第十六話 黒槍・4
第十六話 黒槍・4
ふぅ、とユウは息を吐く。なんとか敵のステッドランドを倒したが……。急いで無線のチャンネルを操作する。
「ボルツさん、聞こえますか? 街の状況を教えてください!」
「ああ、ユウ君ですか。ちょっと待ってください、今確認します」
ボルツによると、どうやらクレメンテの街は四方から帝国の理力甲冑に同時攻撃を受けたようだ。そのせいか情報が錯そうしてしまい、街の守備隊は出動が遅れているという。しかし、奇妙なことに敵は積極的に攻撃を加えてこないそうだ。
「ユウ君、とりあえず西側城門に向かってください。そっちも理力甲冑の出動が遅れています。敵はどうやら城門を破壊して街の中に入ろうとしています」
「分かりました! こっちの状況を街の守備隊にも教えてあげてください!」
ユウはアルヴァリスを目一杯に走らせる。しかしいくら速く大地を駆けようと、クレメンテの街は広い。これでは時間が掛かってしまう。ユウは横にそびえる高い壁を見上げた。
「よし、やってみるか」
城壁に沿って走っていたアルヴァリスが突然向きを変え、そのコースを大きく膨らませる。すると再び城壁に向かって歩幅を大きく駆ける。力強く大地を踏み切ると、アルヴァリスはまるで羽根が生えたかのように宙へと飛び出す。
そのまま理力甲冑からでも見上げる高さの城壁の最上部に到達し、跳躍の勢いを殺さず再び足を踏み切る。あまりの脚力で壁の一部が崩れてしまったが、ユウはお構いなしに街の夜空を翔ける。白い機体に月明りが反射したのか、キラキラと輝いて見える。
長い滞空の末、大きく街をショートカットしたアルヴァリスは小さい地響きを立てながら着地する。前方に見えるのが西側城門か。その城門を今、敵のステッドランドが破壊しようとしている。ユウは即座にライフルを抜き、狙いもデタラメに連射する。しかし距離が遠く、なかなか当たらない。
「間に合わない!」
アルヴァリスは再び大地を駆けるが、どうしようもない。城門が破られた。敵が街の中に入ってしまう。
敵のステッドランドが城門を潜り抜けようと屈んだ瞬間、突然その背中から長い棒のようなものが生えた。その先端には鈍く輝く鋼鉄の鋭い切先があり、ユウはその形状に見覚えがあった。
「あれは……グラントルクの槍?!」
槍が一気に引き抜かれ、四肢がだらんとしたステッドランドはそのまま力無く倒れた。他の機体は手にした武器を急いで構える。ボロボロに破壊された城門から漆黒の理力甲冑が姿を現す。シンのグラントルクだ。長大な槍を携え、ゆっくりと前へ歩みを進めると、あまりの威圧感に敵は後ずさりしてしまう。そのうち敵の一機が遮二無二長銃をグラントルクへ向けて引き金を引く。排莢、装填、発射。その動作を何度か繰り返すが、放たれた銃弾は漆黒の装甲を傷つけることはできなかった。弾倉が空になっても敵は引き金を引き続ける。
グラントルクは槍を真っすぐ構えたかと思うと、一番近い敵のステッドランドに向かって飛び出す。敵は剣を振るい迎撃を試みるが、グラントルクは素早い槍捌きで剣をはたきおとす。そして大地をしっかりと踏みしめ、槍を持つ手に力を籠める。穂先がわずかに動いたかと思うと、目の前にいたステッドランドの頭部、胸、下腹部にいきなり穴が空いてしまった。あまりの速さで見えなかったが、グラントルクは一瞬で三回の突きを繰り出したのだ。
そして驚きで硬直している別のステッドランドの胸部を一突きにし、そのまま槍を大きく振り回す。その遠心力で吹き飛ばされたステッドランドは別の敵機と激しく衝突する。さらに一歩踏み出したグラントルクは槍を大きく上段に振りかぶり、勢いよく振り下ろす。太く重い槍の柄は、ぶつかって折り重なった二機のステッドランドの脳天をメキメキと音を立てながら潰してしまった。
残ったステッドランドは弾が尽きた長銃を投げ捨てると、果敢にもグラントルクに格闘戦を仕掛けてきた。見事なステップで槍を躱し、間合いの内側へと攻め入る。グラントルクは間合いの内側へ潜りこまれたため、思うように動けていないでいる。
「シンさん、一旦引いて!」
ユウが叫びながら両者へ近づこうとする。しかしグラントルクはそのままだ。何をしているんだ。いくらグラントルクの装甲が厚くても、このままじゃやられてしまうぞ。敵のステッドランドはさらに間合いを詰め、グラントルクの懐に分け入った。
「おいおい、ユウ。この俺を誰だと思っているんだ?」
シンはそう言うと、槍を持った両腕を敵機の背中に回してそのまま締め上げる。まるでベアハッグだ。グラントルクの太い腕がステッドランドに音を立ててめり込む。身動きの取れない敵機はどうにかして逃れようともがくが、余計に締め付けられてしまう。グラントルクの頑強な装甲はそのまま鋭いスパイクとなって相手の機体をいびつに歪ませる。
手足がピクリとも動かなくなった頃、グラントルクはようやくその抱擁を止めた。上半身が異様な形に変形したステッドランドが文字通り崩れ落ちる。
「ユウ、すまねえな。ちょっとばかり遅れちまった」
「シンさん、酔いつぶれていたんじゃ?」
「この俺があれしきの酒でつぶれるかよ!」
無線なので分からないが、今のシンはドヤ顔で決めていることだろう。……あんなに大きないびきをかいて眠りこけていたくせに。しかし、この短時間で理力甲冑に乗って戦闘を行えるほどには回復しているという事は、本当に酔いつぶれていなかったのか?
「それより、ほかの場所は大丈夫ですか? 敵はあとどれくらい残っています?」
「ああ、それなら大丈夫だ。北と東の敵は撤退したそうだ。多分、南と東側の部隊がやられたからだろうな」
ユウはそれを聞いてホッとする。街に大きな被害はなさそうでよかった。それにしてもシンとグラントルクの強さは尋常ではない。昼間、戦った時にも感じたがシンはどこか戦い慣れた強さがある。
グラントルクは槍についたオイルを振り払い、肩に担ぐ。
「さっ、とっとと帰ろうぜ? そろそろ眠くなっちまった」
クレア「この世界では15歳から飲酒が可能ですが、皆さんは二十歳になってからお酒を楽しんでくださいね!」
ヨハン「あれ? シンさんってお酒飲んでから理力甲冑を操縦してるけど、これって飲酒運転になるの?」
クレア「この世界にはそんな法律がないから無問題よ」
ヨハン「それでいいんですか……?」




