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空作りのまち  作者: 一平
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変わりゆくもの

 公園が見えてきたので、ソラじいさんは話を止めました。最後にこう付け加えました。


「この話は誰にもしてはいかんぞ。空塗りだけの秘密じゃ」


クリィは、ソラじいさんにまた今度聞かせてくれるよう頼むと、走って公園に向かいました。

公園では、クリィのお母さんが木に身を寄せて待っていました。

走ってくるクリィを見つけると、お母さんは笑顔で迎えました。


「クリィ! 空はどうだった? なんともなかった?」


お母さんは、小さな子供をいたわるように尋ねました。

上空を飛ぶ飛行船から飛び出すなど、お母さんの目には自殺行為のように映っていたのです。

クリィは自分が空のひびを埋めたことを得意になって話しました。

お母さんは、クリィが立派に仕事をしていると知って、うれしくもあり、寂しくもありました。

クリィがまた一歩自分から離れていくように感じられたからです。


 クリィは公園で例の子供たちにも会えるかと期待していたのですが、もう暗くなり始めていて公園にはクリィたちのほかに影ひとつありませんでした。

三人は公園からすぐ宿を目指しました。

道すがら、ソラじいさんが自分たちが直したひびのところを見つけ、二人に教えました。

その部分は、もうまもなく空集めの工場に入るであろう低い位置にありました。

クリィは、遠くから見ても自分の埋めた部分の色がちぐはぐなので恥ずかしく思いました。

クリィのお母さんは、確かにクリィが直したのだと実感して誇らしく感じました。


 クリィのお母さんは、二人が空に出ている間に昔の知り合いを訪ねていました。

半数は温かく迎えてくれ、半数は引っ越した後などで会えませんでした。


「おじいちゃんとおばあちゃんにも会ったの?」


クリィがわくわくして聞くと、お母さんは首を横に振りました。


「だめだったわ。ずいぶん前に引っ越しちゃったみたいなの」


クリィは残念がりました。

お母さんは、顔には出しませんでしたがクリィ以上に残念がっていました。

どうしてもっと早く帰って来なかったのだろうと考えていました。


 宿では、酔っ払った飛行船の男たちが、もう一度「愛しのクルトさん」をやってエールをからかっていました。

クリィはネズミの話が気になっていましたが、ソラじいさんが寝ると言って自分の部屋に入ってしまったので聞けませんでした。

クリィも自分の部屋に入って、ネズミたちのことを考えました。

ソラじいさんの話では、ネズミたちは空の草が食べられず、空のひびは何十年も前になくなったのでした。

それが、最近になって突然、また現れたのです。

それに、クリィには不思議でならないことがありました。

もしネズミたちの仕業で空のひびができるのなら、ひびは空の外側にできるはずです。

クリィはその夜、ベッドの中でもいろいろ考えましたが、結局何も分からなくて寝てしまいました。


 クリィのお母さんにとっては残念なことに、次の日にはもう空集めのまちを発たねばなりませんでした。

その日出発しなければ一週間後の飛行船を待たなければなりません。

そんなに長く仕事を休むわけにはいきませんし、物価の高い空集めのまちに一週間滞在するだけのお金も持っていませんでした。

それでも、飛行船の男たちは気を利かせて、出発をお昼まで待ってくれると言いました。


 クリィがお母さんの思い出の場所を見たいとせがむので、二人はまちの中をあちらこちら歩き回りました。

クリィは、お母さんが楽しそうに子供の頃の話をするので、自分も楽しい気分になりました。

お母さんは何気ないものにも思い出を見出し、無邪気にクリィに話しました。


 その頃ソラじいさんは、昔の空塗り仲間に会いに、空集めの工場に赴いていました。

空集めの工場には、すぐ近くに研究施設が付属していました。

ソラじいさんの仲間はここで所長をしていました。

研究所は厳重に警備されていて、関係者以外は入れませんでしたが、この人物はソラじいさんが来たと知ると自分から出迎えました。


「ワット! 久しぶりじゃないか! 一体どうしたんだい、こんなところまで?」


「久しぶりじゃのう、カル。 ちょっとお前に相談があってね……」


ソラじいさんはこの所長の部屋に通されました。

大きな肘掛け椅子やソファのある部屋でした。


「最近また空にひびが入っておる」


ソラじいさんが話し始めました。


「最初は偶然かとも思ったがどうも違うらしい。空作りのまちの工場に行って聞いてみたが空の作り方は昔から一切変えておらんと言っておった。あのネズミどもが空の草を食べるようになったとしか考えられん」


「そのようだね」


「どうする? 放っておくわけにもいかんじゃろう」


「率直に言って、どうしようもないと思う」


「空の草以外の、何かやつらを防げるもので空を作ることはできんのか?」


「たぶん無理だ」


ソラじいさんは、カルが簡単に否定的な意見ばかり述べるのでイライラしました。


「無理だのどうしようもないだの言う前に、何かやってみたらどうじゃ!」


「やってるとも。実は先日、空に意図的に穴をあけて、何匹かネズミを捕ってきたんだ。やつらは何でも食べるし、ものすごい勢いで繁殖する。はっきり言って悪夢だ」


「空に穴をあけたじゃと? お前そんなことまでしとるのか!」


「仕方ないだろう。相手のことが分からなければ手を出せない。ワット、お前が空の草を見つけたときほど簡単にはいかないさ。あの時は幸運だったんだ」


ソラじいさんは言い返してやろうと思いましたが、その言葉が見つからず、口をもごもごと動かしました。


「見てみるかい? 我らの敵を」

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