第28話 浮き輪の約束
祭りが終わるともう夏休みも終わりに近づく。
俺はだらだらと部屋で過ごしていたのだが、白石からメッセージがきた。
<今日ってあいてる?>
今日か。
まぁ特に予定はないな。
<空いてるぞ>
<じゃあ、朝倉くんの家に行くね>
は? 意味がわからない。
いや、別に来るのはいいけども。急すぎないか?
そうだ。あの神社のこと聞いてみるか。
<おけ! 待ってるわ。何時くらい?>
そう。返事をしたら家のチャイムが鳴った。
まさかな。
過去の出来事が脳裏に蘇る。
スマホには既読の文字。
家から誰かが出る気配はない。
……誰もいないのか?
ピンポーン。
再度チャイム。
ピコン。
同時に誰かからのメッセージがきた。
返事を見る前に俺はまず玄関に向かった。
なんかの勧誘か?
「はい。どちら様?」
めんどくさそうに玄関のドアを開けた瞬間――
「「「「お誕生日おめでとー」」」」
激しい破裂音がクラッカーの音だと知ったのは後のことだ。
●
どうやら前々から計画していたらしい。
俺のサプライズ誕生日会をやることを。
スマホの画面が虚しく語りかける。
――今から。
白石め。
わざと、チャイムを鳴らすのと同時に返信したな。
チラリと白石の顔を見るが、相変わらず何を考えているか分からない。
「ほいこれ」
落合がプレゼントを渡してきた。
「ちなみに私の誕生日はとっくに過ぎてます」
佐々木だ。
これは何かお返しをしないといけないな。
「どうぞ」
塩田の誕生日は確か10月とか言ってたな。
次の誕生日会は塩田の誕生日だな。
「はい」
白石は冬生まれで雪が降ってる時に産まれたって、小さい時に聞いたな。
小さい頃は白石から、誕生日プレゼントって言って草原に生えてた花とかを貰っていたな。
あの頃から白石は俺の誕生日を毎年祝ってくれてた。
俺はお礼に趣味で拾っていたアサガオの種を渡していたっけ。
「ありがとな」
そう言って白石からのプレゼントを受け取る。
「また花か?」
そう言うが、白石に無視されてしまった。
「塩田は何あげたんだ?」
落合の声が聞こえる。
「教えませんよ?」
「いいじゃねーかよー。ちなみに俺があげたのは漫画だ」
謎に落合が胸を張る。
「私は商品券よ。きっとお返しに商品券を使って凄い物をくれると見た!」
なるほど。
じゃあ佐々木には商品券を使ってお返しをするのが確定だな。
●
この日は大いに俺の部屋で盛り上がった。
正直、みんなに言われるまで今日が自分の誕生日だなんて忘れていた。
誕生日がこんなに素敵な日だなんて知らなかった。
小さい頃は、誕生日というのはコンとユイだけのものだった。
それが今では、みんなで祝うものになっている。
「素敵な誕生になった?」
塩田が隣に来て言う。
「あぁ。きっと人生で一番いい誕生日だと思う」
「みんなで前々から計画を立ててよかったよ」
にこりと塩田が微笑む。
ほんとうに最高の1日だ。
こんなに最高の仲間が居て、俺は世界一幸せ者だと思う。
●
誕生日が終わると、もはや新学期モードだった。
同好会の集まりも、宿題を終わらせるのと休み明けのテスト勉強をするという理由から活動がストップした。
別に宿題が全部終わったわけではないが、俺は退屈な日々を送っていた。
忙しくて慌ただしくて大変でも、同好会のみんなといる方が楽しいんだと実感した。
そんなある日。
<おーい! 明日プール行くぞー>
突然佐々木からのお誘いだ。
そう言えば言っていたな。
返信をしようとすると、佐々木から追伸が来た。
水着の写真が送られてきた。
●
久しぶりに同好会の集まりがあるということで、俺は昨日から寝れなかった。
決して、女子の水着が見れるからではない。
「いやー。もう夏休み中はみんなと会えないかと思ってたよー」
落合がいかにも陽気な恰好をして来た。
「楽しみにしてくれてありがとう」
にやーっと佐々木が笑う。
「白石の水着が見れるのは貴重だろ?」
と落合が返すと、なんだとー! と佐々木が怒った。
「ホントあそこ仲いいよな」
隣の塩田に言うと、塩田はお腹を抱えて笑っていた。
夏休みは本当に色んなことがあった。
中学の頃とは大違いだ。
コンとユイだけだった頃は、遊ぶものが何もなくていっつも一緒に忙しく遊んでいたっけ。
川遊びたくさんしたな。
そういえば、コンって泳げなかったけど、今はどうなんだろう?
そう思って白石を見ると、しっかりと浮き輪を付けていた。
「なに?」
白石が聞いてくる。
俺が何か言う前に、落合が代弁してきた。
「朝倉も白石の水着が見れて嬉しいってよ」
「いや。ちが」
「へんたーい」
否定しようとすると、佐々木がにやって笑ながらからかってきた。
白石も。
「やだ」
とか言って手で体を隠す仕草をしてるけど、違うから!
●
「疲れたなー」
珍しく帰りは落合と一緒だった。
なんでも女子はみんなで買い物に行くとかなんとか。
「はしゃぎすぎなんだよ。ウォータースライダー何回滑った?」
「そう言う朝倉はずっと白石のこと見てたな」
「白石は昔から泳げなかったんだよなーって思ってよ」
「前から思ってたけど、白石と朝倉って幼なじみなのな」
「たぶんそうだと思う」
「多分って?」
「覚えてないんだよ」
「なるほど」
落合はそれ以上何も聞いてこなかった。
「んじゃ。俺こっちだから」
分かれ道で落合が口を開く。
「俺が思うに」
「白石は待ってると思うぞ。朝倉が思い出すのを」
それだけ言うと落合は、真っすぐ家路についた。
忘れたくない思い出か……
●
「ユイー! どうやったら泳げるようになるのー?」
「コンはバカだなー。ここ足着くから泳ぐ必要ないぜ?」
「ちがーう! コンはちゃんと泳げるようになりたいから練習してるのぉー!」
「コンは泳げなくて良くないか?」
「なんでよぉー」
「だって俺がコンの浮き輪になるもん」
「ほんとー?」
「俺が約束破ったことあるか?」
「じゃーずっと守ってよね?」
あぁ――
俺は白石のことを守る約束をしてたんだ――
自然と涙が零れ落ちた。




