39話 「戻るための会」2年目
―Minol Side―
連休明けの初の放課後。それは「戻るための会」の集いの為に費やされた。
「この人が、新たに『戻るための会』に入ることになった――」
「河豚名 樟利です。ええっと……男に戻るためにどういった心持ちでいるといいか考える会……みたいに聞いてます。よろしくお願いします」
「よろしく」
「よろしく。合ってるよ、それで。俺は『戻るための会』の……この会に代表ってものは無いって感じだけど一応代表がいないと面倒だからってことで事実上の代表になってる3年の御地 翔です」
「同じく3年で平会員の黒田 稲荷でーす」
「知ってると思うけど2年の松前。改めてよろしく」
こうして、「戻るための会」に新たな会員が加わることになったのであった。
「で、具体的には何してるんですか?」
「それぞれの体験から感情をどうコントロールするか、自制心を高めることができるのか考えたりしてるね」
「なるほどねぇ~……」
「と、いう訳で、まずは河豚名の現状の確認だね」
「現状……?」
「それ確認しないとどう接したらいいか、どういう主観を持ってるのか分からないし……。まあ、道行く男のことをどう思うのか、男の友人とかについて何か見方が変わったかみたいな話を、ね」
「へー……」
「と、いう訳で、どう? 多少は男と話すときに感覚が違う……みたいなこととかある?」
「うーん……ないかなぁ」
「そんなこともあるのか」
「半数くらいがそんな感じではあると思うよ。この学校にももう少しTS化した人はいるけど、そういうことをあまり感じない人はここにこない人が大体だからそう感じないだけで」
「そっか、そういう人もいるんですね」
この手の集まりは「戻るための会」しか参加したことが無いから、そういう感覚が無い人が多いっていうのも忘れがちだ。
比較的にそういった感覚を持っていた元代表の熊野先輩は受験勉強からの卒業のため、年が明けてからは殆ど関係がなかった。あと1年と3年というだけで関係が薄くなりがちというのはあるし。
「他に人間関係で変わったこととかは?」
「家族は……特に変わった気はしないなぁ……友人関係はさっき言った通りだし……あ」
「他に何か?」
御地先輩が河豚名の漏らした「あ」の声を拾って問いかけた。
「俺……彼女いるんすよ」
「へ、へぇ……」
「それもあってか、あんまり何かこう他の所での変化に気づきにくいのかも知れませんね。逆に彼女とは付き合ってるというよりは友人みたいな距離感になっちゃいましたけど」
「「「……」」」
「……って、アレ?」
河豚名の今の発言について、自分たちの気持ちは1つになった気がした。
(((いや彼女いるんかいっ)))
今までの「戻るための会」には1人として付き合っている人がいた人はいなかった。少なくとも、自分が聞く限り。
先代代表の熊野先輩についても、そういった話は聞いていない。
「……まあ、いいか……」
「うん……そうだね……」
「そうっすね……」
「え? なんか俺、マズいこと言っちゃいましたか?」
「本当、大丈夫だから……」
皆それぞれ、自らの醜い嫉妬の感情に目を向けたくない為か、早めに話題を逸らすようにしていた。
……そういえば、熊野先輩は今頃、どうしているんだろうか。大学生活は、楽しめているんだろうか。




