58 王都付近にて
馬とルドの暴走により、あれからどれくらい爆走したのかも分からない。
必死に鞍へしがみつき、振り落とされないことだけを考えていたせいで、時間の感覚なんて完全に消失している。
そして現在。どうやら王都近くの町まで来ているらしく、私たちは街道から少し離れた人気の無い森に入り、休憩を取ることにした。
「……つ、着いた……?」
「王都はまだだが、近くの町の入り口辺りまで来たぞ。この町の先に王都がある」
ルドは何でもなかったかのように答えるけど、私は馬の上で完全に硬直していた。
「……降り……たい……」
「おう 任せろ」
まるで荷物でも持ち上げるように、私の体を軽々と抱えて地面へ降ろした。
「ほら、降ろしたぞ」
「…………」
やっと馬から降りれたはいいけれど……両手が硬直して上がったまま、両足ガクブルで生まれたての小鹿の様である。
「ぶはっ! はははははっ!! お前、なんだその格好!!」
ルドが腹を抱えて大爆笑し始めた。
「ちょ、笑わないでよ! 誰のせいだと思ってるの!!」
「いや、俺じゃねぇだろ。馬だろ?」
「その馬を爆走させたのは誰よ!!」
「……まあ、細かいことは気にするな!」
私は怒鳴りながらも足はガクガクで、その場にへたり込みそうになったところをルドが慌てて支えてくれる。
「おいおい、しっかりしろよっぶふっっ!」
「……うぅ……だから笑うなぁ!」
畜生!!そんなに笑わなくてもいいじゃない!?馬なんて少し離れた場所で、何事もなかったかのように我関せずと、草をもしゃもしゃ食べていた。
なんだろう……この無性に腹立たしい感じ……
「悪い悪い! でもよー一気に王都付近まで来れたぜ!」
ルドは口元を押さえ笑いを堪えようとするものの、肩が小刻みに震えていて全然反省なんてしていない。
私は深いため息を吐きながら、自分の震える膝を見下ろして思う。絶対防御とは一体何なんだろう……この状態は防御が機能していないのでは? 怪我は防ぐけれど、衝撃までは消してくれない?そもそも、何を基準に「防御」しているんだろう……いまいち基準が不明である。
だが、今のこの状態をどうにかしなければ……
「!!」
私も栄養ドリンクちょっぴり飲めば良いのでは!?
インベントリから馬に使った残りの栄養ドリンクを取り出して掌に一滴垂らし、ひと舐めする。
あーら不思議!さっきまでガクガクしていた足が、ピタリと止まって元気いっぱい元通り!
「すごい! 完全復活!」
「……凄い効果だな。一滴で初級ポーションレベルかよ」
若干ルドの顔が引きつっているが気にしない事にした。持っている物は有効に使わないとね!
だけど、飲み方?使用量には、かなり注意しないといけない。そこは気を付けよう。
テントを取り出し、とりあえず中で休憩することにした。
ソファーに身体を沈めると、ようやく張り詰めていた力が抜けていく。アイスコーヒーと適当に用意した軽食をつまみながら、これからどうするかを話し合う。
「クロは大丈夫かな? 連絡してみる?」
少し心配になって尋ねると、ルドは考えるように腕を組んだ。
「緊急じゃ無ければ、連絡は避けた方がいい。必要だったら向こうから連絡するはずだ」
「……そうだよね」
クロは隠れて行動しているから、そっとしておいた方がいいよね?こちらから連絡するのは控えておこう。 しかし、クロの帰りがいつになるか分からないし……だけど、予定より遥かに早く王都付近まで来てしまった。待つしかないのか……
「クロから連絡が来るまでは、ここで待機。何かあれば魔石でで連絡すればいい」
「それはそうなんだけどね……でも、暇じゃない?」
「だが、待つしかねえだろ?」
確かに、クロから連絡が来るまで待つしかないとはいえ、すでに王都の近くまで来ているのだ。
ここで何時間、何日と待つのも少しもったいない気がする。
私は地図を確認しながら――
「もう少し進まない? この町超えて王都入り口まで行こうよ」
王都まではも少し距離があるから、少しでも近くで待機でもいいのでは?その方がクロだって戻って来やすいはずだ。ルドは一瞬考える素振りはしたが、「町は超えておくか」ということになったので、休憩を終えたらもう少し進むことにした。
テントを片付け、今度こそ普通の速度で王都へ向かう。街道へ出ると、先ほどまでの森の中とは景色が一変した。道幅の広い街道には王都へ向かう人や馬車が次々と行き交っていて、商人らしき人たちや冒険者と思われる一団も多く、さすが王都へ続く街道というだけあって、かなり賑わっていた。
「……人、多くない?」
「王都が近いからな。この辺りまで来ると、こんなもんだ」
ルドが手綱を握りながら答える。
今までは人に会うことも無く人目を気にする必要なんてほとんどなかったのに、今はそうはいかない。
今度は馬に無茶をさせることもなく、周囲の馬車と大体同じくらいの速度で進んでいく。
「目立たないように、ゆっくり行こうね」
「ああ。急ぐ必要もねえしな」
馬も先ほどとは打って変わって大人しく歩いている。やっぱり普通に進めば、こんなにも平和なのだ。
馬上から周囲を眺めていると、街道を行き交う人々の姿がよく見える。
商人らしき人、荷物を抱えた人、馬車の御者は獣の耳や尻尾があり、人族らしき姿は見当たらない。
まあ、ここは獣人の国なのだから当然といえば当然なのだろう。
以前、ルドから聞いた話を思い出す。この国では人族そのものが珍しく、しかも人族は弱いという偏見まであるらしい。
「人間は少ないって言ってたし……」
私はそっとフードを深くかぶった。顔がなるべく見えないように、前を少し引っ張る。
「挙動不審になるなよ? 逆に怪しくなる」
「分かってるって」
私は周囲を気にしていないふりをして、街道の先へ視線を向けた。
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