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日々の生活に疲れた45歳が異世界で若返り、第二の人生をまったり満喫する♪はずっだったが、色々ほっとけない!   作者: 夢叶


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72 これからについて


日が傾き、森の影が長く伸びてきた頃、木立の向こうから見慣れた二つの人影が現れた。


「おかえり!」

 鍋をかき混ぜていた手を止めて声を上げると、ルドが軽く片手を上げて応えた。


「おう、今戻った。……いい匂いだな」


「チキンのトマト煮だよ。ちょうど出来たところ」


「そりゃ、いいタイミングだ」


ルドの鼻がひくひくと動く。その後ろで、クロは静かに野営地の様子を見回し、異常がないことを確かめてから、焚火のそばに腰を下ろした。

全員で車座になり、器に盛ったトマト煮を口に運ぶ。ロトは大きな鶏肉を両手で持ち、ふうふうと冷ましてから、一口かじった。


「……おいしい」


「だろ? こいつの飯は、外れがねぇんだよ」


ルドが上機嫌で二杯目をよそっている。その様子を横目に、アギトが居住まいを正した。


「あの……お二人とも、今日はありがとうございました。それで、集落のほうは……」


クロが器を置き、短く頷く。


「三か所、回ってきた。結論から言うと、二か所は向いていない」


クロは淡々と、見てきたものを話していった。大きな村は、よそ者を受け入れる雰囲気がなく、人族が下働きとして扱われていたこと。谷間の小さな集落は、外との関わりを完全に断っていたこと。話を聞くうちに、アギトの表情が少しずつ曇っていく。ロトも、父親の袖をぎゅっと握りしめていた。


「そう、ですか……」


「だが、三つ目は森のかなり奥にある、貧しい集落だ。獣人と人族が、半々くらいで暮らしている。ハーフの子供も、何人かいた」


「ハーフの……?」


アギトが顔を上げた。ロトも、はっと目を見開いている。


「貧しい暮らしには違いねぇ。だが、皆、穏やかな顔してやがった。子供らも、泥だらけになって走り回ってたしな」


ルドが付け加えるように言う。


「集落の周りには、結界も張られてた。魔法の使える人族がいるのかもしれねぇ。奥地だから魔物も出るんだろうが、獣人の連中も、それなりに腕が立ちそうだった」


「……そんな場所が」


アギトは信じられないというように、小さく呟いた。その声は、わずかに震えている。


「ただ、受け入れてもらえるかどうかは、話してみないと分からない」

クロが釘を刺すように言うと、アギトは大きく頷いた。


「もちろんです。……それでも、可能性があるだけで、十分すぎるほどです」


隣でロトが、父親の顔を見上げた。何か言いたげに唇を動かしたものの、結局は言葉にならず、小さな手でアギトの服をきゅっと握り直すだけだった。


「明日、みんなで行ってみる?」


私がそう口にすると、クロとルドが顔を見合わせた。


「そうだな。話を通すなら、アギトたち本人が顔を見せたほうが早いが……」


「いきなり大勢で押しかけるのも得策じゃねぇ。まずは俺とこいつで先に様子を見て、頃合いを見て呼ぶ、でどうだ」


「……分かりました。お任せします」


アギトが深く頭を下げる。焚火の炎が、その横顔を柔らかく照らしていた。

ふと、気になっていたことが口をついて出た。


「ねえ。人族って、みんな魔法が使えるの?」


四人の視線が、一斉に私へ集まる。しまった、と思ったけれど、ルドは特に不審がる様子もなく、器を片手に肩をすくめた。


「小せぇ生活魔法なら、人族は誰でも使える。火を点けたり、水を出したり、ちょっと汚れを落としたりな。ただ、大きな魔法を使える奴は、そう多くねぇ」


「結界を張れるほどの使い手は、人族の中でも少ない。魔石を使った魔道具、という可能性もあるがな」


クロが静かに言葉を添える。


「それと、人族の血を引くハーフは、その生活魔法ですら限られることがあったり、人族の力も、獣人の力も、中途半端に受け継ぐ子もいるからな」


クロの言葉に、アギトの表情がわずかに曇った。ロトが、父親の袖をそっと握り直す。


「じゃあ、その集落の人たちは……」


私が尋ねると、クロは焚火に目を向けたまま、続けた。


「恐らく、力のある人族がいるか、魔道具があるのだろう。だが、それだけで成り立っているわけじゃない。獣人には身体能力があり、魔物を狩れる。人族には、魔法や、細かい手仕事の技術がある。互いに足りないところを補い合わなければ、あんな森の奥で暮らしていけない」


「共存してるってのは、そういうことだ。お互い助け合ってるから、成り立ってんだよ」


 ルドが器の中のスープを飲み干しながら言う。




ルドが器の中のスープを飲み干しながら言う。


「……そうですか……そんな暮らしがあるなんて、想像もしていませんでした」


アギトの声には、わずかな戸惑いと、それ以上に、静かな期待が滲んでいた。ロトが、父親の袖を握ったまま、小さく顔を上げる。


「……仲間に入れてくれるかなぁ……」



ぽつりと零れた一言に、アギトはロトの頭を優しく撫でながら、静かに答えた。



「ああ。そうなったらいいな……」


アギトの静かな答えに、私は何も言えず、ただ焚火の炎を見つめていた。


(みんなが、仲良く暮らせたらいいのにな……)

獣人も、人族も、その間に生まれた子供も。誰かが誰かを蔑んだり、拒んだりしなくていい場所が、この世界のどこかに、ちゃんとあればいいな……


日本で暮らしていた頃の私は、毎日が慌ただしくて、そんなことを考える余裕さえなかった。けれど、こうして誰かの居場所を探す旅をしていると、当たり前のように隣で笑い合える日々が、どれほど尊いものかを、ようやく実感する。





そのために、私にできることは、全部やろう!





そう心の中で呟いて、私は膝の上でそっと拳を握りしめた。










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