28話 製氷器はいかが?
それから数日かけて、ルシールさんへの納品分の魔導クオーツ時計をせっせとクラフト。
もちろん他の商品のクラフトもしながらなので、結構な素材の消費をする。これは新商品をあまり増やしすぎるのも考えものだな。
ルシールさんへの納品を終えると、ようやく懐中時計と目覚まし時計の商品作りに手が出せるようになった。
どちらの時計も販売開始をした初日から即完売続き。ランタンやランプも未だに完売し、すこぶる順調である。
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同じワゴンの隣でカフェをしているローラもコーヒーが美味しいと話題になっており、コーヒー豆の種類とかを聞いていくお客さんが多かった。
でも、ローラのコーヒーが美味しい理由、私はなんとなく予想が出来ている。
ローラは、犬の種族だからかめちゃくちゃ鼻が良いんだ。
良いコーヒー豆を嗅ぎ分けるのはもちろんのこと、ドリップをし始めた時の香りの立ち方で毎回淹れ方を変えているような、そんな気がする。
その境地に立つまでにはどのくらい練習をしたのだろうか。ローラの努力の精神には本当に感服する。それを見ていると、私も素材集めくらい自分でしなくちゃなぁって、思うんだよなぁ。
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ある日、私は完売してローラも午前中の業務を終えて、2人で町に出て食べ歩きをしていた時のことだった。ファムは私の頭の上で昼寝をしている。
「シル、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「うん? なになに?」
ホットドックにかぶり付いて返事をする。珍しいな、ローラがお願い事だなんて。
「あの保温箱と氷冷器を合わせた“冷蔵庫”ってのあるじゃない?」
「うんうん」
ローラはミルクを冷やすのに使ってくれている。
「あの氷冷器の威力をもっと上げて、急速に冷やすような魔導具、作れないかしら……」
「急速に冷やす……?」
「うん、今日みたいな日って天気も良いから、コーヒーも酒場で出てくるジュースみたいに冷えてる物が欲しくなるのよね」
「なるほど! アイスコーヒーを作りたいんだ!」
「アイスコーヒー……そう言う名前があるのね?」
この世界ではジュースのような冷えた商品は氷の魔法が使える人が急速に冷やして提供している。前世では当たり前にしていた氷を入れるようなことはしない。なぜなら、氷を作るという文化がないからだ。
氷は、魔法で空気中の水分を凍らせて作るか、山脈の高いところの雪が降っているようなところにしか存在しない。魔法で凍らせた氷も食用ではないし、氷を食べるという発想がこの世界の人にはないようだった。
「そうだよ、温かいのはホットコーヒー、冷たいのはアイスコーヒーって、前世の世界では呼んでた」
「やっぱり、シルの前世の世界でもコーヒーを冷やして飲みたいって願望はあったのね!」
「うん。ローラの言ってる方法でも出来なくはないと思うけど、もっと新しいことしてみない?」
「新しいこと……!? なんだかワクワクしてきたわ♪」
ローラはパッと笑顔になる。前世の知識を披露する瞬間のみんなのワクワク顔が私は大好きだ。
「あのね、氷を作るの! 実は……“魔導製氷器”って言うのを最近開発したんだ♪ かき氷器も作れたから、そろそろみんなにお披露目しようかなって思ってたんだよね」
「氷を作る……!? い、一体どういうこと……!? かき氷器……!?」
ローラは目をぱちくりとさせて頭にはてなマークを散らしている。
製氷器もかき氷器も、前世で言う製氷機とかき氷機と同じ仕組みだ。ただ動力が電気ではなく魔石なだけ。
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私たちは安らぎ亭へ帰ると、早速寮の庭へと集合した。最近はここのカフェテーブルがみんなの溜まり場になっている。
私は魔導製氷器で作った氷を紙コップに入れて、ローラへ差し出した。
「この氷ね、飲水を凍らせたから、食べられるんだよ」
「えっ、すごい……しかも真四角で綺麗ね……」
ローラは氷を指でつまんで「冷たっ」と言いながら口に含む。
「んん、すごい冷たい……! 氷を食べるなんて初めてだわ……!」
「えっと、アイスコーヒーは、濃いめにドリップしたコーヒーにこの氷を入れて作ってるんだったと思う。豆もホットとは違うのを使うのかな……ごめん、そこは素人であんま詳しくない……」
「そう言うことね、ちょっとやってみるわ。いつもよりゆっくり淹れてみるわね」
ローラはそう言ってすぐに別の紙コップにコーヒーをドリップし始める。コーヒーの良い香りが庭中に広がっていった。
そして氷を入れて2人で試飲してみる。私は普通に美味しいと思ったけど、ローラは普通じゃ駄目だとイマイチのようだった。
「そうか……冷やすと苦味が減って酸味が増えるのね。これは焙煎の段階から改良する必要があるわね。挽くのもあれこれ試してみても良いわ……」
ローラは魔導製氷器を従業員価格で購入すると、アイスコーヒー開発のため自室へと戻っていった。
「ローラ、アイスコーヒーの味に納得していなかったのに、すごく楽しそうだったのだ」
と、ファム。
「私は分かるよ。私も魔導具の開発をするの、すごく楽しいから。あれならすぐにもっと美味しいアイスコーヒーを開発してくれそうだね」
「なら、ローラのアイスコーヒーお披露目に合わせて、シルフィも“かき氷”のお披露目をするのだ。にゃぁはいちごジャムから作ったシロップ、大好きなのだ♪」
「良いね、それ! みんなでかき氷パーティーしよう♪」
この後、ローラに「カフェで売って欲しい商品があるからアイスコーヒーが出来たら試食会をしよう」と約束をして、私は今日もダンジョンに出かけるのであった。




