52話 タカの集いへ
⸺⸺ホークアイズ、渓谷食堂⸺⸺
ホークアイズ王との謁見を終えた私とテオは、良く分からない理由での宴は勘弁だったのでファムと連絡を取ってクウガとローラと合流した。
ホークアイズの一般市民が利用するこのレストランで、テオはローブを羽織って背中の翼を隠し、サングラスをして顔も隠しての食事となってしまった。なんだか芸能人みたいだ。
「あっははははは! なんでそのタイミングで“一緒に住む”なんて言い方しちゃったのよ、シル!」
「それならせめて仕事仲間4人でルームシェアってちゃんと言えば良かったよな……!」
ローラとクウガは笑い転げて食事どころではない。
「うぅ、ホークアイズ陛下、とにかくすごいオーラの人でさ、もうなんか頭がパニックになっちゃって……」
「そっかそっか、でも一国の王を目の前にして緊張しちゃう気持ちは分かるわ……私もオベロン陛下に対して最初はそうだったし。って言うか、シル、オベロン陛下は元から平気そうだったのに」
「あれはほら……なんか違うじゃん……?」
あの人は、国王って言うより……お父さん……? あれ、私、オベロン王のことお父さんって思ってるのか。本当のお父様もいるのに。
「おま……そんな言い方したらオベロン陛下傷付くぞ……?」
そう言うクウガに対しテオが「信頼してるからこそそう言えるのであって、僕は逆に喜ぶと思うけどな」と返した。
“信頼してる”って……なんか恥ずかしい。
⸺⸺
それから4人で渓谷を見て回り、空が夕焼けに染まってくると、エルフの人たちがあちこちの街灯に火を灯しているのが目に入った。
高低差の激しいこの土地での火を灯す作業。魔力に全振りで体力に乏しいエルフさんたちはゼェゼェ言いながら火をつけて回っていた。前にテオがエルフの“街灯番”がいるって言ってたの、きっとあの人たちのことだ。
「ねぇ、テオ。ホークアイズ陛下に魔導街灯設置の提案してみたら、乗ってくれるかな?」
「興味は持ってくれると思う。だけど、交渉は明日まで待って。僕も一緒に交渉しに行きたいんだ」
「明日まで……うん、分かった。今はとりあえずタカの集いだよね!」
テオはきっと、成長した姿を父親に見せた上で、何か言いたいことがあるんだ。
「ありがとう、シルフィ。じゃぁ僕はそろそろそのタカの集いの準備に行くよ。君とファムは特別来賓席での観戦だから、オベロン陛下と合流してね」
「えっ、ローラとクウガと一緒に見れないの……!?」
「私とクウガは、テオの親戚の魚人さんたちと一緒に見させてもらうことになったのよ」
と、ローラ。クウガが続く。
「国の正式なイベントだからな、こればっかりは身分で別れちゃうのも仕方ねぇ。オベロン陛下も独りで見るのは寂しいだろうし、側にいてやれよ」
「あぅ……そっか。しょうがない、ファム。オベロン陛下のところに行きますか」
私はそう言って妖精の羽を出現させた。
「行くのだ。特等席なのだ」
⸺⸺
私はファムを頭に乗せるとみんなと別れてスイーッと谷底へ滑空していった。
タカの集いの行われる場所は、谷底の闘技場。既にたくさんの鳥人族の人たちが観覧席に着席しており、わいわいと盛り上がっていた。
係の人に聞いて、オベロン王のいる控室まで案内してもらって合流。私たちは他の国の来賓の人たちと共にタカの集いの10分前に特別来賓席へと着席するらしい。
⸺⸺時刻は19時10分前。
係の人に案内されて2階の席へ辿り着くと、そこにはベアトリクス王妃と魚人の国王が合流した。ベアトリクス王妃のお父さんが魚人の国の貴族だから、その国の国王も来賓で呼ばれたんだ。
“魚人王”と挨拶を交わして、1階の観覧席を見ると、魚人の中に交じってクウガとローラの姿を発見。「クウガ! ローラ!」と叫ぶと2人はすぐに見上げてくれたので、おーいと手を振り合った。
開始5分前になると、対戦のルールとトーナメント表が発表された。
タカの集いには12歳から参加出来るようで、テオは今年が初参加となる。王子7人が全員参加となり、第1王子がシードとなっていた。
テオはいきなり第1回戦目の出場で、17歳の第6王子との対戦だ。
選手入場の直前になると、ベアトリクス王妃がはぁっと深い溜め息をついた。
「ベアトリクス殿下、どうしたんですか?」
思わずそう尋ねる。
「あぁ、すみません。タカの集いの入場は、2階から武舞台に飛んで降りるのです。でもあの子……飛べないのできっと別の入場口から入場することに……いきなり笑い者にされてしまうと思うと、心が痛くなってしまって……」
「えっ、あ……」
チラッとオベロン王にアイコンタクトを取ると、彼は小さく顔を横に振った。そっか、秘密なんだね。私は頷いて“了解”の意を示すと、「大丈夫ですよ、きっと。ほら、テオが出てきますよ、拍手で迎えてあげましょうよ!」とベアトリクス王妃の肩をそっと叩いた。
「ええ、そうですよね……。あれ、あの子の姿はどこに……?」
一生懸命1階を探しているベアトリクス王妃。
「あっ、いましたよ、上です、上。2階です!」
「えっ、2階!? まぁ、正式な入場口に!? まさか……あの子飛び降りる気では……!?」
ベアトリクス王妃が真っ青な顔で見守る中、テオは向かいの入場口の第6王子と共に滑空をして武舞台へと降り立った。
「と、飛んでいましたわ! 今、あの子……飛んで!」
大興奮のベアトリクス王妃。真っ青な顔は一瞬で希望に満ち溢れてキラキラとしていた。
テオは、他の鳥人族に比べて筋力が極端に少なく、飛ぶことが出来なかった。今の彼は、自身の魔力で浮いているだけだ。でもそれは、高度な魔道の技術。“街灯番”の人だって魔力で浮くことは出来ないから走って街灯に火を灯していた。
どちらにしてもテオは、血のにじむような魔道の修行を重ねてここまで辿り着いたんだ。
対戦者2人の入場にわーっと会場が湧き起きる中、玉座で観覧していたホークアイズ王も立ち上がって身を乗り出していた。多分、彼もテオが飛べないと思っていたからだ。
「よーし、応援するぞー! テオー! 頑張れー!」
「テオ! 頑張るのだ!」
私が立ち上がって柵に捕まり身を乗り出すと、ベアトリクス王妃も立ち上がって隣に来てくれたので、私たちは顔を見合わせてうんと頷いた。
「オベロン陛下、彼が持っている武器は……棍、のように見えますが……違いますね?」
私たちの後ろで魚人王がオベロン王へそう尋ねる。
「ははは、実はあの武器、そこのシルフィが彼のために作った特注品なのですよ」
「シルフィ殿が、あれを……!? いやはや、彼にも、彼女にも興味が湧いてきましたな」
気付けばオベロン王と魚人王も私たちの隣に並んで立っており、ここの特別来賓席だけ異様に気合いが入っていた。




