つかの間の日常?12
「すみません。ここまで重かったですよね」
「ん?全然?」
謝ったが、首を傾げられてしまった。
「そーいや言ってなかったっけ?あたし、女の中では力がある方なんだよね。だから気にしないでよ」
成程、と納得した。確かに大人を背負って歩いてきたというのに、息切れやばてる様子も全くなかった。
石造りの道を進み、建物の扉を押して中に入る。入って正面にカウンターがあり、女性が立ち上がった。受付の事務員だろう。
「おかえりなさいませ。フレアローザ少将」
「ただいまー」
緊張感のない声で、レティ達とずっと一緒にいた男がゆるりと手を挙げた。受付嬢は後方に立っているリンリーに気がついた。
「……それと、あら?本日お休みではなかったですか?オルフェウス中佐。それに、そちらの方は?」
「休みだけど、ちょっとトラブルに巻き込まれてね。この子はその時にケガさせちゃったから、医務室に連れて行こうかと」
「成程。それは災難でしたね。中佐も軽くケガなさっているようですし、治療されてください。こちら、許可証ですので腕を」
言われた通り腕を出し、受付嬢はゲストと黄色の刺繍がされた深緑の腕章をつけてくれた。
「ありがとうございます」
「おケガ、お大事になさいませ。お帰りの際に腕章をお返しください」
「はい」
レティはお礼を言って、リンリーはまた歩き出し、男ものらりくらりといった足取りで少し前を歩く。
「リンリー様は、あの中佐ということは」
軍の階級については全く知識がないが、リンリーが恐らく偉いのだろうということはわかった。彼女からの返答が来る前に、男が足を止めてこちらに体を向けた。
「まだ名乗ってなかったね。改めまして、彼女はリンリー・オルフェウス中佐。僕は、サーシス・フレアローザ。一応、少将をやってます。リンリーは僕の部隊の直属の部下で幼馴……」
「腐れ縁!」
リンリーが上から被せるように言った。
「幼い頃にたまたま家が近くて、たまたま進学した学校が全部同じで(しかも同じクラス)、まぐれで同じ職場なだけの赤の他人」
「酷い!」
「ちょっと顔と家柄がいいからって、何人もベタベタ女を張り付けてデレデレしてたような奴と知り合いなんて、恥なんだから」
リンリーは歯をむき出して、サーシスを睨みつけた。ふむふむと話を聞きながら、レティは吞気に口を挟む。
「リンリー様は、サーシス様が大好きなんですね?」
少しの間があり。
「はっ?」
リンリーの口の端が引きつっている。
「サーシス様が、何人もの女性の方と親しくされていたのがモヤモヤとしていたということは……」
「わーー!!!!」
サーシスは目をぱちくりさせ、大きな声でレティの言葉を遮ったリンリーを見つめた。
「そうなの?」
当の彼女と言えば耳まで真っ赤になり、恥ずかしいのか珍しく目の端に涙すら浮かべている。
「なんだ。それなら早く言ってくれればいいのに」
サーシスが微笑みながら、震える彼女の腕に優しく振れたところで。ゴゴゴゴゴゴゴゴ。地鳴りのようなオーラが見え、そしてその場が眩く光った。
「触るなァ!」
ガジガジガジ。サーシスの頭に白い何かが噛み付いている。
「そんな激しく嫌がらなくても」
「ひぃっ!サーシス様、頭から血が!」
「平気平気、いつものことだから」
にこにことしているが、頭の端からダラダラ血が流れているのは、見ている方にとって恐怖でしかなかった。




