64話 ツキカゲの里の現状
徒歩でウェント山脈を進んでいくと、岩だらけだった風景に木々が混じってくる。
本来だったらこの辺りには魔物が出るらしいけど、なんせ全員が大妖精の加護持ちのため、魔物の姿は全く無かった。
「もうちょい森の奥に行くとツキカゲの里があるから、もうちょいだけ頑張ってくれ」
と、クウガ。ローラがぜぇぜぇと肩で息をしながら「りょーかい……」と返事をした。
確かに、今まで馬車とか転送魔法で移動してばっかりだったから、こんなに歩いたのは初めてかもしれない。さすがに疲れてきたな……。
そろそろ休憩したいな……。
そう思っていると、大精霊の加護があるはずなのに目の前に魔物が現れて、襲い掛かってきた。
「うわぁっ!」
「きゃぁっ、なんで!?」
私とローラはクウガとテオの後ろへと隠れ、2人に魔物を蹴散らしてもらう。
クウガの頭の上にいたルナがパタパタと飛び立ち、辺りを見回す。
「この辺りからエアリアル様の加護結界の気配が消えておる。そのため、個別に授かった加護も機能しなくなっておるのじゃ」
「加護って、そういう仕組みだったんだ……」
人間の国であるフリシア王国ですら世界樹が加護結界を張っていてくれたため、魔物はほとんど出現しなかった。改めて、大精霊の重要性を知る。
「いやでも、昔より数が多すぎる。クソッ、どうなってんだ?」
と、クウガ。何だか嫌な予感がするんだけど……。
「ツキカゲの里へ急ごう!」
そう言うテオに私たちは揃って頷くと、疲れていることなんか忘れて森の中へと入っていった。
⸺⸺ツキカゲの里⸺⸺
森と共存するように建ち並んでいる平屋の家屋は、どれもボロボロに崩れ去っていた。
「嘘……だろ……!?」
愕然とするクウガ。ううん、クウガだけじゃない。私たちもみんな、最悪の想像をした。
「クウガ……何人くらい住んでいたの……?」
ローラが泣きそうな声で問う。
「俺が去年最後に帰ったときは……100人以上は里に留まっていたはずだ……」
「100人……」
私は思わずそう呟く。100人どころか、1人も見当たらないんだもん……。いるのは魔物だけ。里の敷地だと思われる範囲は、見渡す限り魔物が徘徊していた。
「ふざ……けんなよ……」
クウガのギュッと握った拳がわなわなと震える。私たちはかける言葉が見つからず、お互い不安な顔でアイコンタクトを取るばかりだった。
⸺⸺その時。
「クウ……ガ? クウガかい!?」
突然聞こえてきた低い女性の声に私たちは一斉にそっちを向く。
視線の先には筋肉質の鬼のおばさん。その隣にはクウガが少し老けたような見た目の筋骨隆々の鬼のおじさんがいた。
「クウガか! 帰って来たか!」
「母さん! 父さん! ホノカや里のみんなは!?」
裏返った声でそう叫ぶクウガ。良かった、両親は生きていたんだ……!
「ホノカも里の奴もみんな無事だ。ここを下ったところにある洞窟内に身を潜めているんだ」
と、お父さん。
その瞬間、私たちは声を揃えて「良かったぁ〜」と脱力した。良かった、みんな生きていてくれて。正直、最悪の想像をしまくっちゃってたよ。
「クウガ、その子たちは……?」
と、お母さん。
「俺の仕事仲間だ。とりあえず、里のみんなのところに案内してくれ」
「仕事……そうか。うちの子が世話になってるみたいでありがとうな。分かった、とにかくお仲間のみんなも付いてきてほしい」
そう言うお父さんにうんと頷き、道中の魔物を蹴散らしながら坂を下っていった。
「里は、いつからあんなになっちまったんだ?」
と、クウガ。お母さんが答える。
「3日くらい前からさ。と言うか魔物の数は日に日に増えていたんだけどね、3日前に遂に手に負えなくなってみんな家を捨てて避難したのさ。避難先の洞窟には、奇跡的に魔物が出ないみたいだからさ……」
奇跡的に……それって、まさかエアリアル様の加護結界がそこまでは行き届いているんじゃ……。と、思ったけど、今は余計なことは言わないようにゴクンと飲み込んだ。
⸺⸺ツキカゲの民の避難洞窟⸺⸺
洞窟の中に足を踏み入れると中は大きく開けた空洞になっており、たくさんの数の鬼族が思い思いの場所で身体を休めていた。
「え!? お兄ちゃん!?」
そう言って走り寄ってくる一人の女の子。この子がもしかして……。
「ホノカ! 無事で良かったよ!」
「お兄ちゃーん!」
自然とハグする2人。クウガ、こんなに仲良しの妹がいたんだもん、ビックリだよ。
「で、長はどこにいる?」
と、クウガ。
「あっちで、養生してる……。みんなを里から逃がすために酷い怪我、しちゃったから……」
そう言ってホノカちゃんが指差した先には、包帯でぐるぐる巻になった鬼のおじいさんがいた。
クウガは長のところまで駆け寄ると、グッと胸倉を掴んだ。
「長、てめぇ、なんでこんなになってまで外に助けを求めに行かなかったんだよ! マジで馬鹿だろ!?」
「……てめぇは、クウガか。うるせぇ。ツキカゲの民は孤高の種族。外に助けなんざ求めねぇ。てめぇこそ、少しは強くなったのか。強くなってなかったら、ワシがてめぇを殺しちゃる」
「黙れよ……クソジジイのバカみてぇな掟は今日でお終いだ。ほら、見えるか? 金の勲章、全部集めてきてやったぜ」
クウガはそう言ってジャラジャラと4つの金の勲章を高く掲げた。
長の目が飛び出そうなほど真ん丸になる。
「金の勲章を……全部……だと……!?」
「えっ……お兄ちゃんが……長よりもずっとたくさんの勲章を……!?」
「クウガ、それ、本物かい!?」
「クウガ、やるじゃねぇか!」
クウガの家族だけではなく、洞窟全体がザワザワと騒がしくなる。嬉しさを押し殺しているような、そんな感じに見える。
「クウガ、貸せ……本物か確認する」
と、長。
「おうよ。好きにしろよ」
クウガがポイッと勲章を放り投げ、長がそれを受け取る。そして長はよろよろと立ち上がると、側に立て掛けてあった刀を取り、地面に捨てた勲章へ斬りかかった。
⸺⸺キンッ⸺⸺
「ぐぅっ……!」
本気で斬ろうとしたためか長の包帯が血で染まっていく。無理をして、傷が開いちゃったんだ。
しかし、それでも金の勲章は4つとも傷1つ付いていなかった。
「大精霊の力で作られた勲章だ。誰も傷つける事は出来ねぇんだよ」
と、クウガ。
「……あぁ、認めよう。この勲章は全て本物の勲章だ。クウガ、てめぇが今日からこの里の長だ」
長が苦しそうにそう宣言をすると、洞窟内は「わーっ!」と歓喜に包まれた。




