第拾四話 親父
末森城に到着し、騎乗したまま門に近づいていく。
もちろん門番はいるのだが、いつものことであるので、俺に気付いても止めもしない。
門を抜けると、すぐに馬の世話しているいつもの中間の者が近づいて来たので、馬から降りて手綱を渡し、そのまま屋敷に向かう。
屋敷に入ろうとすると髭面の男が顔を出した。
「権六、久しぶりだな、親父はいるか?」
俺の格好をだまって見、むすっとした顔で頭を下げながら、
「若殿、お久しぶりです。
殿は書斎におられます。」
「で、あるか、」
そのまま屋敷にあがり、親父のいる書斎へと向かう。
柴田勝家…
春日井郡の土豪の出自であり、親父に引き立てられて出世し弟の傅役を務めている。
浮かんでくる知識によれば俺の排斥派の一人で、弟をとともに反抗する。
その戦いで俺の実力を認め、以降は忠実な家臣となるのであったな、
書斎の前に立ち、
「親父、入るぞ。」
といいながら、返事を聞かず戸を開け中に入る。
「三郎、お前は相も変わらずであるな。
何の用事で顔をだした。」
親父の前に座りながら
「三佐をよこしておいてそれはないだろ」
それに俺が嫁をもらったくらいで変わると思っていたのか?
まっ、帰蝶とはよろしくやっているよ。」
親父は苦笑した顔で、
「礼儀作法を習ったはずなのに、
嫁をもらったのだから、物言いを改めるは気はないのか?」
「俺は俺であるからな、これからもこのままだ。」
「お前は、俺の後継者と周り者から見られているのだから、
きちんとした言葉使いとその格好をなんとかせよ。」
「必要があればそうするが、今のところないぞ。」
「まっよい、用事とは三佐のことであるか?」
「それとあわせて、親父に頼みたいことがある。」
「なんだ?」
「初陣を終え蝮の娘を嫁をもらったので、周りは俺を弾正忠家の後継者と見るであろう。」
「そうであるな。」
「初陣のときは、平手の爺が手の者らを率いたが、
これからは、俺の子飼いの者たちで軍を編成したい。」
「お前には、平手と林それに佐久間信盛をつけてあろう。
足らんのか?」
「当主信友は若年で他家から入っており、大和守家は家臣の坂井大膳が専横し、弾正忠家に対抗しようと動いている。
親父が出陣した隙を突かれた、古渡が焼かれたばかりだろう。
大事にはしなかったが、今後は三河での戦いが主になるだろう。
三河の安祥に信広兄を入れているの、名目上の留守居役は俺になるだろ?」
親父は笑いながら。
「そうであるな、状況をわかっているならいいだろう、認めてやる。
で、どうするつもりだ?」
「俺が部屋住みや賤民の出者を集め、印字打ちや槍合戦に興じている意味は分かっているだろうに、」
「知っている。
だが、子どもらばかりであろうに。」
「人数はすでにそろえている。
それに、子供はいずれ大人になる。
俺が一から鍛え、戦えるよう準備している。」
「ふむ、」
親父が考え込んだ、
顔を上げ
「そのための森と賭けをしたのか?」
「そうだ、
若い者たちばかりで、戦いを知る者がすくない。
戦を知り指揮をできる者が欲しかった。
ついでに。何人か俺につけてくれ。
三佐のほかに、河尻、金森など美濃に出自がある者が何人かにいただろ。」
「美濃か、なるほどな、
今後、お前には平手とともに蝮と交渉をまかせることとなる。
そうなると、森らが打ってつけであるか。
わかった、認めてやろう。
お前の好きなようにしろ。
ただし、預けるだけである。
森に判断を任せることとする。
物にならないようならそこで終わりとし、お前は平手に任すので素直に従え。」
「わかった。それでいい。」
「あとは金だったな、武具にでもつかうのか?」
「種子島がとりあえず五百は欲しい。」
親父は驚愕した顔で
「なに、五百だと!!
あれは、1丁拾貫はするはずだ!!
そんな金すぐには用意できん。」
「親父、俺の話を聞いてくれ、
今すぐに全額を用意する必要はない。
種子島を一丁作るにも、時間がかかると聞く、
全部そろうにしてもは数年ががりになるだろう。」
「確かにそうではあるな。」
「種子島を作れるところは少ない。
近いところでは、堺、根来、近江の日野と国友だけである。
それに高価なため、購入できるところも限られる。
近江の国友が狙い目であるという話だ。」
「続けろ。」
「堺・根来は商人が間に入るので高くなる。
それに畿内はきな臭い状況であるの、備えのため購入するところも多いだろ。
近江の日野は近江六角の家臣である蒲生の領地であるので難しいはず。
ただし、国友だけは他と事情が異なってくる。」
「何故だ。」
「国友の鍛冶場は、前の大樹の肝いりで生産を始めた。
しかし、今の大樹は若年であり、細川の手の内にあるため自由に動けないだろう。
東近江の浅井は前当主の時に勢いはあったが、今の当主は六角に従属しておると聞く。」
「良く知っているな」
「俺が津島に入り浸っていることは知っているだろう。
商人や流れの者からの噂が自然に耳に入ってくる。」
「そうであったな。」
「橋本一巴や浅井信濃守の話では、国友は庇護が受けれずに種子島の売り先などに窮しているようだ。
いまなら多少の手付を渡せば、国友の種子島を独占できると踏んでいる。」
「なるほど、
美濃の蝮と和解した今なら近江と取引が容易ではあるな。」
「ただ、美濃が安定すれば蝮がまとめての購入を考えるかもしれない。
越前の朝倉が浅井と結んでいるとの噂もあるので、早い方がよいだろう。」
「手付には幾らかかると踏んでいる。」
「まずは千か二千くらいは、必要であろう。」
「おい、それでも大金だぞ!!」
「津島の商人を巻き込めばいいのではないか、
北条や上杉の争いが続いている関東にで持っていけば、二倍か三倍以上にはなるだろう。」
「お前の話だと、うまくいきそうではあるな。
たしかに種子島を独占できるのであれば利はある。
よし! 津島の大橋らに話をつけとくので、この件はお前に任せる。」
「損だけはしないように気を付けるよ。」
「話はこれで終わりか?」
「そうだな。
古渡を引き払った跡地を俺に預けてくれないか?」
「何をするつもりだ。」
「子分らを兵に仕立てるため訓練しなけばならないが、那古屋では清州に気付かれであろう。
古渡の地なら、離れているので都合がいい。
身分の低い者たちばかりなので、小屋を作り雨風を凌いで、麦などの雑穀を食べさせば十分である。
ついでに、破棄した城の片づけとか開墾もやっておくので、親父にも都合がいいのでないか?
あとは、荒子の前田が近いので、助けを借りるかもしれん。」
「確かに、周辺の民に労役を課すつもりであったからな~。
前田は林の与力であるか、
お前の下に子が二人いるので、助力を求めやすくもあるな、、
ふむ、いいだろう。
お前の好きにしろ、林と前田には話をつけとく。」
「ありがとう、親父。
話はそれだけだけだ、那古屋に戻って手を付ける。」
「相変わらず、お前は気が早い、
弟らに逢っては行かないのか?」
「俺は、母上に好かれていないので、逢わん方がいいだろう。」
ふっと気が付いた。
「親父、ところで、俺の弟たちは何人になったのだ?」
知識に寄れば、俺の兄弟姉妹は男女10人ずつはいたはず。
「あれ、何人だったかな?
腹の中にいるのもおるので、すぐに数がでてこん。」
俺はあきれながら、
「親父も好きだな、
母上に睨まれているのではないのか?」
「あれと子はお前も含め5人も作っておる。
まだまだ、胎ませるめるつもりであるので、そこんとこはうまくやっているぞ。
ハッハァー!!」
「ならいいか、
それと、信時兄の件はどうなったんだ?」
「あれか、信康が生きていれば、奴のとこに養子に入れる話であったが、
長男の信清が継いでしまったので、ご破算になってしもうた。
あそこは独立を企てたので、娘をやって大人しくさせてはいるが、今のとこどうなるかわからん。
弾正忠家は今川と対せねばならないのに、何を考えているのか。」
この時代、一族を各地の城に分散配置して土地を治めさせるとともに周辺の土豪ら組下に入れ、宗家がまとめる体制である。
分家にも家臣どもがいるので、その者らの意見も出てくる。
亡くなった信康叔父貴は岩倉の伊勢守家の信安義叔父貴の後見であった。
弾正忠家から独立していると勘違いしている者が多く、その者たちが嫡男信清を押したてているので、親父も認めるしかなかった。
従兄弟であり義兄信清は最終的には俺に逆らうのであったな。
対策を今から考えといかないよな~
「どうした?」
「親父、古渡の地を名目上、信時兄の領地とし俺の組下に入れてくれないか?」
「なるほど、お前に直接加増するよりは、周りも納得しやすいだろう。」
「いいのか?」
「お前らは中が良かったのであったな。」
信時兄は庶長子信広と同腹で継承権はほぼない。
俺と年が近いので、那古屋によく顔出しくれる。
あれ、信時兄はどうなるんだっけ? いまは浮かんでこないようだ。
外の兄弟ら未来もどのようであったか?
「お前に教えておくが、娘の一人を東美濃の遠山一族に嫁がせて関係を強化するつもりだ。
外の娘たちの縁組も進めておるぞ。」
「婚姻政策か?」
「そうだ。
弾正家は尾張一の勢力ではあるが、俺の代で伸ばしたため、裏では妬んでいる者達もいるだろう。
年ごろ者から縁組に出して周りを固めることとした。
それと信時にも嫁を貰うよう話を進めておる。」
「どこの家か?」
「知多佐治一族の荒尾善次の娘だ
刈谷の水野信元とも縁があってな、今川に対する備えだ。」
「そうか、
では、親父、またな、」
といいながら、サッサと書斎をでていく。
い




