第壱弐話 種子島
翌朝、早くから起きだし、まず顔洗い、塩で歯磨きし、お茶ですすいでから、近習や小姓達と鍛錬を始める。
ラジオ体操から始め、柔軟運動など教えながら、走り込み、補強運動、素振り、弓の順番に行い、最後に種子島である。
種子島は中島郡の土豪であり平手のじぃの親戚でもある橋本一巴から指導を受けている。
種子島を所有し、尾張一の腕前である。
南蛮商人か大陸の密輸商人によって九州の種子島に持ち込まれたので、「種子島」と呼ばれている。
すぐに複製が作られ、数年も経たぬうちに、和泉の堺、紀伊の根来、近江の日野と国友で鍛冶工房ができているが、まだまだ高価な品である。
未来の知識では、種子島は信長の代名詞であった。
長篠の戦いでの三段打ちが長らく有名であった。
後から無理であると検証されたが、それに近い運用はしていただろう。
もともとは南蛮人の狩猟用の銃であったはず。
構造は鉄の管である銃身の片方を螺子でふさいで銃尾とし、もう片方の銃口から黒色火薬、鉛玉を順に入れて棒で押し固める。
銃尾の横に小さい穴が穿ってあり、そこから中の火薬に火をつけ爆発させて、生じる燃焼ガスで銃口から鉛玉を打ち出す仕組みである。
中の火薬、胴薬への着火する方法は、
銃尾の横穴に火皿と呼ばれる部品が取り付けてあり、
着火用の火薬、口薬を載せ、
火縄を鉄製の発条である火鋏に取り付け、
引き金を引いて発条を作動させて、火縄を火皿に落とし、口薬に着火、
勢いで火花が飛び、銃身の中の胴薬に引火させる。
銃身は木で作った銃床によって支えられているが、後方は手で握る部分しかなく、頬に押しつけて銃を固定する。
更に鍛冶職人が一本一本鍛造で作っているため、銃ごとに癖があり、鉛玉に変な回転がつくため、弾道と照準にずれがある。
銃の癖をつかまなければ標的に当てることは難しいため、慣れるための訓練が欠かせない。
橋本の指導を受けながら、標的に向けて連射する。
まず、火縄に着火しておく。
銃口を上に向け胴薬と弾丸を装填し、銃身の下から槊杖を抜き、銃口に差し込み押し固める。
種子島を水平にし、火皿に点火用の口薬を入れ、火蓋を閉じる。
火縄の先を火挟に挟み、種子島を頬に押し当てて固定し構える。
標的を見定め、火蓋を切って、引金を引き、火縄が火皿を叩くと同時に、
ドォーーーン!!
弾が飛び出し、標的に当たる。
音と反動ひどい、鼓膜にダメージを受けた。
顔のすぐ傍で口薬が爆発するのも危ない。
種子島を下ろして、胴薬と弾を再装填し、火皿に口薬をいれ、構えて打つを繰り返す。
六発撃ったところで、弾が入らなくなった。
銃身に火薬の煤が溜まったためである。
火縄を消して、銃身を下に向け、入っていた胴薬と弾をだす。
銃身が熱くなっている。
水で湿らせた布で銃身を巻いて冷ます。
槊杖に同じく湿らせた布切れを付けて銃の中を拭い。
次に火皿の清掃も行う。
手間がかかるのものだ、
「お見事であります。全部中心に近くに当たりました。」
「そうか、お前の指導がいいのだ。
橋本、銃の癖を掴むのが大変であるな。
それに弾込めにも力加減のコツがあり、手順も多すぎて時間がかかりすぎる。」
「そのような仕様でありますので、慣れるためには鍛錬するしかありません。
弓よりも射程が長く、威力がありますので、戦いには有効であります。」
「そうであるな、」
「殿は、動作を一つ一つ丁寧に行われ、基本に忠実であります。
上達がお早いです。」
「ああっ、基本を身にしみこませて行いと、咄嗟の時に体が動かないからな、」
これはまだ、発展途上の武器であるな、
運用するにはいろいろ工夫しなければがならないか、
未来の銃には、ライフリング=銃身の内側に螺旋を刻んであり、弾を回転させて弾道を安定させる。
しかし、加工の仕方がわからん。
鉄を加工するには、鏨などの専用の冶具を金槌でぶっ叩けば、瞬間的な力により切断や削ることもできるはずだし、鑢を使えば削ることもできるので、旋盤を造れば芯を狂わせずに研磨加工できよう。
しかし、螺旋の刻み方は浮かんで来ないし、どうしても考え付かん。
銃口から覗む、緩やかな螺旋の溝の映像が浮かぶのだが、旋盤での加工は絶対に無理である。
どうやって刻むのだ?
砂型の鋳造なら可能かもしれんが、銃身がもつのか?
火薬を使うので、暴発の危険が伴う。
どうするればよいのだ?
桶狭間までは、まだ時はある。
方法ををゆっくり考えるとするか?
すぐにできるところから始めることとする。
まずは、肩付けからだな。
銃床にストックを取り付けばよいだけのはず。
改良が進めば、口径も大きくなるので、
頬付けのままだとあまりにも危険である。
和弓の構え方と同じなので、そのまま一般的になったのであったか?
まあいい、織田では肩付けでの射撃を修練させればいいだけである。
音と爆発は、耳栓と頬あてで防ぎ、できればゴーグルも欲しい。
照準はレンズがないので、スコープは無理、
確か有効射程距離は百メータくらいか、
目がいい者に使わせればいいのだが、なにかが頭にひっかかっている、
ふむ~、
筒の底に小さな穴をのぞき込む映像が浮かぶ。
あった、
ピンホール望遠鏡である。
手を軽く握って穴を作り、遠く見るあれだ!!
どうやって、照準に応用するか?
ん~
そうだ、銃ではなく小さい眼帯を片方の目につければいいだろう。
これは、すぐにでも試せる。
着火装置は火花がでればいいので、ライターを作ればよいか、
分解した百円ライターの映像が浮かぶ、
刻みが入れられた鉄の輪と細いコイルバネ、それと小さな火打石か、
装填にかかる時間を短縮する必要もある。
未来では弾と火薬は金属の薬莢で詰められ、銃の後から装填する。
それを撃鉄で叩き、火薬を爆発させ打ち出す。
叩く?
戦国時代に叩いただけで、火がつくものなんてない!!
何か方法は?
そうだ、マッチがあった。
マッチの材料は…
リンだっけ、作り方が浮かんでこない。
さて、どうするか?
これは、おいおい考えていくこととするしよう。
「殿、どうかしましたか?」
「ああ、すまぬ。
戦での使い方を考えていた。」
「そうでありましたか。」
「西国では、すでに使われておるのか?」
「数はまだ少ないですが、畿内での両細川の同士の戦いで使われていると噂で聞いております。」
「どのように使われたか想像できるか?」
「弓より射程が長いので、野戦では最初に数発で打てますかな?
弾込めに時を要すので、接近されれば使用が難しくなります。
ただ、前に塀や堀などの敵を近づかせない遮蔽物越しなら、有利に使えると思います。」
「なるほど。
それと、この種子島は近江の国友の作であったか?」
「はい、同じ中島郡の浅井信濃守が近江浅井の親族であり、手に入れた物を譲り受けました。」
「そうであるか。
国友に注文することはできるか?」
「それは、浅井殿に確認してみなければわかりません。
ただ、近江国友の現状を考慮すると、手付を用意すれば可能かと思われます。」
「何故であるか説明せよ。」
「はっ、
国友村のある北近江は浅井氏の領地にありますが、その浅井氏が代替わりの際の家督争いで力を落とし、今は南近江の六角氏に服属しています。
現状では浅井氏が国友を積極的に庇護することは難しく、六角氏の方も重臣である蒲生氏の領地である日野で種子島を作られているので、国友への関心が薄いと思われます。
それに、国友での製造は前将軍義晴公が直々に種子島の複製を命じられたことが始まりで、将軍家のお抱えであると周囲ではみなされおります。
ただし、当の将軍様は京での管領細川氏の内部抗争に巻き込まれているため、国友を庇護できる状況でないように思われます。」
「要するに売る先の確保が難しく、資金難であるのか?」
「そうであります。
美濃の西には守護土岐頼純が残っており、越前朝倉は代替わりしたばかりです。
京での戦いもありますが、堺からも入ってきますので、なかなか厳しいみたいです。」
「であるか。」
「しかも、種子島にはある問題がありまして…」
「硝石だろ。」
「はい、日ノ本では見つかっておりませんので、外からも持ってくるしかなく、堺が一手に取り扱っております。」
「わかっておる。
そちらの方は、津島や熱田の商人達の伝手を使うことになりそうだな。」
硝石、これが問題である。
種子島に慣れるためには射撃の訓練をするかしかなく、平時でも大量に硝石が必要になる。
堺の商人が掌握しているため、言い値で買うしかない。
知識の俺も上洛後、まっさきに堺を抑えた理由の一つに上げられていたな。
「硝石」
浮かんだ知識によれば、糞尿から採れるはずだったよな。
しかし、詳しい製法までは浮かんでこない。
知らないであろう、未来で黒色火薬は花火とか玩具とかにしか使われていなかったはずだ。
だが、雑賀、根来と、それに法華宗の言葉が硝石の知識とともに一緒に浮かんだ。
雑賀と根来はわかるが、なぜに法華なのか?
調べてみる必用があるか?
種子島の威力が知れ渡らぬうちに、国友産を独占することが可能かもしれない。
あとは資金をどこからもってくるかだな?
ん、これは親父から金を引き出す理由にできるのでないか?
ちょうどこれから後に親父に合いに行く予定であった。
人材ともに金をせびることとしよう。
参考資料
「図説 日本合戦武具大辞典」
「歴史人」いつのか不明
「RED」
「GUN SUMTH CATS]他
追加、お茶は「創竜伝」だったはず。
3・15に追加、「ピンホール現象」
まだとっておく予定だったが、諸般の理由でだす。




