間幕ⅰ
九鬼は、久々に学園の理事長で父親であるセイゴウの元を訪れた。
「トウヤ様。少々お待ちくださいませ」
前もって来るとは伝えていたのに、トウヤは秘書に止められてしまった。
理事長室は入って直ぐにある訳ではなくて一旦、秘書がいる部屋を通った奥にある。
五分ほどして扉が開いて出てきたのは、あの周防だった。
周防と目が合ったが、相手は不敵な笑みを浮かべて出て行った。
「トウヤ様、中へどうぞ」秘書に促されて中に入る。
「お久しぶりです」
「ああ、今日はどうした?」
無駄に広く取られた部屋の中央に置かれたデスクに、コンピューター画面を出していたセイゴウは、素早く画面を落とした。
周防にはよくて息子の自分には見られて困るものなのか? と苛立つ。
「さっき、あの変な編入生が来ていたみたいですけど」
「ああ、そのことで来たのか。あれはお前には関係がない」
「でも!」
「いいか? 国も痺れを切らし始めているんだ。お前じゃ役不足だと言っている。わかったら出て行きなさい」
セイゴウの言葉は、トウヤの側頭部を殴りつけたみたいな衝撃を与えた。
「もしかして、あの編入生は……」
「そういうことだ。私は忙しいんだ」
「すみませんでした。失礼します」
「ああ、そうだ。最近、事件が多発しているから、一応気を付けておきなさい」
九鬼は、一礼をして理事長室を出た。
秘書に見送られた九鬼は、身体全身に微弱な電流が流れているみたいに、小刻みに皮膚が、筋肉が、流れる血液が震えていた。
今までどんな想いで彼女を監視してきたかなんて、誰も知りやしない。彼女でさえ知っていても、もう忘れてしまっている。
それでも虫が付かないように、自分の肩書きと立場で牽制をしてきたし、それは監視する側にも必要だった。それなのに今更、なぜ周防を送り込んできたのか。
あんな男を送り込んできたところで、今と変わらないはずじゃないか。何より九鬼自身が、周防が気に入らない。
年上というのもあるが、彼女、アズを見る目が……
九鬼は廊下の壁を思いっきり殴った。自分が我慢してきた想いを、あの男は平然とやっているのも尚、腹立たしい。
今まで離れて守ってきた。今更……九鬼は今度は壁を蹴りつけてから歩き出した。