空のてっぺん
空塗りになるための練習場所として、ソラじいさんは空作りの工場の中に一室を借りていて、空のもとも分けてもらっていました。
「工場のお部屋なんてよく借りられたね。私、中に入れてもらったのも初めてよ」
クリィが驚いて言うと、ソラじいさんはニカッと笑いました。
「当たり前じゃ! わしがおらんかったら今の綺麗な空はないんじゃからな」
空作りのまちにソラじいさんが滞在していた三週間の間に、クリィはソラじいさんに負けないほどうまく飛べるようになりました。
クリィのほうが元気なので、飛ぶ速度もソラじいさんの三倍ほどありました。
いまやクリィは、工場内だけでなくまちじゅうを飛んでいたので、他の子供たちが羨ましがりました。
ソラじいさんは、子供たちに自分にも飛び方を教えてくれとせがまれると毎回、
「わしより早く空のひびを見つけたら教えてやろう!」
と言っていました。
この効果で、まちの子供たちはみんな空ばかり見て過ごすようになりました。
ソラじいさんは、傷ひとつない空を必死に見回す子供たちを見て面白がりました。
ソラじいさんとクリィは、今度の飛行船に乗せてもらうことにしていました。
クリィにとってうれしいことに、お母さんも仕事を休んで一緒に行くと言いました。
お母さんは、クリィに隠すことがなくなった今、クリィと一緒に自分の故郷に行ってみたいような気になったのでした。
「お嬢さん。わしとあんたは途中で出るぞ。ひびが出そうな場所を通るからのう」
「おじいさん、ひびができる前から場所分かるの?」
ソラじいさんはにやっと笑って言いました。
「わしゃお嬢さんの何倍も空を見てきたからのう」
飛行船の男たちはみんなクリィたちを歓迎しました。
クリィは、前回の旅で乗組員みんなと仲良くなっていたので、飛行船の中を駆け回っていろんな人とおしゃべりしました。
ソラじいさんは、同じ空の仕事である乗組員たちの中では有名らしく、昔の空のことを話して聞かせていました。
クリィのお母さんは、おじさんに前回の旅と今回の旅のお礼を言い、クリィが一人でこの船に乗ったときの様子を聞いていました。
「ようエール! 愛しのクルトさんが乗ってくれてご機嫌じゃねえか!」
冗談交じりで楽しそうに話すおじさんに、冷やかしの声が上がりました。
おじさんは少し赤くなってバカヤローと罵りました。
「エールおじさんお母さんのこと好きなの?」
クリィが入ってきたのでおじさんの立場は苦しくなりました。
この頃には、クリィにとっておじさんと呼ぶべき人がたくさんいたので、それぞれ名前をつけて呼ぶようになっていました。
「まあ……ちょっとな」
「ちょっとだって? 俺は大好きですよー! クルトさーん!」
からかい好きのボッグがクリィのお母さんに大げさに投げキッスしました。
エールは顔を赤くしながら、どうしていいかわからずまごついていました。
クリィがボッグに張り合って、
「私のほうが好きだもん!」
と言って両手で投げキッスしたので、みんな笑いました。
エールはクリィに助けられてほっとしましたが、クリィが自分を助けるために演技したのだと思って情けない気分になりました。
三日目には空集めのまちに着くのですが、ソラじいさんとクリィは到着の前に空のもとをまとって外に出ました。
ソラじいさんがクリィに空のてっぺんを見せてやるためです。
クリィは、無茶はしないようにとお母さんから何度も念を押されました。
三人は、後で空集めのまちで集合することにしていました。
集合場所は、クリィの提案で公園になりました。
飛行船から出ると、クリィは空気の冷たさに驚きました。
空のもとをまとっている体はなんともないのですが、顔には冷たい空気が容赦なくぶつかってきました。
「おじいさん! 顔が寒い!」
「顔は風下に向けるんじゃ! 少し上るぞ!」
二人はポンプを使って上って行きました。
クリィは風を受けないようにずっと同じ方向を向いていましたが、ソラじいさんは冷たい風に慣れているので、くるくる回って周りの空を確認していました。
「予想通りじゃ! お嬢さん、ついておいで! 口の中に空のもとを準備しておくんじゃ!」




