29話+ Interpretation of Introspection
1000~1500文字くらいのつもりだったのに何故……。
内容の本質的に見るのは最後あたりだけで良いかもしれない。
それはそれとして全部見ても良いかもしれない。
―Minol Side―
あれ? ここは……どこだ?
周りは白く、何もない。暗くはないけど、明るくも無い。
俺は……どうしてたんだっけ? 記憶は全くない。
高校に入学して、暫くして身体が女になって、夏になって髪型と着る物を変えるようになって……それからどうしたのか、忘れてしまった。
腕を組み、考え込む。
ん?
なんだか胸元が、スッキリしてる?
胸元を見ると、いつもより視界が広い気がした。
胸がなくなってる?
違和感が臨界点に達し、自分の身体を探る様に観察した。
どうやら、男の身体に戻っているようだ。
だがそこに、「戻った」という感覚は無かった。
まるで時間そのものが戻っているような……。
「シャー!」
「んん?」
今まで意識していなかったが、手には何故かヘビを掴んでいた。何故にヘビ?
「シャー!」
「意味が分からない……」
俺の身体が男に戻っているのも、俺の手にヘビがいるのも訳が分からないが、もっと分からないのは俺がそのような状況になっているのに冷静でいられているということだ。
「シュルルル……シャーッ!」
「あっ」
唐突に俺の手からヘビがすり抜け、器用に蛇行して、思いもよらないスピードで遠くへ逃げて行ってしまった。
「まあ、いいか?」
しかしなんとなく、寂しいような気もした。俺に対して敵意などは感じなかったし。
「おーい!」
「アレ?」
声が聞こえた方を見ると、増良の姿があった。
「どうしてこんなところに?」
「え? こんなところ?」
「俺にもよく分かってないけど、意味わからないだろ、ここ」
「それは……そうかな?」
「そうだろ。あとなんでヘビなんか持ってんだよ?」
現れた増良の手には俺がさっき持っていたようなヘビを持っていた。あまりヘビのことには詳しくはないが、多分、俺がさっき逃がしてしまったヘビとは違う個体だろう。
「それを言うなら何でお前もそんなもの持ってるんだ?」
「は? 俺は何も持ってな……なんだこれ?」
先ほどまでヘビを持っていた手には、片手で持てるほどの大きさの空き瓶だった。フタはついていなかったが、その形状はジャムが入ってそうなものだった。
「俺もよく覚えてないわ……瓶なんか持ってた憶えなんてないし……」
「『俺』、『俺』って、そんな可愛い格好してんのに、その言葉遣いじゃ合ってねぇぞ。『私』とかにすればもっと可愛い感じに――」
「一体何の冗談を……って、服も身体も変わってる!?」
増良の言葉が自分の服と身体に目を向けさせると、その両方が変わっていることに気が付いた。
「なんだよコレ……さっきまで男の身体だったし服も男物だったはずなのに……」
服に至っては自分が今持っているものではない気がするものを着ていた。こんなの買ってたっけ? 母親と妹が買ってきたようなものと同じくらいに女の子っぽさのある服装だった。本当にどうなってんだ?
「まあ落ち着けって。お前の身体が女になったのはもう数か月も前の話だろ?」
「それは……そうだけど……」
何か心が落ち着かない。それは俺の身体がいつの間にか女の身体に戻っていたことに対してなのかどうかは分からない。
「実……お前、どこ見てるんだ?」
「え? なんか、ヘビが気になって」
もしかしたら、増良が持っているヘビに対して気になっていたのかも知れない。
「ヘビ?」
「それ。というかさっき、俺が話そうとしたよな?」
「そうだっけ?」
「そうだっただろ! 話を遮ったのはそっちだったろ!?」
「あー、ゴメンゴメン。で、このヘビが何だって?」
「えー? あー……なんか、気になったってだけ、なんだけど」
「ふーん。じゃあ、ちょうどいいし、その瓶にでも入れるか?」
「別に俺は……いや、増良がそのヘビを持ちにくいなら、別に入れてもいいけど……」
何故か分からないけど、恥ずかしくなってきた……。
「んー……じゃあ、はい」
「はい……」
「シュアー!」
増良のヘビはこちらに威嚇をしながら俺の持っている瓶に入れられた。
フタがないので出てきて噛まれてしまうかもと少し不安になったが、そんなことはなく、瓶の中で暴れまわっているようだった。その振動が手に伝わってくる。
「ショアー!」
瓶の中に入った増良のヘビが内側から瓶をその牙で噛みついてきている。そのヘビは牙に毒腺が入っているのか、噛みついた先のところから何らかの液体が出てきていた。
「ははっ……」
自分でもよく分からないが、嬉しいような違う感情のような気持ちが胸の底からこみあげてきていた。ずっと眺めていられるような気さえした。
……そう言えば、ここって、どこなんだっけ。
「んっ……」
視界が開かれた。
自分の部屋だ。
照明はついていなくても分かるのは、外からの薄い光が室内を分散しながら明度を返してくるからだろう。
先ほどまでの世界とこの世界の境界線がだんだんと感じられてくる。
「夢……か……」
確か今は風邪引いて……どうしたんだっけ。
熱は引いてきた気はするけど、身体のダルさはまだ残っている。
「……『俺』より『私』の方が……」
すべてを思い起こす前に、疲労感と睡眠欲に負け、再び視界の幕が下ろされ、眠りにつくのであった。
フロイト「良きかな」




