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ストーカー三昧・浪曲、小話、落語  作者: 多谷昇太
講談(1)お力
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ついに丸木橋を渡ったお力

ならば決して丸木橋を渡ることなど叶わぬ!…とお力は思いますがしかし、その脳裡にたったさっき飛び出して来た菊の井の喧騒がよみがえります。場末の新開地に立つ銘酒屋に過ぎないのに、あんないい女が居る、菊の井のお力と云えば誰も知らぬ者なし、などとやたらチヤホヤされるけど、その我が身の実態は夢も明日もない、浮かれ柳に翻弄されるだけの哀れな存在でしかない…そんなアンビバレントな、且つカオスでしかない実態に堪えかねて菊の井からたった今、あたしは飛び出して来たのではなかったのか…。こうしてやたら錯綜するお力の目にはお堀にかかる橋が、丸木橋が、確かにあの世へと渡る〝夢の浮橋〟にも見えたことでしょう。いっそすべてを振り捨てて〝てんぢくの果までも行つて仕舞たい〟のです。畢竟お力にとってこの丸木橋には二重、三重の意味があったのですね。堅い世間から見れば虚飾に充ちた岡場でしかない、菊の井にはもう戻りたくない…が(?)、では源七か、それともあの世か…いつしか錯綜し切ったお力は「お盆の霊たちよ、あの世に帰る霊たちよ、あたしを連れてって」とばかりに丸木橋を渡っていたのでした。渡った先には夜店が立ち並ぶにぎやかな小路があってそこは人立ひとだちおびたゞしく、物を買う人、商う者、それを揶揄う者、あるいは夫婦争いの軒先などがあって、真に賑やかな限りなのですが、どういう分けか、お力の耳にはそれらの喧騒が、井戸の底に物を落したような虚ろな響きにしか聞こえて来ません。行き交いする人の顏が皆小さく/\見えて、袂に摺れ違うほどの人の顏さえもが遙遠くに見るように思はれ、まったく現実感がないのです。それは恰も自分が踏む土のみ一丈(約3メートル)も上にあがりたるような心地なのでありました…

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