エピローグ
フェルラースという街には『リトル』というお店がありました。
そこの店主は年齢で言えば成人したばかり。その反面見た目は男の子と言った方がいいでしょうか。とても可愛らしく、人柄も良いと評判で人気者でした。
そんな可愛らしい彼が作り出すお菓子はまるでほっぺが落ちそうになるほど美味しい物なのです。その味は魔法のように、彼以外作り出す事が出来ませんでした。いいえ、もしかするともう一人だけ作れるかもしれません。
それは先代の『リトル』の店主にして、彼のお師匠様でありお嫁さん。彼女ならば彼に近い味を作れるかもしれません。
でも彼女はもう『リトル』でお菓子を作る事はありません。子供たちに勉強を教えるという仕事、いいえ、無償の奉仕を行う事に忙しいのです。
それでも一つだけ、たった一つだけ『クッキー』と呼ばれるお菓子だけは今も作っているのです。
それは店主である旦那さんをも唸らせる物でした。
口に出来るのは幼い少年少女のみ。たとえ請われても彼女はそれ以外の人の誰にも作ることはありませんでした。
かつては彼女の味が『リトル』の味でしたが、今では旦那さんの味に変わっているのです。
そして今またここに、彼の味に魅せられた女の子がいました。
少女はおてんばの気があり、駄目だ、と言われつつも我慢できずにフェルラースにやって来てしまったのです。
けれどもお菓子目的にやって来たわけではありません。少女の目的は『リトル』の店主だったのです。
――月に一度しか食べられない魅惑のお菓子。
それを毎日食べたいと思い、店主を召し抱えようとしたのです。
同じ様に魅了されているはずの母親――王妃様は、それはいけないことです、と少女をいつもたしなめていました。しぶしぶそれに従っていた少女ですが、とうとう我慢出来なくなり、王妃様の言いつけを破り行動に移してしまったのです。
数人のお供を連れて少女は『リトル』へとたどり着きます。
随分ちっちゃいお店ね、と呟いた後、お供の者に扉を開けるように命じます。すると、開けた扉の隙間から狂おしいほどの甘い匂いが漂ってきました。
これは確かバニィラの匂いかしら?
はしたないと思いつつも鼻をひくひくとさせ、その香りを堪能する小さな淑女。
彼女は段々と食欲を刺激されます。
店に入るなり、バニィラアイスが食べたいわ、と呟きます。本当は本題を先に切り出すつもりでした。けれど我慢ができません。
それを聞いた店員らしき女性が、店長バニィラアイス1つ入りました、と声を上げます。
まだかしら? 少女は焦れて思わずテーブルを指でトントン叩いてしまいます。これを王妃様に見られたらこっぴどく叱られる事でしょう。
けれどここに王妃様はいません。それに告げ口をする嫌な侍女たちもいません。だから感情の赴くままに自由を満喫していました。
それでも段々と待ちきれなくなってしまい、もう我慢出来ない! と席を立とうとしました。
その時、大変長らくお待たせしました、と心地よい柔らかな声が耳に入ってきます。少女は振り返り声の主を見ました。
そこにはニッコリと微笑んだ天使の様な少年がいました。少女の顔はまるでリングゥルの様に真っ赤に染まります。
少年はお辞儀をして少女の元から去っていこうとします。少女は思わず、それをさせじと少年の服を掴んでしまいました。
少年は困ったような笑みを浮かべ、どうかしましたか、と語りかけてきます。
しかし少女は、あぅあぅ、としか声に出来ません。
それを見たお供の者は主の目的を果たそうと、店主に取り次いで貰えないか、と少年に話しかけます。
するとどうでしょう。少年が、ぼくが店主です、と予想外の言葉を返してきました。
少女はそれを聞き、赤らめてうつむいていた顔を上げ、ぱあっと花が咲いたような笑顔に変わりました。
――店主、あなたを貰いに来た!
こうして少女は、待ち焦がれていた人と出会ったのです。
END
最後駆け足気味でしたが無事終わらせる事が出来ました。
最後までお読み頂きありがとうございました。




