と言うだけでは
家に上がってもよいとはみなせないとし
その進言を退けた
鬼たちは議論を進めるうちに
苦肉の策をとることにした
鬼たちはその少女の
家の庭に
ただじっとすることにした
「おには、おには」は
「鬼は、お庭」と
そう解釈することも出来るだろうと
比較的若い鬼がそう言いだし
意外にもその発言が
ベテラン・中堅の鬼たちにも受け容れられ
仕方なく、お庭に鎮座することにした
もちろん中には
「くだらん、俺たちは違う家に行くぜ」と
他のところへ行ってしまった鬼もいたが
そいつらは軒並み
豆を撒かれてぶちのめされたと聞いている
さっきスマホ見て確認した
今もまだ
節分の日が終わるまで
鬼たちはお庭にいて
「おにはー、おにはー」と
言いながら豆を撒く少女とそのご家族を
温かく見守っている
福たちは
そもそも呼ばれてすらいないので
当初は困惑していたが
その微笑ましい光景に
冬の寒さで凍てついた心が温まったようで
同じようにやさしく見守ることとした
ある年の節分の日に起こった事




