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妖精王の愛し子、世界樹のふもとで魔導具屋さん始めます!  作者: るあか
第四章 家族

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38話 言わないと伝わらないこともある

⸺⸺翌日の15時過ぎ、安らぎ亭の寮の庭で。


 私は、ローラの家族が来ることを期待して寮の庭でかき氷パーティーをする約束をしていた。

 今日も良い天気。こんな日はアイスコーヒーとかき氷がより一層美味しく感じそうだ。


「みんなまだかな〜」

 ベンチに座って足をぶらぶらさせていると、ファムが「ローラが来たのだ〜」と教えてくれた。

 顔を上げるとアイスコーヒーを乗せたトレイを持ったローラと目が合い、彼女はパチンとウインクした。

「お待たせ♪ かき氷はみんな揃ってからにするわね」

「ローラ! うん、ありがとう♪」

 私はベンチからカフェテーブルへと移動して、ローラの向かいへと座った。


「ねぇ、昨日さ……カーネ自治領の長の集落行ったんでしょ?」

 ローラは少しモジモジしながらそう話を切り出した。

「うん、ローラのアイスコーヒー、とっても美味しいって評判だったよ」

 私がそう返すと、ローラはパッと表情を明るくして嬉しそうに「本当!?」と言った。


「うん……あのアイスコーヒーって、ローラがオベロン陛下に持っていくようにお願いしたの?」

「ううん、オベロン陛下が当日手土産に世界樹の(ふもと)の名物を持っていきたいからって、注文してくれたの。私が淹れたって言ったら、きっとみんな馬鹿にして誰も飲んでくれないから、匿名で出してって、そう言う条件で仕事を受けたの」

「そう、だったんだ……」


「あっ、実はね、私の家族、私以外全員族長の家に仕えて近衛兵をしているのよ。みんな武道の達人で、すっごく強いの。だから、シルも昨日知らないうちに私の家族と会っているかもね」

 ローラはそう言って寂しそうに笑った。するとファムが口を開きかけたので、私は慌ててファムの口元を押さえた。

「んー、もごもご……!」

「ど、どうしたのシル? ファム、何か言いたそうだけど……」

「あはは、ほら、タイミングって言うのがあるから……」

 苦笑いをして誤魔化す私。経験上、ファムは絶対“ローラの話もちゃんとしたのだ”とか爆弾を投下してくるに決まっている。


「タイミング?」

 ローラは首を傾げる。

「うん、ごめん、こっちの話……それより、ローラはアイスコーヒー美味しいって言ってもらえて嬉しい? 私てっきりローラは家族のこと嫌いなのかなって……」

「ええ、私が淹れたんだって気付いてもらえなくても、家族から美味しいって言ってもらえるのは嬉しいわ。嫌いなのは、私じゃなくて家族の方。家族が私のことを嫌いなのよ……」

 ローラはまたしても寂しそうに笑った。

「それは……」

「ふご、ふごふご……!」

 ファムが何か言いたげにもがいている。どうしよう、ローラの家族、今日は来ないのかな。私の口から、言っちゃって良いのかな……。


⸺⸺その時だった。


「ローラ!」

 ローラの名前をたくさんの人が一斉に呼ぶのが聞こえてきて振り返ると、ディグさんにイリナさん、そして族長の息子のラウルさん。更に5人ものイヌ耳の獣人の男女がズラリと並んでいた。ローラって……6人兄妹!? 多いな……!


「えっ、待って……何で……!?」

 ローラは大きく目を見開いてその場に固まっていた。お邪魔だと思った私はファムを抱えたままカフェテーブルから離れた。

 ありがとうローラのご家族さん、ギリギリ間に合ったよ……!


 更にこのタイミングで安らぎ亭の方からクウガとテオが歩いて来ていたので、私は彼らと合流してお口をチャックするよう伝えた。

 2人ともファムと違って空気は読めるので、すぐに状況を理解して大人しく見守ってくれた。


「ローラ、5年ぶりね……もうすっかり立派な大人じゃない」

 と、イリナさん。彼女は既に涙を流していた。

「昨日はアイスコーヒーをありがとう。とっても美味しくて、父さんびっくりしたぞ」

 ディグさんはそう言って遠慮気味に笑みを浮かべた。

「え、えっ……!?」

 戸惑うローラに、イヌ耳のお兄さんも声をかける。

「安らぎ亭の看板見せてもらったよ。あったかくなるイラストだった」

「うん、お姉ちゃんの絵、すごく素敵。私はあんなふうに絵を描いたり出来ないから、すごいなって思った」

 と、妹らしき女性が続いた。


「何で……? だって、みんな、私のこと散々馬鹿にして……」

 ローラの声はぶるぶると震えていた。唇をギュッと噛み締めて、ポタポタと大粒の涙がこぼれ落ちる。

 そんな彼女を見た家族らは、一斉に頭を下げた。


「ローラ、ごめんなさい!」

「ローラ、すまなかった!」

「ごめん!」

「ローラごめん、俺たちが間違ってた!」

「ごめんなさい、ローラお姉ちゃん!」

 次々にローラへの謝罪が飛び交う。


「何で……今更……」


「お前が集落を出て行ってすぐに、私たちは過ちに気付いた。種族の偏見で、どれだけお前のことを傷付けていたのかを知った……」

「ラウル様が、守秘義務を破って小さい頃にあなたに命を救われた話をしてくださったの。お母さん、その話を聞いて、あなたのことを誇りに思ったわ……」

 そう言う両親に続いてお兄さんが口を開く。


「俺たち、すぐにあちこち行ってお前のことを探したんだ。だけど、なかなか見つからなくて……2年くらい前にこの安らぎ亭にお前らしき獣人がいるって発覚したんだ」

「でもお姉ちゃん、私たちのこと、顔も見たくないかなって思って、怖くて会いに行く勇気が出なかったの……ごめんなさい……」

 妹はそう言って再度頭を下げた。


 ラウルさんが一歩前に出る。

「きっと偏見の塊のカーネ族なんてもう見限っているって、そう決めつけて、俺たちはずっとお前への罪から逃げ続けていたんだ」

「偏見の塊……でも、ラウル、あなたは私を馬鹿にするような言葉は一度も言わなかったわよね……」

 ローラが静かにそう言うと、ラウルさんは顔を真っ赤にしてまごついていた。

「それは、その……。俺の話は置いといて、今はお前の話だ。ディグさん……!」

 彼はローラの父親のディグさんへと話を振る。


 ディグさんは頷いて、こう話した。

「昨日、シルフィさんに思いっ切り(かつ)を入れてもらって、もう逃げるのはやめることにしたんだ。シルフィさん、昨日はありがとうございました。実はローラの兄妹たちも、みんな扉の外で聞き耳を立てていたんです」

 空気になっていたはずなのに急に話しかけられた私は「えっ、あっ、こちらこそ、みっともなく泣き叫んじゃって、すみませんでした……」と咄嗟(とっさ)に頭を下げた。


「えっ、シル……もしかしてあなた、私の家族だって知って、怒ってくれたの?」

「えっと、怒ったというか……駄々をこねたと言うか……あの、さっきは黙っててごめんね……!」

 ペコペコと謝る私は、気付けばローラに抱き締められていた。

「あなた、ほんっとに友だち想いの良い子よね……! 分かってるわ、“タイミング”でしょ?」

「うん……」

「ありがとね、シル……!」

「うん……!」

 私は胸がいっぱいになり、ただ返事をすることしかできなかった。


「にゃぁはタイミングが悪かったみたいなのだ」

 と、ファム。そんなファムも私と一緒にローラに抱き締められていた。

「ファムも、私のために教えようとしてくれていたのよね。ありがとう」

「どういたしましてなのだ」


「それで昨日、家族でお前のことをよく話し合って決めたことがあるんだ。良かったら聞いてくれないか……?」

 遠慮がちにそう言うディグさんに、ローラは「聞くわ」と頷いた。


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