27話 相棒とダンジョンでほのぼの素材集め
⸺⸺世界樹のダンジョン、初級の火山洞窟B19F⸺⸺
私とファムは水晶の欠片を求めて火山洞窟の地下19階へとやってきていた。
水晶はこのフロアの岩壁をくまなく探すと、キラキラと輝いているところがあり、そこをピッケルでカンカンすると水晶の欠片がポロッと落ちる。
1回カンカンするともういくらカンカンしても水晶の欠片が落ちることはないので、別の採掘ポイントを探しに行かなければならない。
「シルフィ、こっちにあったのだ」
「あっ、本当だ、ありがとうファム!」
⸺⸺カンカン、ポロッ⸺⸺
落ちた欠片を拾って背負っているカゴにポイッと放り込む。
水晶だけではなくスチール鉱石や魔石も大量にいるので、壁や地面をくまなく探してカゴにポイポイと放り込んでいった。
「水晶の欠片の採掘ポイントがもうちょっと湧けばいいのにねぇ」
「ダンジョンの外の自然の洞窟でも水晶は珍しいからしょうがないのだ」
ファムはそう言いながら地面に落ちている魔石を拾ってカゴに入れてくれた。
「そこんところ、リアルに作ってあるよね。そもそもダンジョンって誰が管理してるの?」
「ティターニア様がそれ用に生み出した“世界樹の精”、通称“迷宮の妖精”が採取ポイントや魔物の配置なんかを全部管理しているのだ」
「えっ、そんなこと出来る世界樹の精がいるの!? びっくりだ……」
世界樹の精にもいろいろいるんだな……。
⸺⸺
地下19階を練り歩いていると、小部屋の手前で鎧の騎士の魔物が仁王立ちしている現場に遭遇する。
「あっ、こいつ、今日はこんなところにいる! これじゃぁあの部屋の行けないじゃん……」
「大抵こういう固定の魔物が守っている先の部屋には、ちょっといい宝箱があるのだ」
「よし、行くか……」
私は覚悟を決めて、その魔物へそろりそろりと近付いていく。すると、ファムが私の背中をグイグイと押してきた。
「ちょ、やめてファム! ぶつかる、魔物にぶつかるって!」
「そんなに慎重に行かなくてもどうせ気付かれないのだ。世界樹の祝福は絶対なのだ」
「でも、怖いでしょ!? 慎重に行くから押さないでよ!」
私は再びそろりそろりと魔物の手前まで行き、カニさん歩きで魔物と壁の隙間を通り抜けていく。
私の服がひらひらと魔物の鎧に当たってしまっているが、魔物は見向きもしない。私は魔物の立派な兜をまじまじと見つめながら奥の小部屋へと侵入した。
「魔物の目の前をそんなふうにゆっくり通る方が怖いのだ……」
ファムははぁっとため息をつきながら魔物の頭上をスィーッと通り抜けた。
小部屋の中には2つの宝箱と、壁にはいくつかの採掘ポイント、更に地面には火炎草が2つ生えていた。
「こんだけ苦労して来たんだから、きっと箱の中身は良いものだよね〜?」
「他の冒険者に比べたら特に苦労はしていないのだ……」
1つ目の宝箱の中身は、“炎の魔石”だった。
「炎の魔石……ハズレだ……」
私はそう言ってシュンとしょげる。
「初級のフロアで炎の魔石は普通は当たりなのだ。炎の魔石は中級以降のフロアにしか落ちてはいないのだ」
「だって……魔石と火炎草で作れるんだもん……」
そして2つ目の宝箱も……炎の魔石だった。
「何でなの!?」
「普通は喜ぶのだ……」
採掘ポイントも水晶はなし。適当にカンカンしてスチール鉱石やらを集めていく。そして真っ赤な火炎草の葉っぱを1枚1枚プチプチとちみる。
「シルフィ、ヤケクソなのだ……」
「ないわ〜。宝箱2つとも炎の魔石とか、ないわ〜……」
「水晶の欠片は、“クォーツスライム”のレアドロップなのだ。魔法を覚えてクォーツスライムを倒しまくれば、きっともっとたくさん集められるのだ」
「そうなの!? 魔法って、そんな簡単に使えるのかな……?」
「魔法は、シルフィならきっと楽勝に覚えられるのだ。問題はその後なのだ」
「……と、言いますと?」
「一度でも攻撃を仕掛けると、その魔物に対しては世界樹の祝福の結界効果が切れるのだ」
「……つまり?」
「ワンパン出来ないと反撃されるのだ」
「なるほど……だから今までファムも言わなかったのか……」
「シルフィは戦うのは嫌なのだ」
「お、良く分かってるね」
「にゃぁは相棒なのだ。それくらい分かるのだ」
そう言ってドヤ顔をするファム。私は相棒という響きが嬉しくて、ファムをこのこの〜と突っついた。
「シルフィ。何でもかんでも自分で集めないでも、冒険者ギルドに依頼を出して取って来てもらえば良いのだ。依頼料を払っても、魔導具なら十分に利益が出るのだ」
「なるほどね〜。確かに水晶の欠片はお願いするのもありだなぁ。あっ、クウガに個別依頼出そうかな?」
「クォーツスライムは物理攻撃がほとんどきかないのだ。魔法が使える冒険者にお願いしないとダメなのだ」
「あらら……そうなのかぁ」
魔法が使える冒険者を雇うか、私自身が魔法を覚えるか……。
いや、やっぱ戦いたくないから魔法を覚えるのはなし。
⸺⸺
結局その後ものんびりマイペースに素材を集めて寮の自室へと帰宅。
ひとまず時計は、その日集まった水晶の欠片の数に応じて翌日の“魔導クオーツ懐中時計”と“魔導クオーツ目覚まし時計”の販売個数を決定することにした。
壁掛け時計とからくり時計は商品化は見送りだ。




