87話 ドリル
「ん?」
「どうしました?」
「いや、誰かに見られてる気がして……」
「誰かって、誰です? ただの学生2人にそこまで興味ある人なんて、いないと思いますけど……」
「……それもそっか」
視線を感じたような気がして窓の外を見てみるも、誰もいなかった。彩梅ちゃんの言う通り、そんな人はおらず、俺の勘違いだったんだろう。
「それでこの後、どうします?」
「あんまり長居するのもアレだし、そろそろ帰ろうか」
「えー、別の所に遊びに行ったりしないんですか~?」
「もう良い時間だし、宿題も委員会のしないといけないこともあるからね。あと俺の場合は家の手伝いあるし」
「そうですか……。あ、じゃあ」
「何?」
「次、一緒に出掛ける予定を取り付けてもいいですか?」
「いいけど……そこまで俺と遊びに行って、彩梅ちゃんは楽しいの?」
「楽しいと思っているから誘っているんですけど……センパイは何か問題が?」
「無い、けど……」
彩梅ちゃんが以前、夏頃に言っていた「彼氏いない」発言から考えて、この“お出掛け”は彩梅ちゃんにとってのデートの演習みたいなものだと思っていたけど……どうなんだろう。
男とのデートの演習というか、練習なら他の男とかと出掛けた方がサンプル数というか、より多くの状況を考えることができるとは思うが……うーん……。女の子の考えることは分からん。
「……で、いつ、どこに行きたいとかあるの?」
考えていても仕方がないので話題を続けた。
「そうですねぇ……明日、明後日くらいに、水族館とかどうですか!?」
「明日も明後日も学校があるし、放課後に日帰りで行ける水族館とか、この近くに無いよ? それに今日、委員会を休んだから、なるべく平日に予定入れるのは……ね?」
「それは……そうですね」
「行くところを変えるか、水族館に行くなら……こっちは土曜日にちょっと予定入れてるから、日曜ならいけるよ」
「土曜は何か?」
「委員会の仕事をしようと思ってて」
「センパイ的には土曜よりも日曜の方が良い感じですか?」
「日を替えようと思えば替えてもいいけど、日曜で問題無いなら日曜が良いかなって感じかな。そこまでこだわっても無いけどなんかこう……委員会の仕事を休みに入れる時は土曜にするっていう……自分ルールというかルーティンというか……そんな感じのヤツだね。土曜の方が良い?」
「いえ……アハハ。ちょっと、気になっただけで、センパイが良いなら日曜日でも全然大丈夫です!」
「そっか。じゃあ日曜日に」
「分かりました!」
女の子と2人で外出して、そしてその子と次のお出掛けの予定を作る。まるで青春の一幕だ。
実際は、ただ親友の妹の何らかの目的に、それを知らされず付き合わされているだけなんだけど。
ま、俺の灰色の青春に色を差してくれているのだから、もう少し付き合おうか。彼女と一緒にいることで、俺自身の実への気持ちを意識しないで済む、というのもあるし。




