61話 ナポレオンは輝く
ドレインとノワールが戦っている中、ロキとナポレオンはお互いに睨み合って牽制していた。
ロキがナポレオンを睨んでいると、エイラ少佐の冷たい声が頭に響く。
⦅ロキ二等兵、時間を掛け過ぎだ。<戦闘モード>の猶予時間を考慮しろ⦆
⦅<戦闘モード>のlevelが上がって効果時間は上がっているはずです⦆
⦅ロキ二等兵....私に..報告したか!⦆
⦅す、すいません⦆
⦅今度からは上官である私に逐一報告しろ。効果時間が延びたとはいえ注意して戦闘しろ⦆
⦅了解! 俺は..ナポレオンの面を見ていて苛立って我慢の限界でした。まずは、あの醜い土手っ腹に叩き込んでやりたいと思ってました!」
ロキは瞳を上下左右に動かして、床や床に落ちている者や棚等の確認が終わると、戦闘態勢に構える。
ナポレオンはロキの動きを察知して、両手で腹を叩いて気合を入れて身構える。
「生意気な奴がーー!! デブクズって言ったこと後悔させてやる!!」
ロキは真剣な眼差しになり。
「っ!」
気合を入れて前に出て、床に落ちてた鉄製の鍋らしきものをナポレオンに向かって蹴り上げる。鍋は真っ直ぐ飛んで行くが、ナポレオンは「俺様はストロング」だと言い放ち片手で払いのける。鍋は明後日の方向に飛んで床に落ちていく。
ロキはこのぐらいの攻撃は通じないと分かっていたので、特に反応せず次の行動に移る。ちなみにナポレオンは胸を張って自慢していた。
ロキは木箱の上にあった陶磁器を持ち上げると、もう一度ナポレオンに向かって投げ飛ばす。
ナポレオンは見下した表情で投げられた陶磁器を見つめ声を上げる。
「俺様がこんな物でダメージを受けると思ってるのか、さっきと同じだ!!」
先程と同じように片手で払いのけると――陶磁器は衝撃に耐えきれず。ナポレオンの目の前で割れた音が鳴ると、辺りを白い粉が舞っていく。
ナポレオンは白い粉に驚き、両手で払いのけるが当然意味がない。
「な、なんだこれは邪魔だ! ゴホッゴホッ、喉に粉が入った! ゴホッゴホッ、苦しい。ちくしょう俺様の美顔にも白いのが付いたぞ。ガキてめえ..ゴホッゴホッ、口に..苦しい..」
白い粉はナポレオンの口に入り喉を詰まらせると、むせるように咳をする。白い粉は脂ぎった汗と混合してべっとりと白い粉がくっつく。ナポレオンの身体は真っ白になり、顔も真っ白になる。
ロキは何故、陶磁器に白い粉が入ってることに気づいたか、それは単純に床には同じ陶磁器が割れて中から白い粉が落ちているからである。
ロキはナポレオンが咳き込んでいる姿を見て、作戦が上手くいったと思った。攻撃を仕掛ける前にマントを頭から深く被る、もしかしたら認識妨害が出来るかもしれないと思ったからだ。
隠れるように横に移動して棚の影に身体を潜める。ナポレオンの様子を伺うように聞き耳立てると――「ゴホッゴホッ」と咳き込み声が聞こえる。
「っ!」
もう一度気合を入れて棚の影から飛び出ると、上手くナポレオンの横側が見える位置に出ることができた。
ナポレオンはロキに気付いてない、それどころが顔に付着して白い粉を取ろうと必死になっている。
「くそっ! 何だこれは取れないぞ! 俺様の美顔が汚れるぞ! ちくしょうーー取れろよ」
ナポレオンは懇願するように手で白い粉を拭っていた。白い粉は両手にも付着しているため、むしろ悪化していた。
ロキは両手を握り締めて拳をつくって、戦闘態勢に構え直し、ナポレオンの横腹を捉えるように踏み込む。ロキが目の前まで近づいても、ナポレオンは今だに気付いてない。マントの効果なのか、それともナポレオンが馬鹿なのか分からないが――気合い入れた拳を叩きこむ。
「はぁぁぁぁっ!」
拳はナポレオンの腹に突き刺さる、腹は拳の威力で沈んでいくが、弾力があり奥まで届かず途中で「ぽよよ~ん」と効果音が聞こえるような感じではね返す。
ロキが放った拳はゴムを殴ったような反動で跳ねるように戻ると、驚きの表情をする。
「なっ、こいつの腹はいったい..」
腹を殴られたことで、ナポレオンはロキに気づき視線を向けて、見下すように見て殴られた腹を掻きながら自慢話しをする。
「ん? お前かガキ、俺様の身体はどんな攻撃も防ぐことが出来るんだよ。どうだ凄いだろ大統領の腹は!」
誇らしげに自慢の腹を叩く。
「生意気なガキが大統領の俺様に逆らいやがって、さっさとお前を潰して俺様の女を探すか!」
前腹をロキに突き出すように前に出す。絶対の自信があるのだろう、腹に。自分の腹は黄金よりも価値があるものだと自負しているからだ。他人からすれば、ただの醜いおっさん腹だ。
ロキはナポレオンの態度に闘争心を燃やす。自慢している腹を破壊してやろうと拳を突き刺す。
「はぁぁぁぁぁ....この! この! これでどうだ....」
ナポレオンの腹に何度も拳を叩きこむと、拳の威力で腹が振動で揺れるが、揺れるだけでダメージをまったく受けていない。
ロキは肉体的よりも精神的にダメージを受けていた。それは本気の攻撃が通じないからだ。
「くそ! 俺の拳が届かない! 脂肪が多く弾力があって拳が跳ね返される」
「俺様の邪魔だ潰れろガキ!」
ナポレオンは右手を大きく振り払って避けられると、次は左手で同じように振り払うが動きが単調なため簡単に避けられる。悔しそうに苛立ち両手を大きく広げて、ロキの目の前で両手を合わせるように大きく叩くと「パァン」と音が鳴り響く。
ロキはナポレオンが両手を広げたことに警戒して後ろに下がっていた。そうして身構えているとナポレオンが両手思いっきり叩いていた。
..しばらく待ってみたがナポレオンに新し動きはなかった。
「こ、こいつ馬鹿にしてるか?」
ロキは馬鹿にされたと思い声を上げて殴り掛かろうしていた。その時エイラ少佐の声が響く。
⦅ロキ二等兵落ち着け、これが向こうの作戦かもしれない冷静になれ⦆
⦅俺を怒らせることが作戦ですか....危なく引っかかることでした。それにしても相手を怒らせるところが自分が引っかかるとことでした⦆
⦅それよりも..ロキ二等兵..何故、拳でしか攻撃しかしない作戦か?⦆
⦅ん?⦆
ロキはエイラ少佐の言葉に思考を巡る。
ナポレオンは両手を大きく叩いたのは特に理由はない、只、苛立ったから叩いただけだ。この男はストレスが溜まると暴力で訴える。日本にいた時も冒険者で依頼の仕事をしてる時も苛立つと、突然両手を叩いていた。
ロキはエイラ少佐の言葉で思い出し、両手を腰にあるシミターに手を置くと抜きさす。抜き差した瞬間、風牙”ゴルバ”のシミターはぼんやりと緑色の光を照らす。
拳の打つ攻撃が通じないなら、シミターの切り裂く攻撃なら通じるではないかと動き出す。
ロキは前かがみの姿勢で、右手のシミターを上向きの持ち、左手のシミターは逆に逆さま向きに持ち構える。
ナポレオンはロキがシミターを装備したことに驚き顔を強張らせる。
「凶器は卑怯だぞ、ガキ! こっちに来るな。俺様は大統領だぞ! だから、こっちに来るな」
ナポレオンはロキに向かって略奪品を投げつけるが、ロキは上手く避けながら向かって来る。ナポレオンはロキが持つシミターを凝視して拒否するような声で叫ぶ。
「く、来るなーー!?」
ロキはナポレオンの反応みて確信する。ナポレオンの腹は打撃には強いが、剣などの切り裂く攻撃には弱いと感じた。
ナポレオンの前腹を真剣な眼差しで捉えると――右手のシミターで上斜めで袈裟斬りで斬りつけるが、ナポレオンは器用に腹を引込めって攻撃を避ける。ロキはナポレオンの動きに注視して次の攻撃に移る。腹の引っ込んだ部分を見極め左手のシミターで流れるように切り裂く。
切り裂かれた腹から鮮血が宙を舞うと、ナポレオンが痛みで大きく叫ぶ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ロキはナポレオンの腹に傷を付けたことを確認し、左手のシミターを上向きに持ち替えると、両手のシミターで腹を切り裂く。切り裂く度にナポレオンが絶叫するが、切り傷はそれ程深くはない脂肪が多いため刃が奥くに届かない。
ナポレオンの腹に次々と新しい刀傷が出来て、そこから血が流れ腹は真っ赤になり染まっていた。
ナポレオンは痛みで苦悶な表情をして声を荒々しく上げる。
「図に乗るなガキ!! これでもくらえ<カリスマの光>!!」
声を上げると、ナポレオンの腹部が中心から大きくなり発光しだす――その光は最初に見た時、ナポレオンが手下を潰してる時の光だった。
光はロキの瞳を襲い掛かってきた。ロキは咄嗟に両手で光を防ぐが、完全に防ぐことは出来ず光は瞳に差し込んでいく。
「くっ! 光が目に......」
ナポレオンは光がロキを襲ったことに喜色な声を上げる。
「はっはっはっ、俺様の<カリスマの光>を見たな。これでお前は魅了された。はっはっはっ、<カリスマの光>を見た者は必ず魅了される。そして惑わされ状態で身動きが出来なくなる。あとは俺様の闘技で潰すだけだ」
「へぇ~~そんな効果はあったのか、だから、あの時ドレイン達は動いてなかったんのか、これで答えが分かったよ、礼を言うよナポレオン」
「そうだ、そうだ、俺様にもっと感謝しろーーって、何でお前喋れるんだ! 魅了されてたら喋れないはずだぞ」
ロキはシミターを持ち構えながら不思議そうに話す。
「さぁね。俺にも理由は分からないよ。..知っててもお前には教えない!」
ナポレオンはスキルが通じず怒りで顔を真っ赤にして声を上げる。怒りで力を入れてるため腹部の切り傷から出血して床に零れる。
「どうして通じていない! 有り得ないぞ! 今までどんな相手でも一度は必ず魅了されていた..お前は一体何なんだ!! ちくしょう」
ロキがどうして<カリスマの光>を防げた理由はコーティングだ。瞳に光が差し込み前に機能が自動的に発動しコーティングで光を防いだのだ。
⦅魅了とは..あの光にそんな効果があったとはな、恐ろしい有機生命体だ⦆
⦅危なかったです。こんな戦場で魅了されていたら無事ではなかった。自分の身体の機能の感謝しますよ⦆
⦅ならば私に感謝するんだな。ロキ二等兵の身体は私の研究のおかげなのだからな⦆
⦅ありがとうございます、エイラ少佐⦆
⦅今後は上官である私にもっと敬意を払え。それでは..この有機生命体との戦闘データはもう十分だ。そろそろ決着をつけなさい、仇なのだろロキ二等兵⦆
ロキはその言葉を聞いて頷く。
⦅..はい。俺の手でナポレオン..村上を殺します⦆
ロキは覚悟を決めた。凶器である両手のシミターを威圧するように構える。ナポレオンはロキの雰囲気が変わったことを感じとりシミターに視線を向ける。
「だ、大統領の俺様を殺すのか? その剣で..剣は卑怯だぞガキがぁぁぁ..」
不安を気持ちを誤魔化すように声を上げる。
ロキは真剣な眼差しでナポレオンを捉え、シミターを突き刺すように構える。振りかざして切り裂くよりも、より殺傷能力が高い貫通力で殺そうと覚悟を決めた。
ナポレオンはロキの攻撃を防ぐため、片手を大きく上げて振り下ろす。動きが単調なため簡単にロキに躱される。ナポレオンは焦っていた、今まで一撃潰してきたから特に殺意を感じることはなかった。目の前にいる敵から本気の殺意を感じ畏怖していた。
ロキは怯えるナポレオンを見ながら、シミターをクロスさせる。
「これで..お終いだナポレオン」
ナポレオンはロキの殺意が鋭くなったを感じ声を上げる。
「..お、俺様の奥の手を使ってやる!」
ロキはナポレオンの言葉の意味を聞きながら、シミターに戦技を纏わせると――。
ーー<戦技>”強刃十字切り”ーー
――殺意が籠った強力な十字切で切り裂こうとした時――。
「うぉぉぉおぉぉぉ、<金剛>!!」
――ナポレオンの身体がプラチナ色に輝き出す。
ナポレオンの身体が瞬時に肌色から透明感のある宝石のダイヤモンドのような鉱石に変質する。
ロキのシミターとナポレオンの金剛の身体がぶつかり合うと金属音の甲高い音が鳴り火花が散る。火花がナポレオンを一瞬照らすとダイヤモンドのうように怪しく光る。
ロキはナポレオンを切り裂いたはずなのに、金属音が聞こえ驚きナポレオンの姿を見ると更に驚く。
「な、なに....その姿は一体?」
⦅これは興味深い⦆
⦅エイラ少佐は分かるんですか? この異様な姿を? ....まるで人型の宝石のようだ⦆
⦅ロキ二等兵が今言った通りだ。スキルの効果なのか..身体の全てを頑丈な宝石に変えている⦆
ロキは再度、ナポレオンの現状の姿を見る。顔にある目や口も宝石になり、髪は集まって一体の宝石になっている。当然、両手足も宝石になり腹も脂肪も金剛の身体になっていた。
ロキが驚いている見てると、ナポレオンの宝石口が開き声が聞こえてくる。
「これが俺様の奥の手、ユニークスキル<金剛>だ。俺様の身体をダイヤモンドに変えることが出来る。最強の身体だ。だがこれで終わりではないぞ、ガキ! 俺様の美腹に傷をつけたことを後悔して潰れろ!」
ナポレオンは身体を上下に揺らし反動で後ろに転がり、頭が出ると叫ぶ――。
ーー<闘技>”どどどどっどすこい金剛ボールアタック”ーー
――ナポレオンの身体が真ん丸と丸くなり巨大なボーリング玉..金剛玉になる。
金剛玉はロキに向かって真っ直ぐ転がって来る。ロキは危険を感じ回避態勢をとる。
「なっ! 玉になるなんて絶対可笑しいぞ」
金剛玉はロキが退避してることに気づいて――。
「金剛ブースターゴー! ブーー!!」
――かけ声と同時に強烈な爆音が聞こえる、口から息を吐き出し回転を加速させる。
急加速した金剛玉がロキに迫る。
⦅ロキ二等兵逃げろ!!⦆
「意気なりスピードが速くなったぞ! ぐは!?」
ロキは回避が間に合わず金剛玉にぶつかり吹き飛ぶ。吹き飛んだロキは奥の壁にめり込むように激突する。激突音と建物が揺れ天井から埃が落ちる。激突した壁はロキを中心にヒビが何本も走る。
ロキは金剛玉の衝撃と壁の激突で痛みで苦悶な表情を上げる。
「ぐっ..威力が高い。身体が動かない」
ダメージが大き過ぎてショックで身体の自由が効かない。両手に持ってたシミターは壁に激突した時に床に落としている、ロキは落としたことに気づいていない。
ナポレオンはロキが壁にめり込んでいる姿を見て、倉庫を周るように転がる。転がって移動する際に邪魔な棚を倒し、床に落ちている物は破壊しながら進んでいく。
ロキを真っ正面に捉えると。
「潰れろ!!」
ナポレオンが一言呟き、金剛玉は転がり始める。




