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分類




 武装した兵隊は領主直轄の兵隊だろうか、彼らが身にまとうよろいにはフェルラースの紋章が刻まれていた。

 それをカリンが引き連れているという事は、助けを呼んでくれた……と言う事なのだろうか。


(カリンちゃんが助けに来てくれた。でも、どうして……)


 自分の目が信じられない。

 部屋に閉じこもったカリンが出てくるわけがない、とカイルは考えていた。だから助けに来ないとも。

 けれど、カイルの予想を覆しカリンはやって来た。あまつさえ期待していなかった兵隊まで引き連れている。これはどういうことだろうか。


「カイル! カイル! 返事してよ! ねぇ、カイルってば!」


 カリンの声には悲壮感はない。まるで最悪の事態には陥っていないと確信しているかの様に。


(そっか、検索魔法があったっけ……)


 問われた事に答えてくれる魔法。神の啓示の様に、この世の事実を教えてくれる魔法。

 カリンだけの魔法――それでカイルの生死を調べたのだろう。そして居場所も……。


「店主――いえ、カリン。少し静かにしてください。

 誘拐犯はいまだこの中にいるのですよ。相手を刺激するのはよしてください」

「う、ごめんなさい。気が気じゃなかったのよ」


 どこかで聞いた事のある女性の声。それもつい最近のことだ。

 それにカリンは注意されていた。


 それをボーッと見ていたカイルは、ふいに頬に冷たい物が当たる感覚があった。


「ヒィッ」


 思わず悲鳴を上げてしまった。先ほど感じた――刃物の冷たさだった。

 カリンたちの様子に気を取られたすきの出来事だった。もっとも、気を取られなかったとしても、拘束されているためこの状況は避けられなかっただろうが、気の持ちようが違う。

 先ほどまでは死を覚悟、いや死にたかったから望んでいた事。しかし、今は違う。希望を抱いてしまった以上、死にたくはない。

 だからナイフを突きつけられるという行為は恐怖以外何物でもなかった。


「カイルの声よ!」

 小さな悲鳴ではあったが、それをカリンは聞き取れたらしい。


 「あっちよ」という言葉と共に、カリンたちはこちらに近づいてきた。

 こちらからは丸見えであったが、どうやら彼女たちにはカイルたちの場所がわからなかったらしい。


 足音が段々と大きくなっている。光がしたとはいえ、中はいまだに暗い。その歩みはゆっくりとした物があった。

 やはり助けは来たのだ! 目は信じられなくても、耳がそれを証明している。そう思うとカイルの胸の鼓動は早くなる。

 すると、胸が痛くなってきた。呼吸するのもつらくなってきている。それどころか全身が痛みを訴え始めている。


 鈍っていた感覚が元に戻ったのだろうか。我慢できない程の痛みが全身を襲っている。

 意識が途切れそうになってしまう。それに身を委ね、あるがままに任せてしまいたい。そんな気持ちにさせられた。

 けれどそれはいけいない。自分が助かるせっかくの機会なのだ。自分でなんとかしなくてどうする。

 このとき、カリンの言う『ビッグな男』という意味がなんとなくだが、わかったような気がした。

 少なくとも、この場で全て他人ひと任せにするようでは『ビッグな男』ではない事は確かだった。



「おっと、これ以上近づくんじゃねぇ!」


 カリンたちの接近に焦りを感じたのか、ベルドが声を上げた。


「あんた、何なのよ! カイルはどこよ!」

(カリンちゃん! ぼくはここだよ!)


 声に出そうとしてもできなかった。胸の痛みがそれを許さなかった。

 たとえ声を出せたとしても、最後までは出せなかっただろう。ベルドがナイフを突きつけているのだから。


「お前が探してるカイルっつーのはこいつか?」


 痛い!

 カイルは傷つき、腫れ上がった顔を強引に持ち上げられた。


「ヒッ! えっ? あ、あ、あ、ああ……」

「む、むごい……こんな子供に、なんてことを……」


 何故なぜ気付かないのか疑問に思っていたが、カリンは『カイル』のことをカイルとは認識していなかったようだ。

 もう一人の女性の声からすると、気付かないのも無理もない状態だったのかもしれない。


「カイルを離しなさい!」

「おっと、こいつが目に見えないのか? お前らが近づく度に、このナイフもこいつに近づけるぞ?」


 その言葉に全員がピクリッと動きを止めた。


「カリン、落ち着きなさい。相手の思うつぼです」


 それでも動き出そうとしていたカリンを隣にいる女性が制止させた。

 あれは――領主婦人の女中だったはず、とカイルは朦朧もうろうとする意識の中で識別した。


「でも、リーチェさん!」

「いいから落ち着きなさい。交渉は私がするわ。貴女あなたは冷静になる事いいわね?」

「……わ、わかったわ」


 カリンを一歩下がらせ、カリンがいた場所にリーチェは躍り出た。


「貴族でもない平民の子供を誘拐して、何の目的があると言うのです?」

「答える必要がないな」

「あんたは――ダンストン!」


 ゴルタールではなく、横からダンストンが口を出した。こういった場合はあの老人の役目だとは思うのだが。

 カイルは不審を思い、痛む首を傾け、ナイフの位置に気を付けながらも顔を小さく左右に動かした。

 すると、どこにもゴルタールは見当たらなかった。それどころか数人ほど人が消えている様な気がした。

 もちろん、カイルの視界に映っていないだけかもしれない。そう考えると、逃げたと考えるのは時期尚早だった。

 今はまだ様子をうかがうべきだ、とカイルは痛む身体にむちを打ち気をしっかりと保った。


「あんた、カイルに何の恨みがあるというの!」

「恨みならいっぱいありますよ。まあ、主にお嬢さんにですがね……」

「――何の事かしりませんが、これは私怨による犯行と捉えていいのでしょうか? それとカリンは前に出ないように」


 以前感じた印象通り、リーチェは感情を外に表さない人物のようだ。カイルを見たときに眉をひそめて以来、表情を一切変えていない。


「私怨もあるが、『リトル』がちょっと目障りだったんだよ」

「ほぅ、『リトル』がですか? 貴方あなたは同業者の様には……とても見えませんが?」

「そうよ! あんたは不動産業でしょ!」


 再び横から出しゃばったカリンをリーチェはたしなめ、ダンストンに「本当ですか?」と問いかける。


「元、だ。貴女あなたがたのせいで、廃業ですよ……。

 この私が、解雇される、ふふふ……冗談にしても笑えませんよ」

「なんであたしたちのせいなのよ! どうせあんたが客を選んでるから、お偉いさんにとがめられたんでしょ。人に責任押しつけないでちょーだい!」


 やはり売り言葉に買い言葉が始まる。最初は止めようとしていたリーチェもついには抑えきれなくなる。

 周りの連中もそれに少しあきれ、緊張が薄れているようだった。しかし、そんな中ベルドだけは一切のすきを見せなかった。むしろ、先ほどよりもカイルの頬にナイフを近づけている。


 カイルは「ぜぇ、ぜぇ」と息を乱しながらも、それを見守っていた。

 このまま場の成り行きを見定めていたかったが、どうやらそれは無理そうだ。そろそろ意識を保たせておくのは限界に近かった。

 口惜くちおしい気持ちでその様子を見ていたが、何か様子がおかしい事に気付く。

 普段ならばもっと早くに気が付いたかもしれない。やはり痛みで血の巡りが悪くなっているのであろうか。


 ――カリンはずっと合図を送っていたのだった。



 ダンストンをなじりながらも、毛をむしるような動作をしている。本当にむしっている訳ではないが、あれは毛を抜くという合図だろう。

 その事を連想できるのは、以前言っていた『魔法で毛を抜く』ということ。

 本当は魔法で人を攻撃するという意味なのだろうが、どうやればいいのか、わからない。しかし、今が最大にして最後の機会だろう。

 ここで座して待つことは許されなかった。


 カイルは例に出された、毛を抜く、という方法を採ってみることにした。

 毛というのは頭から生えている。それを分類して分ければ良いと言うことだ。


(ダンストンの髪を……)


 深く集中する。むしろそれ以外痛みで考える余裕はなかった。

 すると、カイルの視界が突如変わった。


 髪 ダンストン――103203


 という文字がダンストンの頭上に表示されていることに気付いた。

 いや、こうしている間にも103203が、103202と少なくなっていた。

 カイルが抜け毛かなと思うと、


 髪 ダンストン:抜け毛――103201:32


 と表記が変わった。

 今までは漠然とやっていたが、もしかするとこういった操作を無意識にやっていたのかもしれない。

 実感するためにもカイルは【抜け毛】の値に【ダンストン】の数値を移動させた。


 その途端、視界に映るダンストンの頭からふさぁっと髪が流れ落ちた。

 あまりの光景にカイルは痛みを忘れた。

 ダンストンは違和感を覚えたのか、頭を触っていた。髪がないためペチッペチッと音を立てていたが。


 その様子をカリンは唖然あぜんとしてみていたが、正気に返るや否や、ダンストンを指さして笑っていた。

 リーチェは敵を刺激する行為だとカリンをたしなめていたが、カイルにはちゃんと意味がある行為だとわかっていた。


 カリンは頬に手を当てて笑っていた。以前やっていた、『意地悪なお嬢さん』を真似まねたという笑い方だ。

 しかし、依然と違う事がある。今は頬にあてた手をポンポンと動かしている。

 この事から、今度はナイフをどうにかしろ、とカリンは言っているのだろう。


 見えもしないナイフをどうしろと言うのだろう。そもそも暗がり見えたナイフは自分の血しか覚えていない。

 そう考えるとナイフに魔法を使うのは無理だろう。なら、状況を変える方法は――。



 悩んでいる間に状況は推移していた。

 ダンストンが激高しカリンに殴りかかった瞬間、周りにいた兵隊たちに押さえ込まれていた。

 あっさりと捕縛されたダンストン。縄で拘束され、首に剣を押しつけられている。今のカイルとほとんど同じ状況だ。


 あれを参考にすれば、現状を打破できるのではないだろうか。

 剣をナイフに置き換える必要があるが、ナイフは選択肢から外しているので考える必要もない。


 縄はほどく事はできない。繊維一つ一つを分ける事はできても、やはり縛られた状態である事には変わらない。

 成分ごとに分ければ可能かもしれないが、カリンの知識なしでそれは不可能だ。


 あれもダメ、これもダメ、と選択肢を減らしていく。そして最後に残った物も不可能であった。

 このまま何もできないのか、とカイルは唇をみしめた。


(こんな程度で諦めちゃダメだ! そんなんじゃ、全然『ビッグ』じゃない!)

 できる事がないならば作るしかない! その考えで発想を転換させた。


 分類魔法は何処どこに分けるかという指定が可能である。

 先ほどは指定しなかったが、やろうと思えばダンストンの髪をカイルの視界内ならば何処にでも移動できた。楓の樹液をたるに入れたときの様に。

 ならば――。


 カイルは兵隊の持つやりを一つ選び、ベルドのいる場所に飛ばした。正確には兵隊の槍をその場所に選り分けただけだが。

 条件は兵隊たちが持つ槍の中で、一番殺傷力の少ない物。

 無作為に選んだために、先ほどの文字が槍を持っている兵隊全てに『槍』と表示されていた。


 そしてカイルに選ばれた槍はベルドの方、つまりカイルの真横で制止し、落下した。

 既にそこにはベルドはいない。舌打ちをして後ずさった音が聞こえている。


「今よ! 少年を確保、その後殲滅せんめつしなさい!」


 何が起こったのか呆然ぼうぜんとしている兵隊をよそに、冷静さを失わなかったリーチェは的確に指示を出し、カイルの救助をあっという間に終えてしまった。

 集中できなくても、命令に反応できるといったところは訓練のたまものと言った所だろうか。


 拘束具は切り裂かれ、カイルは自由の身となる……が、身体に力が入らずそのまま崩れ落ちそうになってしまう。

 そこで受け止めた者がいた。

 懐かしい匂い、久しぶりの感触……。そのどれもがいとおしい。

 これさえあれば他には何もいらないと思った存在――カリン。


「カイル! カイルううぅぅぅ!」

「カリンちゃん……痛いよ。力、緩めてよ」

「ご、ごめん! カイル」


 カリンはゆっくりとカイルの身体を横たえてくれた。


「大丈夫ですか?」

 表情を変えないリーチェであったが、声にはいたわりの色が込められていた。


「は、はい……。ぎりぎりでしたけど、なんとか大丈夫です」

「ちょっとカイル! ギリギリってどういう事よ!」

「カリン、揺さぶってはダメです! カイルは骨折しています。それも至る所に」

「そ、そんな……」


 カリンは表情を青くさせ、狼狽うろたえていた。その様子を見てカイルは可笑おかしくなってしまった。声には出せないけど笑いたい気分だった。


(ぼくはバカだな……。カリンちゃんが何で心配してくれない、なんて思ったんだろう)



 しばらくすると、辺りに響いていた戦闘音らしき物がなくなった。

 人数差から考えて、領主の兵隊が勝ったのだろう。


「カイル、もうちょっと待っててね。今担架を作っているから、それが終わったらこんな所から出してあげるから」

「う、うん……こんな所早く出たいよ」


 離れたところからリーチェがある方向をにらみ付けていた。

 そちら側から足跡が聞こえてきた。兵隊が戻ってきたのだろう。おそらく捕縛したか、逃げられてしまったか、のどちらかだろう。


 いけない! 逃げられたと考えた事で、思い出した事があった。


「か、カリンちゃん……」

「何? 大丈夫よ。もうすぐ完成するから」

「ゴルタール……ゴルタールがいたんだ」

「えっ?」


 かすれたような声だったせいか、カリンは聞き取れなかったかもしれない。でも、もう声を発する気力すらない。

 このまま逃げられてしまうのだろうか。あの老人の顔を思い出してしまい、恐怖で身体が震えてしまう。


 『金のなる木』とゴルタールはカイルを呼んでいた。

 あの強欲な老人はカイルを逃すという事はないように思えた。だからまたさらわれてしまうかもしれない。たとえミーニッツ村に戻ったとしても追いかけてくるに違いない。

 なんとか、なんとかしてカリンにこの事を伝えなければいけない。


 その思いが通じたのか、カリンではなかったが、リーチェがカイルのつぶやきをはっきりと聞き止めていた。


「カイル……。今、ゴルタール、と言いませんでしたか?」

 カイルはその言葉にうなずいた。声に出したかったが、それが限界だった。


「そうですか。ゴルタールが……なるほど、それならば納得できますね」

「ゴルタール……ですって!」

「カリン、貴女あなたの様子からしてゴルタールとは因縁があったのですね?」

「あのクソジジィ……ついに強硬手段に訴えてきたのね! しかも、カイルに!

 リーチェさん、あいつらは砂糖の利権を守るためにあくどい事を何でもやる奴等やつらよ!」

「やはり、そうでしたか……。ですが、証拠がありません。

 状況証拠ならいくらでもあるのですが、決定的な証拠がないんです」


 女中さんなのに何でそんな事を……、と思ったが、カイルにとっては都合の良い事ではあった。このまま領主に訴えてゴルタールを捕まえて欲しい。それがカイルが心から望む事であった。


「リーチェ様、全て捕縛を終えました!」

「ご苦労」


 領主の城館を見物に行ったとき見た、あの大男がそこにいた。

 カイルの視線に気付いたのか、ニッと不敵な笑みを浮かべた。


「よう坊主。随分と男前になったじゃねぇか」

「ちょっとあんた! こんな状態の何処どこが男前だって言うのよ!

 傷が男のあかしとかいうバカな事言う人種じゃないでしょうね!」

「お、おぅ……威勢のいい嬢ちゃんだったんだな……。

 さっきのは演技だと思ってたんだが…………こっちが地かよ。可愛かわいいと思っていたのに詐欺だぜ」

「うっさい! あんたみたいな体育会系思考の男は、カイルに近寄らないで!

 バカ……はともかく、筋肉が移るわ」


 手を払うようにして「シッシ」と大男に向けてやっていた。

 助けてもらったのに、それはないんじゃないかなぁ、とカイルは思ったが、それを声に出す事はできなかった。

 それもあったが、リーチェの言葉でそんな事はどうでもよくなってしまった。


 ――ゴルタールがいないわね。






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