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【完結済!】天涯のアルヴァリス~白鋼の機械騎士~  作者: すとらいふ
第二章 旅立 〜幻のオーガスレイヤー〜
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第二十二話 白狼・2

第二十二話 白狼・2


 結局、次の日も昼になるまで吹雪は続いた。状況が変わってきたのは恐らく夕方頃だろう。ホワイトスワンの艦外から聞こえてくる強い風の音が幾分か、やわらいできたのだ。


 ユウはありったけの服を重ね着して、その上から布団を被ったまま半分凍っている自室の窓から外を覗く。相変わらず視界は白一色だが、叩きつけるような風は少しずつ弱くなっているようだ。


 これなら明日には出発出来るかな? 今晩の食事はいつも通りに戻すか。


 そんな事を考えつつ、ユウは布団を引きずりながら食堂へ向かう。ついでに何か温かい飲み物でも作って飲まないといい加減、凍死しそうだ。


「うぅ、寒い……。今日はシチューでも作ってみるか……牛乳とホワイトソースがあればいいんだっけ?」


 ……オォーン……


 なんだ? 犬の遠吠えかな? ……こんなところに犬なんているのだろうか。すぐ近くに村や民家なんか無いはずだけど。


 ユウはこういう山だと野犬くらいそこら辺にいるか、と一人で納得する。


 厨房に入ったころ、再び遠吠えが聞こえる。さっきより場所が近いのか、少し大きく聞こえる。もしかして近づいてきているのだろうか。うーん、野犬に襲われるのは勘弁したいな。あんまりホワイトスワンから出ないようにしよう。


 ユウが半ば冷蔵庫と化した厨房で食材を確認していると、廊下が騒がしくなってきた。いったいどうしたのだろうか。


「ユウさん! 外ヤバいっスよ!」


「どうしたヨハン。また吹雪が強くなったのか」


「あいつ等が出たんですよ! 数も多いし、すっかり囲まれてるみたいっス!」


「だから何が出たんだ。あ、もしかして野犬か? 噛まれないように気をつけろよ? 野犬に噛まれたら狂犬病という病気に……」


()()()()()()っスよ! 噛まれるっていうか、頭から齧り取られますよ!」


 スノーウルフ? オオカミ? さっき遠吠えしてたやつか。そうか、野犬じゃなくてオオカミだったのか。


「そうかー。ちゃんと戸締りしないとなー。オオカミは怖いもんな」


「いやいや、ユウさん! そんな呑気な事いってる場合じゃないですよ! スノーウルフは理力甲冑並みの大きさなんだから、奴らが本気になったらホワイトスワンなんかバラバラに解体されちゃいますよ!」


「……まじ?」


 ヨハンの顔はいたって真面目だ。そんなデカいオオカミなんているのか、いや、いるのかもしれないな。蛇もムカデもイノシシも規格外のデカさだったし。


「何やってんだヨハン! 早く出撃するぞ!」


「だからそう言ってんじゃないスか!」


 ユウとヨハンは急いで格納庫に走る。しかし相変わらず艦内は冷えるので、急いでいるのに上手く走れない。食堂に置いてきた布団を被ってくればよかった。


 なんとか格納庫に着いたが、ユウは歩みを止めてしまった。


「……寒い」


 そう、寒いのである。さっきまでの吹雪により、格納庫は一夜にして豪雪地帯になってしまっていた。


 ホワイトスワンの横っ腹に壊れて空いたままのハッチから大量の雪が侵入してしまい、アルヴァリスはおろか他の機体、機材や工具も雪に埋もれてしまっていた。よく見ると、向こうでレフィオーネの周りを雪かきしているクレアがいる。


「ユウ! 遅いデスよ! 早く乗るデス!」


 アルヴァリスの操縦席付近で雪を降ろしている先生が叫ぶ。その下では機体の足周りの雪をかいているボルツが。


「うう、寒いけど行くしかないか……」


 寒さに震えながら操縦席に乗り込んだユウはいつもの手順でアルヴァリスを起動させる。聞き慣れた理力エンジンの音が響いたと思うと、体の震えが治まった。


「ん? なんか寒さが和らいだな。機体に暖房が付いているんなら先生も教えてくれればいいのに……」


 いつもの調子に戻ったユウはアルヴァリスでステッドランドとレフィオーネの周りに積もった雪を払う。土木機械じゃないが、やはり人力よりも簡単に雪かき出来る。


「ユウ! 悪いけど、スラスターに雪が詰まってるの。出撃までもうちょっとかかるから時間を稼いで!」


 レフィオーネのスラスターは雪でいくらか凍り付いている。格闘戦が出来ないレフィオーネに地上での戦闘はさせられない。


「分かったクレア! ヨハンはもうすぐ出られるな?!」


「ウッス! もう行けます!」


 ステッドランドは全身にこびり付いた雪を振り落としながら立ち上がる。二機は剣と盾、ライフルを雪の中から掘り出し、雪風が吹き込むハッチから飛び出す。


 ホワイトスワンの周囲には体毛の真っ白なオオカミが取り囲んでいた。かなりの数の群れのようだ。それに大きい。ヨハンは理力甲冑並みの大きさと言っていたが、あながち間違いではなさそうだ。これが、スノーウルフか。


 二機の理力甲冑の登場で取り囲んでいたスノーウルフ達は俄かに殺気立っている。どれも鋭い牙をむき、どう猛な瞳は爛々と輝いている。今にもこちらに飛び掛かってきそうだ。


 アルヴァリスは右手に剣を、左手にライフルを構えてゆっくりと辺りを見渡す。正直、これはマズいかもしれない。二、三頭ならアルヴァリス一機でもなんとかなるだろうが、今見えているだけで十頭はいる。恐らく、取り囲っているのはもっと多いだろう。これらが一斉に襲い掛かってきたら、ホワイトスワンを守り切れるかどうか……。


「先生、ボルツさん。聞こえていますか? スノーウルフの数が多すぎます! なんとか時間を稼ぐのでスワンの出発を急いでください! なんとか逃げましょう!」


 ユウは戦略的撤退を提案する。ホワイトスワンの速度なら殆どの魔物は追い付けないはずだ。このオオカミの魔物と言えど、休みなく走り続けることは不可能だろう。すると、無線の向こうからボルツの抑揚の無い声が聞こえてきた。


「うーん、スワンの速度ならなんとか……一日中逃げ続ければなんとかってところでしょう。しかし、これから暗くなるとちょっと危険ですね……」


 確かにボルツの言う通り、魔物に追われながら夜間の行軍は危険だ。難しくともここでスノーウルフの群れを撃退しなくてはいけないのか。


「ユウさん! 俺が突っ込むんで援護お願いします!」


 ヨハンが今の話を聞いていたのか、それとも聞いていなかったのか、二刀を携え真っ正面のスノーウルフに突撃していった。スノーウルフ達は急に突撃してきたステッドランドに驚いた様子で、何頭かが逃げ遅れてしまった。そこへ二振りの白刃が煌めいたかと思うと、二頭のスノーウルフの白い体が赤く染まり、力なく倒れた。


「ヨハン! ああもう、先走って!」


 ユウは毒づきながらも、こういう時ヨハンの行動力に感心する。そのおかげでほとんどのスノーウルフはヨハンのステッドランドに注意が向いた。


 アルヴァリスはライフルの引き金を短く数度引く。数発づつ連射された弾丸は何頭かのスノーウルフに命中する。スノーウルフは小さな悲鳴を上げてその場にうずくまってしまう。死んではないようだが、簡単に動き回れるほど軽傷でもないようだ。


 スノーウルフの群れがバラバラにヨハンのステッドランドに襲い掛かっていくが、ヨハンは余裕の表情で次々と二刀を振るう。オオカミ達は連携が取れておらず、実際のところ、一頭づつを相手にしているようなものだ。確かにスノーウルフの動きは早く、その牙と爪は理力甲冑といえどもまともに食らえばタダではすまない。しかし、今のように一対一に近い状況では冷静に対処すれば問題ない。


 飛び掛かってきたスノーウルフの喉元に右手の剣を突き立て、そのまま勢いを殺さずに背後へといなす。宙を舞ったスノーウルフは他の仲間たちにぶつかり、ぐたりと横たわる。次のスノーウルフが助走をつけて突進してくるが、ステッドランドはとんぼ返りに一回転するとすれ違いざまに背中を斬りつけた。さらに着地の瞬間、左手の剣を宙返りの勢いも利用して少し離れた場所にいた別のスノーウルフに投げつけた。投げナイフのように縦へと二回転したのち、その剣先は見事に胴体へと突き刺さった。









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