40話 繋がった家族
⸺⸺翌日の昼過ぎ。
午前中の業務を終えた私とローラは、2人でユグドーラ城へとやって来ていた。
⸺⸺ユグドーラ城、玉座の間⸺⸺
「なんだなんだ? 文句は受け付けんぞ。と言うか衛兵はこいつらを勝手にポンポン玉座まで通し過ぎなんだ」
なるほど、オベロン王、勝手なことしてって文句を言われると思ってるんだ。
「あはは、だって……『これはこれはシルフィ様、今日も陛下は暇そうなのでどうぞ構ってやってください』って……」
「ほぅ、あの衛兵、どこに追放してやろうか……」
不気味な笑みを浮かべるオベロン王。
「えっ、やばっ……! ウソだって! じょーだんに決まってるでしょ? も〜!」
「“じょーだん”には聞こえなかったが」
「ぴえええ……! ごめんなさい! こ、これは、それだけオベロン陛下が衛兵さんたちに愛されてるってことでしょ? お願いします、追放しないであげてください!」
私は必死に頭を下げた。衛兵さんが言ったことは本当だけど、私の余計な一言のせいで追放されてしまっては、一生後悔する気がする。
すると、オベロン王は喉でクックと笑った。
「……“じょーだん”だ。その程度で追放などするか」
「“じょーだん”には聞こえなかったけど!?」
私は涙目でそう言い返したが、同時に冗談で良かった、と胸を撫で下ろした。
「で、何の用だ? ローラと一緒に来るということは、用があるのはローラの方だろう?」
「そうだよ、こんな“じょーだん”言いに来たんじゃないよ」
私はそう言って隣に立っているローラを見上げた。
「ふふっ、シルとオベロン陛下って、親子みたい」
「親子ではない」
「親子じゃないよ、妖精王は家族を持っちゃいけないから」
と、即答する私たち。そんな私たちを見たローラはふふふっと笑っていた。
笑いの収まったローラは真剣な表情で口を開いた。
「オベロン陛下。私の家族のことでお気遣いくださり、本当にありがとうございました。おかげで私は……5年も疎遠だった家族と仲直りをすることができました」
ローラは鋭角にお辞儀をした。
「別に私は何もしていない。勝手にベラベラと色んなことをしゃべったのはそこのちんちくりんだ」
「ちんちくりん……!」
ガーンと衝撃を受ける私。って言うかオベロン王って、仲良くなればなるほど素直じゃないと言うか、あまのじゃくと言うか……。
「あははっ、それでも、そのきっかけをくださったのはオベロン陛下です。ですので、ありがとうございました」
「……まぁ、解決したのであれば何よりだ」
「あの、それで……私の家族がコーヒー農園を作ってくれることになったんです」
「ほぅ」
「お願いがあります。私も栽培の様子を見に行きたいので、この世界樹の麓のどこかにカーネ自治領への転送魔法陣を置いてくださいませんか!?」
「お願いってそれかぁ!」
なるほど、と納得する私。
世界樹の大森林は広いから、陸路で行くとカーネ族の長の集落まで片道1時間以上かかってしまうらしい。これからコーヒー豆のやり取りを頻繁にすることも考えたら、一瞬でパッと行けたほうが良いよね。
「ふむ、転送魔法陣か……。しかし、悪いがカーネ自治領へ行く観光客や冒険者はいないに等しい。よって、需要がないな」
「えっ、そっか……色んな町への転送魔法陣は、需要があるから設置されているんだ……あっ、ローラ以外にも需要、あるよ!?」
「なんだ?」
「私、私今魔導街灯を設置しに行っているでしょ? 転送魔法陣を置いてくれたら、もっと気軽にお仕事しに行けるよ!」
「シル、ナイスよ!」
「それは私が監督として付いていくから問題はない」
「え〜っ! でもさぁ、設置後にちゃんと街灯が機能しているかなとか、見に行きたいし……」
「固定の転送魔法陣を設置するのは先方との協議も必要なんだ。こればかりは個人のためには設置できん。帰った帰った」
「ええ〜!」
「シル、良いよ、大丈夫。元々ダメ元だったから。オベロン陛下、相談に乗ってくださりありがとうございました。失礼します」
ローラはそう言って駄々をこねる私を引っ張ってユグドーラ城を後にした。
⸺⸺しかし、翌朝。一人のイヌ耳の獣人族が安らぎ亭を訪ねてきた。
「ローラ! シルフィさん!」
「あっ、ラウルさんだ」
「ラウル!? 何しに来たの?」
訪ねてきたのはカーネ族の族長の息子であるラウルさんだった。
「昨日、オベロン陛下が転送魔法陣っていう一瞬でこの世界樹の麓と行き来できるすごいやつを設置してくださってさ、早速使ってみたんだ」
「「……あれ?」」
私とローラは顔を見合わせてハテナをそこら中に撒き散らす。
昨日は門前払いだったのに……。
「カーネ族は今まで自分の足で各国の傭兵の仕事に行ってたけど、世界樹の麓と繋げてくれたおかげで効率的にあちこち行けるようになったんだ!」
「あっ……そっちの需要!」
カーネ族は優秀な戦闘民族。だからカーネ族が仕事をしやすいっていう需要をオベロン王は見つけて、設置をしてくれたんだ。
「良かったじゃない。世界樹の麓のどこに設置されたの?」
と、ローラ。
「すぐそこだぞ。この安らぎ亭のすぐ隣だ」
「ここのすぐ隣!?」
「オベロン陛下……門前払いしたくせに……も〜、ホント素直じゃないんだからあの妖精王は……」
私はやれやれとため息をついた。
でもこれでローラも一瞬で故郷に帰れるようになり、早速昼過ぎに私とローラで集落に遊びに行くのであった。




