タンポポを食べてみよう
「カイン、お前の家の中と外を少し片付けてくれ」
開口一番、領主は言った。
「ええ……これでも片付けたんですが」
家に入ってきた領主に、カインは若干口を尖らせる。
「急で悪いが、私の息子……次男坊をお前の弟子にしてほしいんだ」
領主の息子達は、全寮制の学校に通っている。
たまに週末、遊びに来るくらいだ。
「本当に急ですね」
「だから、せめて動線に困らない程度に道を作ってくれ」
領主はわざと、辺りを見回した。
部屋中に置かれた、鉢植えや花壇たち。
無造作に置かれているため、今にも足のつま先を引っ掛け、転びそうである。
「午後には来るから、せめて足の踏み場を作るように!!」
「はい……」
カインは渋々と片付け始めた。
「ライラックと言います。
学校卒業後は、野草家を目指そうかと思いまして」
深々と礼儀正しくお辞儀するライラックに、カインも挨拶をする。
「今日からあなたの先生になるカインです。
もう将来のことを考えているなんて、しっかりしてますね、
さすが領主様のお子様」
「そうだな。
これで、今日来ることをいきなり連絡しなければよかったんだが……」
領主が苦虫を噛み潰したような顔で言うと、ライラックは慌てた。
「それは悪かったと思ってるよ、お父様。
でも思い立ったら、吉日って言うじゃない」
そう言うライラックの前髪は、領主と同じようなクリンクリンのくせ毛だった。
「ではライラック、まずあなたは何が知りたいですか?」
「食べられる野草が知りたいです」
「なるほど。では今日は、タンポポについて学びましょうか」
「タンポポ?!
あれって雑草じゃないんですか?」
「雑草ですが、食用になります。
サラダの付け合せになりますし、根の部分はコーヒーにもなりますね」
「ええ……!さっそくやってみたいです!!」
2人はすぐに、領内のタンポポを摘みに行く。
楽しそうに摘むライラックに、カインは尋ねた。
「ところで、なぜあなたは突然、植物について学びたいと思ったんですか?」
「いや〜昨日の学校の授業で、魔法適性を測ったんですが、
俺は植物魔法だったんですよ。
次男だし領地は告げないから、
お父様が療養中話してた、庭師さんの弟子になろうかな〜って」
「なるほど」
「先生はなんで庭師になったか聞いても?」
遠慮なく聞くライラックに、少し考えてからカインは答えた。
「自分の好きなことが、
誰かのためになっていたら、それはきっと楽しいだろうな、と思ったからです。
あとは私の場合、ホントに植物の知識と技術しかなかったので。
必然的なところもありますね」
「へぇ〜」
摘み終わると、カインの指示の元、ライラックはたんぽぽを調理した。
その日は、
あく抜きしたタンポポに、カリカリに炒めたベーコンと卵を合わせたサラダ、
タンポポの根を刻んで乾かし、
(乾かすのは日数が必要だったので、領主の風魔法で時短した)
フライパンで炒め粉末にしたコーヒーで、
領主とライラックとともにアフタヌーンティーを楽しんだ。
タンポポコーヒーはカフェインがないため、子どものライラックでも飲みやすく5杯もおかわりした。
「週末にまた来ますね!先生!」
そう言って満足気に手を振り、寮へ帰って行くライラックは、祖母に教えを乞う幼き日の自分と重なった。
(おばあ様も、こんな気持ちだったんだろうか。)
誰かに何かを教えるということは、自分の一部を譲るような……
そんな気持ちにカインはなった。
その不思議な気持ちを胸に、弟子のためにもう少し家の中の花壇や鉢植えを片付けようか、とも思った。
タンポポコーヒーはネットでも普通に売ってます。




