第311話 ~襲撃~
モルガナイトがアメリアから離れた瞬間を狙って、俺とアメリアの頭上に矢と魔法が雨のように降り注いだ。
「アキラ!!」
「『影魔法』――起動!」
アメリア声と共にテーブルへ飛び乗り、手を空に翳す。元々準備していたエクストラスキルが、待ってましたとばかりに思考と同じスピードで展開された。
ぶわりと俺の足元とテーブルの下から伸びた影がまるで大きな傘のように広がり、飛来した矢と魔法をすべて飲み込む。
「なっ!?」
続いて手を翻し、『影魔法』を指揮する。
黒い影は獣の形に姿を転じ、食事エリアの椅子やテーブルを避けながら俺とアメリアの周囲を駆けた。
「ぐっ!?」
「ぐぇ!!」
「な、なんなんだ!!」
俺たちの周囲でなぜか武器を構えていた者たちが軒並み影の獣に足をとられて尻もちをつく。その手にはすでに武器はない。彼らが転んだ隙に、影獣が周囲にある武器になりそうなものを全て『影魔法』の中に格納した。誰かが使用していた箸やカトラリーなども入ってしまっているが、あとで返せばいいだろう。
「全員、その場に伏せて投降しろ! アメリア、拘束頼む。夜は周囲の警戒」
「うん!」
『承知した!』
のろのろと地面に伏せようと動く無力化した者たちは影獣とアメリアの『重力魔法』に任せ、第二波が来ないかと周囲を警戒しながら“夜刀神”を抜いて目の前に座り込む男の喉元へ突き付けた。
もしも周囲の男たちが持つ刀が本当に振り下ろされていれば、この男の剣が一番にアメリアの身を切り裂いていたことだろう。元々視線に気づいていたから未遂に終わったとはいえ、なんとも思わないわけがない。
「ひっ!!」
「おい、お前たちの目的と所属を答えろ。お前自身の名前はどうせ覚えられないから言わなくていい」
男が何か言おうとする前に、“夜刀神”がプツリと薄皮一枚を裂き、首筋を赤い液体が滑る。
「ひ、しゃ、しゃべる、全部しゃべるから!」
「動かず、このまま話せ。話が長いとついうっかり手が滑るかもしれないから、簡潔にな」
「は、はいいいい!」
そして吃りながら、今回の襲撃の目的と所属を話し始めた。
自分の命がかかっているからか、やけにあっさりと自白している気がする。口止めをされなかったのだろうか。
「わ、我らの目的はエルフ族の王女を殺害し、御三家の奴らに我らこち……」
だが、男の言葉を最後まで聞くことはできなかった。
瞬きをした瞬間、目の前には口を開いた状態で凍り付いた男。そして、そんな趣味の悪い彫刻は一瞬にして粉々に砕け、消えた。
アメリアの『重力魔法』で動きを止められ、影獣が見張っていた者たちも同様に凍り、砕けて消える。
残ったのは乱れた飲食エリアと、そこに立ち尽くす俺とアメリア、夜だけ。関係ない人たちはとっくに避難していて、あれだけ人がひしめき合っていたというのに今は誰もいない。
「これは……」
「口封じか」
『むごいことを……』
俺はアメリアと顔を見合わせ、夜は彼らがいた場所をクンクンと嗅ぎ、鼻に皺を寄せた。
今の魔法は明らかに外からではなく、彼ら自身から起こった魔法だった。なにか情報を話そうとすれば発動するように魔法をかけられていたのだろう。つまり、彼らはただの捨て駒だった。
ここに本当の犯人がいて、遠隔で魔法を起動したという可能性もあるが、今日市に来ていた人たちの中から探し出すのは現実的ではないだろうな。
「アメリア様ぁぁぁ! ご無事ですかぁ!?」
「うおっ!」
ドンっと後ろから追突されて俺はたたらを踏んだ。
誰だか確認するまでもなく、モルガナイトだ。本当に自分の幅を理解できていないのか、それともわざとなのかどっちなんだこれ。
モルガナイトは俺を気にすることなくアメリアに駆け寄り、ぎゅーっと抱きしめた。
「こ、これは一体どういう……」
そのモルガナイトが連れてきた月見家当主の妹、月見ハヅキと月見家のおそらく市の主催を担当していた者たちは周囲の惨状を見て顔色を失っていた。
「アメリアへの暗殺だ。未遂に終わったが、下手人は口封じで全員消された。捨て駒だったと考えるべきだろう」
「あ、アメリア王女の暗殺未遂……? 月見家が主催する場で……?」
月見ハヅキの体がふらりと揺れる。
「月見様、ひとまずアメリア様を安全な場所までお連れしたいので馬車の手配をしていただいてもよろしくて?」
「は、はい! 今すぐに!」
呆然としていた月見ハヅキはモルガナイトの言葉でハッと顔を上げ、馬車の用意と、被害状況の確認の指示を出し始めた。
バタバタとしだす周囲の邪魔にならないようにアメリアたちへ近づく。
「遅い到着だと思えば、月見ハヅキを呼びに行っていたのか」
「ええ。責任の所在はしっかりしておかなければねぇ?」
「アキラ、何か聞けたの?」
「少しだけな。アメリアを殺害し、御三家に我ら“こち”までは聞き取れたな。“こち”は組織名だろう」
「“胡蝶花の会”でしょうねぇ」
俺の言葉にモルガナイトがこともなげに言った。
俺もそれに頷く。
「俺も同感だ。名前だけは御三家との会食で聞いていた」
京介曰く、俺たちに御三家側がわざと漏らした情報だ。
御三家当主はこの襲撃を予見していたのだろうか。
「元々過激な反戦団体だったのですよねぇ。まあしていることはほぼテロなので、神成家が抑えていたのですが、神成家の庇護から外れた今、月見家の傘下から逃げ出してどうやら別の屋台骨を得たようで。しかも国レベルの大きなもの。お隣のヴェンデス国が関与しているとの噂もございますねぇ」
「それもう答えなんじゃないのか」
「ま、定かではない噂なので。そんなものに価値なんてないでしょぉ?」
「少なくとも思考の材料にはなるだろ」
「あなた程度の思考に何の意味が?」
「お前な……」
本当に、なんでこんなに当たりが強いんだこいつ。
俺はため息を吐いて空を見上げた。
きっとこの襲撃は序章だろう。嫌な予感がする。




