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命の雫  作者:
第2章
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10/12

第10話 幻影の約束

谷の奥へ進むにつれ、霧はより濃くなっていった。

地面はぬかるみ、木々の影が不自然に揺れている。

「...さっきから、足音が多い。

俺とお前以外に、誰かいる」カイが後ろを見た。

だがそこには、何もいないはずの影が揺れていた。


「新くん」

その声に、新の全身が固まった。

振り向くと、霧の中に“彼女”がいた。

「流那...?」

そこには病室で見たままの笑顔、少しだけ伸びた髪、そして白いワンピース姿の流那が立っていた。

「やめろ、新!それは幻だ!」

カイが叫んだが、新は一歩、彼女に近づいてしまう。

「...なんで、ここに」

「会いに来たんだよ。新くんが、わたしを助けようとしてるの、知ってるから。...うれしかった」


その声は、本物の流那の声だった。

優しくて、あたたかくて、何度も夢で聞いた声。

「...でもね、もういいの。無理しなくて」

「え?」流那がほほえむ。

そのほほえみの奥に、どこか悲しみが混じっていた。

「リクくんが旅を続けたら、もっと傷つく。

わたしのことなんか、もう忘れてしまって...」


「...違う!」新は叫んだ。

「僕は、流那を助けたい!この手で、ちゃんと!」

すると、流那の表情がすうっと変わった。

その目が、どす黒い影に染まる。

「...そう。なら、証明してごらん。

君の“想い”が、どこまで本物か」

一瞬で流那の姿が崩れ、黒い霧へと還った。

同時に、足元の地面が崩れ始める。


「新、跳べ!!」

カイが手を伸ばし、新の腕を引いた。

地面が割れ、霧が叫びのような音を上げて唸る。

二人は転がるように谷の外れに落ち、

息を切らしていた。霧は静まり返り、

幻も消えていた。

「...あれが、この森の“試練”だ。

心の奥にある、弱さや後悔を突いてくる」

「...負けない。絶対に、流那は助ける」

新の目に、恐怖ではなく決意が灯っていた。

カイはそれを見て、黙ってうなずいた。


まだこの森の力の全貌はわからない。

だが確かなのは、この先にある“鍵”に手を伸ばす者は ...まず、心を壊されるということだ。


(#11に続く)

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