第1話「パーティへのご招待・1」
今日のお出汁はうまくいった。
材料の比率を少しだけ変えてみたところ、お客の反応が良い。
うどん屋の女亭主のバネッサは厨房で一人ニヤニヤしていた。
とある事件をきっかけに出汁の材料費を安く手に入れることが可能となり、夜な夜な研究に明け暮れていた成果が出始めたのだ。
カランカラン
昼営業の終わり間際。扉が鳴る。
嫌な予感。
「まだ、営業時間内、ですよね」
いつものバリトンの声。振り向くと、例によってクロエが立っていた。
黒いスーツに、黒い皮手袋。全身黒ずくめだ。
その後ろに見知った女性、クロエの秘書アキラがニコニコと笑っている。
「今度は何の話をしにきたんです?」
「やだなあ、うどんを食べにきたんですよ」
嘘です、絶対。
「天ぷらうどん、二つお願いします」
クロエとアキラがカウンターに座る。
「……天ぷら揚げますので、少々お時間いただきますがよろしいですか」
「はい、もちろんです、バネッサさん」
うんうんと頷きながらニコニコ笑うクロエとアキラ。
ため息をつきながら、店の扉に「支度中」のプレートを下げる。
毎回毎回、昼営業が終わる5分前に予告も無しに来るのは勘弁して欲しい。
今度はどんな面倒事を持ってきたんだろうと、厨房に戻った。
「うん、相変わらず美味しいですね。いや、出汁が少し変わっているかな」
「そうですね、クロエ社長。前よりなんだか味の深みが増えてますね」
「ありがとうございます。お出汁はうどんの命ですので日々改造を繰り返しております」
「それは良かった。ハル商会からの素材を有効活用されているんですね」
……あてつけがましい。
前回のお仕事のご褒美として、ハル商会からはほぼ原価で海産物を譲ってもらえるようになった。
その口利きをしたのが目の前のクロエだ。確かに経営難だったこのうどん屋が立ち直ったのはクロエのお陰なのだが、どうも素直に感謝できない。
毎回毎回こういう芝居がかった登場をしてくる変な性格が原因だろうか。
「ああ、美味しかった。ごちそうさま、バネッサさん」
二人、ほぼ同時につゆまで完飲してどんぶりを置いた。
「さて、お腹もいっぱいになったし」
窓際のテーブルを親指で指しながら
「……お話はいつものあのテーブルで、いいですかね」
バネッサは、内心ため息をつく。
「もう、わかりましたよ。テーブルに移動してください。……お茶入れますので少々お待ちを」
クロエ社長はやっぱり嘘つきだ。うどんを食べに来たんですよ、だなんて。
まあ、最初から信じてなかったですけどね。
◆ ◆ ◆
「……で、今回はどうしたんですか」
「バネッサさん、パーティーは好きですか?」
「パーティ?どっちの意味の?」
「宴会の方ですよ」
地方によって呼び方が変わるが、採取師のチームをパーティと呼ぶ場合がある。
「……あまり、そっちのパーティは参加したことないです」
「あまりということは、参加したことはあるのですね」
「はあ、商人ギルドの正会員就任のやつとかに何度か」
「ふんふん、フォーマルな感じのドレスを着たり?」
「……何の話なんですか、これ」
「実はバネッサさんを、とあるパーティに招待したいのです」




