第39話 聖霊獣の王
保健室には、重く張りつめた空気が満ちていた。
これからカトリットが切り出すであろう重要な話を前に、誰もが自然と背筋を正し、真剣な表情を浮かべている。
――ただ一人、ユティナを除いて。
彼女は輪の外に取り残されたかのように、所在なさげに立ち尽くしていた。
その姿はまるで、場違いな影が一つ紛れ込んだかのように。
(うーん、なんだろ……私のいないところで話だけ盛り上がってる……。なんか私だけ疎外感あるんだけど!)
カトリット先生は、そんなユティナの戸惑いをよそに、静かに深く息を吸い込む。
そして、覚悟を決めたように、重く閉ざしていた口をゆっくりと開いた。
「……大きな問題。それは、ハーリットさんが契約した聖霊獣です」
(……私が契約した“聖霊獣”? いやほんとに? 私、そんな実感ゼロなんだけど?)
ユティナはますます訳がわからなくなる。
その言葉に、真っ先に反応したのはアルマだった。
「カトリット先生……ユティが契約した聖霊獣って、危ない存在なんですか……?」
声には、はっきりと震えがあった。
「危険、ではありません」
カトリット先生はすぐに否定する。だが表情は険しいままだ。
「むしろ……凄い事なのです。単なる快挙などでは収まりません。――歴史に名を刻むほどの、前代未聞の出来事でしょう」
教室の空気が凍りついた。
アルマもマリアベルも、アニヤ先生すら息を呑む。
(え? 歴史? 名を残す? そんな大袈裟な……いや、なにそれ?)
ユティナ自身は、ただただ混乱し続けている。
アニヤ先生が、胸元を押さえながら意を決したように問う。
「カトリット先生……それは、一体どういう意味なのですか?」
カトリット先生とブレア先生が、互いに短く視線を交わす。
重苦しい沈黙が落ちた。
まるで、その事実を口にするのをためらうかのように。
その沈黙が、逆に皆の不安を膨らませていく。
カトリット先生は、まるで重大な真実を告げるかのように静かに言った。
「ハーリットさんが契約した聖霊獣。あの聖印を刻める聖霊獣は、ただ一つだけです。それは……ユニコーンです」
「ユ、ユニコーン……?」
アルマとマリアベルの声が重なる。
マリアベルが恐る恐る尋ねる。
「カトリット先生……ユニコーンって、御伽話の生き物なのでは? 子どもの絵本にしか……」
「ええ、御伽話として語られていますね。ただ――」
カトリット先生ははっきり首を振る。
「ユニコーンは、実在します」
「えっ……実在……?」
アルマも呆然と呟く。
「その説明は、私が引き継ぎます」
ブレア先生が一歩前に出る。
「お願いします、ブレア先生」
ブレア先生は全員を見渡し、ゆっくりと話し始めた。
「ユニコーンは確かに実在します。ただし……ここ“数百年”その姿を見た者はいません。そのため、今では伝説の生き物として語られるのみとなりました。ユニコーンが最後に確認されたのは――魔王が存在した時代です」
(ユニコーンかぁ……どんな姿してるんだろ……)
ユティナの思考は相変わらずマイペースに彷徨う。
アルマがごくりと息を飲んだ。
「それって……もう何百年も昔の話ですよね……?」
「ええ。その通りです」
ブレア先生は静かに頷く。
「正確な年代は分かりませんが、魔王がいたのは今から四百年以上前とされています。そして……魔王の時代、ただ一人――そのユニコーンと契約した者がいたのです」
一瞬で室内が静まり返る。
「そんな昔にもユニコーンと契約した人がいたんですね……」
アルマは感嘆の声を漏らす。
ブレア先生は小さく頷いた。
「はい。そして、その人は――アルマさんやマリアベルさんも、よく知っている人物ですよ?」
「え?」
「えっ?」
アルマとマリアベルは互いに顔を見合わせる。
(アルマ達がよく知っている人物……? 四百年以上前……魔王がいた時代……? え、誰!? 魔王だったけどそんな人物なんて知らないんだけど!?)
ユティナの頭の中は「?」でいっぱいだ。
ブレア先生は静かに告げた。
「それは“大聖女ソディナ様”です。そして、ソディナ様の下腹部にもユニコーンの聖印があったと伝わっています」
「「そっ……!?」」
カトリット先生とブレア先生を除く全員が声を上げた。
「大聖女ソディナ様が!?」
「聞いたことありませんわ! 本当にそんな話が……!?」
マリアベルも思わず前のめりになる。
アニヤ先生は衝撃と困惑が入り混じった顔でブレア先生に詰め寄った。
「で、ですがブレア先生! なぜそんな重大な事を何故知って……? それに、その様子だとカトリット先生もご存知なのですよね……? 私は一度だってそんな話を聞いたことがありません! 大聖女ソディナ様がユニコーンの契約者だったなんて……!」
ブレア先生は深く息を吸って、落ち着いた声で答える。
「アニヤ先生が知らないのは当然です。この事実は“世間一般には伏せられている”からです。知っているのは、各国の王族の一部。聖教会では教皇様やごく一部の枢機卿と聖女のみ。特にアニヤ先生は元々、聖教会の正式な信徒ではありませんから」
「え? アニヤ先生って、聖教会の人じゃなかったんですか!?」
ユティナが素直に驚いた声を上げる。
「はい。私は元々、冒険者でした。……まあ、少し訳があって、今はこの学園で教員をしています。ですので、聖教会の正式な信徒というわけではありません」
「ええぇ……知らなかった……!」
ユティナはぽかんと口を開ける。
アルマが横で小声で囁く。
「え、けっこう有名な話だよ?」
「えっ、そうなの?」
ユティナは即座に食いつく。
マリアベルがくすりと笑いながら続けた。
「でなければ、あれだけ剣術に長けている理由はないでしょう?」
「そ、そうか……そう言われたら確かに……!」
ユティナはぽんと手を打った。
場の緊張が少しだけ和らいだが、カトリット先生とブレア先生の表情には、まだ“続きがある”と告げる影が残っていた。
「ふふ、ちなみにアニヤ先生は元Aランク冒険者なんですよ?」
「ブ、ブレア先生っ!? そ、その……! 私のことはいいので続きを……!」
アニヤ先生はみるみる頬を赤くして慌てふためく。
「そうですか?」
ブレア先生は悪気なく首を傾げる。
ユティナがその隙に手を挙げた。
「ねえ、ブレア先生、質問いいですか?」
「はい、何でしょう、ユティナさん?」
「どうしてブレア先生達はそんな秘密を知ってるんですか? だってユニコーンの話って、国のお偉いさんとか、教会の一部の人しか知らないんですよね?」
ブレア先生は胸を張って――堂々と言い放った。
「それは、私が偉い聖女だからですよ!」
「いや、答えになってないし!?」
ユティナが即ツッコむ。
続けてブレア先生はさらっと爆弾を落とす。
「ちなみにカトリット先生は元枢機卿だったりします」
「「えっ!?」」
ユティナはもちろん、アルマとマリアベルまで声を揃えて驚いた。
カトリット先生は苦笑しながら頭を掻く。
「……もう昔の話です。大したことではありませんよ。
それより、そろそろ話を戻しましょう」
「あ、すみません……! コホン。では、改めて続きを」
ブレア先生は軽く咳払いをして表情を引き締める。
空気が一変し、緩んでいた場が再び緊張感に包まれていく。
「……では、ハーリットさんが契約した聖霊獣が“何故ユニコーンだと問題なのか”。そこを説明しましょう」
ブレア先生の声は、先ほどまでの穏やかさを完全に消し去っていた。
「端的に言えば、その“力”です。皆さんも御伽噺などで知っている通り、ユニコーンは聖霊獣の王、霊獣王とも呼ばれる存在。すべての聖霊獣の頂点に立つ存在です」
その言葉に保健室の空気が一段重くなる。
「そんな存在と契約した聖女が現れれば……世間は間違いなく“大聖女ソディナ様の再誕”と沸き立つでしょう」
「ソ、ソディナ様の再誕……」
アルマが思わず息を呑む。
「ええ。そして問題はそこからです」
ブレア先生は静かに続けた。
「喜ばれる一方で、各国は間違いなく、その力欲しさにハーリットさんを自国へ迎え入れようと動きます。それは聖教会であっても例外ではありません」
アニヤ先生の喉が小さく鳴る。
「……そ、それってつまり……」
「はい。言葉を選ばずに言えば、ハーリットさんを巡って“戦争”が起こりかねない、ということです」
保健室が一瞬で凍りついた。
(え? 戦争? ちょ……待って待って! 何それ!? どこの血生臭い恋愛争奪戦みたいな展開よ!? やだ、怖すぎるんだけど!!)
ユティナは心の中で絶賛大混乱中だ。
ブレア先生は淡々と、しかし重々しく続ける。
「もともとこの世界は瘴気や魔物が蔓延し、常に危険と隣り合わせです。その危険を祓うことができるのは“聖女”だけ。しかし、各国が保有する聖女の数は、常に足りない」
アニヤ先生がゆっくりと頷く。
冒険者として世界を見てきた彼女には、その現実がよく分かっていた。
「ゆえに、各国は少しでも強力な聖女を欲しがります。ユニコーンの契約者など現れた日には……。各国は血眼になってハーリットさんを奪い合うでしょう。
たとえ、それが国と国の衝突を引き起こすとしても」
重苦しい沈黙が保健室を支配した。
マリアベルもアルマも固まったまま。
アニヤ先生は蒼白になり、ブレア先生も珍しく眉を寄せている。
そして、本人のユティナだけが、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。
(なんか……すっごく大変なことになってる気がするんだけど!?)
心の中の叫びとは裏腹に、ユティナはただキョトンとして見えるだけだった。
ブレア先生は、一度深く息を吸ってから静かに告げた。
「仮に、戦争が起きなかったとしても、です。“そんな力が他国に渡るくらいなら、いっそ消してしまった方がいい”……そう考える国も、必ず出てきます」
その言葉に、保健室の空気が一段階重く沈んだ。
「……暗殺、ですか?」
アルマの声はかすかに震えていた。
ブレア先生は、目をそらさずに頷く。
「その可能性は十分にあります。ユニコーンの契約者は、この世界では一つの“力の均衡”を壊しかねない存在。ゆえに、ハーリットさんには常に命の危険がまとわりつくでしょう」
マリアベルは腕を組み、難しい顔をする。
「確かに……力が大きすぎるがゆえの弊害、ということでしょうか」
(ちょ、ちょっと待って!? 私、今日まで普通にご飯食べて学校行ってただけだよ!? なんで気づいたら暗殺ターゲットみたいになってるの!? ねえ、これホラー? バッドエンド直行ルートなの!?)
ユティナの心の叫びは、当然ながら誰にも聞こえない。
と、そのタイミングで、ブレア先生はさらに重い言葉を落とした。
「そして、もう一つ懸念すべき問題が……」
その言葉に、場の空気がさらに張り詰める。
「ま、まだあるのですか!?」
アニヤ先生はもう限界ですと言わんばかりの顔で両肩を震わせる。
(アニヤ先生ぇぇぇ、私も同じ気持ちですぅぅぅ!! これ以上何があるんですかぁ〜っ!?)
ユティナも内心で悲鳴を上げていた。
ブレア先生は静かに続けた。
「それは、ハーリットさんが振るう“力”についてです」
「力……ですか?」
アルマが不思議そうに首を傾げた。
ブレア先生は重々しく頷く。
「はい。ハーリットさんはユニコーンと特別な契約をしています。そのため、通常の聖霊獣契約者とは比較にならないほどの力を行使することが可能です」
一同が息を呑む。
「その為、現在のハーリットさんは――ユニコーンが有する“真の力”を、行使できる状態にあります」
「ユニコーンの……真の力を……?」
マリアベルが、思わず驚きを滲ませた声で問い返す。
「はい」
ブレア先生は静かに続ける。
「そして、それを可能にしているのが、ユニコーンとの特別な契約……“隷属契約”なのです」
「……隷属契約?」
聞き慣れない単語に、アニヤ先生が思わず声を漏らす。
「はい、そうです。初めに言っていた特別な契約とはこの隷属契約の事です。そして、アルマさんやマリアベルさんが、今日の《聖霊の儀》で交わした契約は――言わば“聖霊獣との信頼関係を結ぶ最初の一歩”です」
ブレア先生は穏やかに、しかし一言一言を丁寧に区切りながら続けた。
「契約者が聖霊獣に聖力を貸してほしいと願えば、聖霊獣はその願いに応え、必要なだけの力を与えてくれます。でも……もし契約者が“その聖霊獣が持つ全ての聖力を寄越せ”と願ったら、どうなると思いますか?」
「そ、それは……」
アルマは言葉に詰まり、マリアベルは思わず息を呑んだ。
静寂の中、ブレア先生は淡々と、しかし確かな断定をもって告げる。
「まず、応える聖霊獣はいないでしょう。聖霊獣も生き物です。一度に全ての聖力を失えば死んでしまう。それは人間が、命を差し出せと言われて素直に差し出すわけがないのと同じことです」
「……ですよね」
アルマの呟きは、納得と同時に、胸の奥に残る切なさを含んでいた。
「ですが、“隷属契約”は違います」
その場の空気がわずかに揺れた。
その言葉には、不可思議な重みがあった。
「隷属契約では、契約者の願いは絶対です。たとえ、それが命を落とすとわかっている願いであったとしても……聖霊獣は必ず応えます」
ユティナは思わず背筋を伸ばした。
(なにそれ!? 私そんな物騒な契約をユニコーンとしたの? もうそれ呪いじゃん! 命がけのブラック契約じゃん!)
しかし、次の瞬間。
ふっと表情が柔らかくなったブレア先生が微笑む。
「……とは言っても。隷属契約は、強制や暴力で成立するものではありません。むしろ逆です。“聖霊獣が自らの意思で、愛する契約者に命を捧げる覚悟”を決めた時にのみ成立すると言われています」
教室が一瞬しんと静まり返った。
「つまり、隷属契約とは“献身の契約”。聖霊獣が心から愛した相手にだけ許される、深い絆の証なのです」
マリアベルが口元に手を当て、そっと目を細める。
アルマも驚きと感動が入り交じったような表情で聞き入っていた。
ユティナだけが心の中で大騒ぎだ。
(は!? 愛!? いやいやいやちょっと待って!? 私、そのユニコーンに愛されてるってこと!? なんで!? そんなフラグ立てた覚えないんだけど!?)
ブレア先生はさらに続ける。
「そして、霊獣語についてですね」
その声は穏やかだが、内容の重さに自然と背筋が伸びる。
「聖霊獣は、それぞれが“固有の聖魔法”を有しています。しかし、その魔法を発動するには、必ず《霊獣語》による詠唱が必要です」
一同が息を潜める。
「霊獣語は、人間には扱えません。発音も、概念も、人の魔力構造では再現できない言語だからです。そこで聖霊獣は、契約者に“言葉”そのものを授けます。詠唱の権利を、一時的に預けるのです」
アルマとマリアベルの目が見開かれる。
「それによって契約者は、自身の魔力を一切消費せず、聖霊獣の聖魔法を発動できるようになります。これは単なる契約行為ではありません。聖霊獣が契約者を信じ、心を委ねた証――いわば“愛の贈り物”に近いものだと考えられています」
静寂が落ちる。
「つまり……」
マリアベルが言葉を選びながら口を開く。
「聖霊獣固有の聖魔法を行使するには、隷属契約が必須、ということですわね」
「はい」
ブレア先生は静かに頷いた。
「そして、静密の森で、ハーリットさんが放った《ホーリーレイ》もまた、ユニコーンが持つ固有の聖魔法です」
その言葉に、空気が張り詰める。
「聖霊獣の放つ聖魔法は、純粋な聖力のみで構成されています。我々人間が扱う聖魔法とは、根本的に“格”が違う。威力も、性質も、比べ物になりません」
誰もが息を呑んだ。
沈黙を破るように、アルマが小さく手を握りしめる。
「……あの、先生」
震えを抑えながら、恐る恐る問いかける。
「それなら……私も、聖霊獣と信頼関係を築ければ……いつか、隷属契約を結ぶことができる、ということですか?」
ブレア先生は穏やかに微笑み、しっかりと頷いた。
「ええ。あなたが聖霊獣に寄り添い、相手もあなたを心から想えば……その絆はどこまでも深まっていきます。隷属契約は“従属”ではありません。“互いを愛した果てに生まれる、究極の信頼関係”なのです」
ユティナが心の中で盛大にひっくり返った。
(ちょっ……そんな……私いつの間にユニコーンにそこまで好かれてたのぉぉぉ!? 重い! 嬉しいけど重い!!)
「聖霊獣と契約した者が最終的に目指す境地、それが“隷属契約”です」
ブレア先生は言葉を区切ると、ゆっくりとユティナへと視線を向けた。
「そして、ハーリットさんはすでに“霊獣王ユニコーン”と隷属契約を交わしている。……これがどれほど途方もないことか、わかりますか?」
その重みを測るように、保健室の空気がひやりと揺れた。
マリアベルはユティナを見る目を、じとり、と僅かに細める。
「聞けば聞くほどとんでもないお話ですわ……。ですが、当の本人がまったく自覚なさそうなのが、また余計に信じられませんわね」
「いや、だって……本当に実感湧かないんだもん。褒められるとちょっと……照れるけど」
「誇っていいことですよ、ハーリットさん」
ブレア先生は穏やかに微笑む。
「“大聖女ソディナ様”ですら、ユニコーンとの隷属契約には至りませんでした。それほどまでに、希少で、尊く、奇跡に近い契約なのです。故に扱う力が巨大なのです」
(え……私、知らないうちに“大聖女超え”してたの?
なにそのチートバフ。怖いんだけど!? 逆に不安なんだけど!?)
ユティナが内心で転げまわっている間に、ブレア先生は話を続ける。
「さて、そのハーリットさんの力ですが。皆さんも静密の森で見たはずの、あの“聖魔法”が証拠です」
ひと呼吸置き、ブレア先生は静かに告げた。
「もし、ハーリットさんが、ユニコーンから“半分以上”の聖力を受け取り、その力で聖魔法を行使した場合……」
一拍。
「国ひとつを、消し飛ばすことすら容易でしょう」
その言葉が落ちた瞬間、保健室の空気は一気に凍りついた。
「……く、国ひとつ……!?」
アルマの声が、かすかに震える。
マリアベルは思わず口元を押さえ、信じられないものを見るように目を見開いた。
(な、なにそれ……魔王じゃん!? せっかく“魔王”卒業したのに、別枠で魔王に就任してない! なんで!? ねえ、なんでぇぇぇぇ!?)
「それほどの力とは……。まさか、ソディナ様も同等の……?」
アニヤ先生が慎重に言葉を選びながら尋ねる。
ブレア先生は小さく首を振った。
「いいえ。ソディナ様とユニコーンの契約は、隷属契約ではありませんでした。ですから、そこまでの力は振るえなかったはずです」
続けて、静かに説明する。
「伝えられている話では、ソディナ様が行使できたのは、ユニコーンの力の“ごく一部”のみ。元来、ユニコーンという存在は非常に誇り高く、気高い聖霊獣です。本来であれば、人間と契約を交わすこと自体、あり得ないと言っていいでしょう」
その言葉の重みが、改めて状況の異常さを浮き彫りにする。
保健室にいる全員が、無言のままユティナへと視線を向けた。
当の本人だけが、事の重大さを完全には飲み込めないまま、静かに固まっていた。
さらに、ブレア先生は冷静に続ける。
「ですので、その力を全て使えるユティナさんは桁外れです。だからこそ、兵器として利用しようとする国が現れてもおかしくありません。そうなれば、戦争どころでは済みません」
ゆっくり、しかし確実に落とされる言葉。
「最悪の場合、世界が滅びる可能性すらあるのです」
(……え、世界滅ぶの? 私……存在してていいの……? もしかして、私……いない方が……良くない……?)
ユティナは心の中で虚空を見つめていた。
そんなユティナの姿を、ブレア先生がしっかりと見つめて言う。
「ですから、これは絶対に、絶対に表に出してはいけません。世界に混乱を招かないためにも。ハーリットさんの力は、どんな手を使っても――隠し通さねばならないのです」
静まり返る保健室。
ユティナの心臓だけが、どくん、どくん、と大きく脈を打っていた。
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