第18話 友達
俺は廊下で呆然と立ち尽くしていた。
ついさっき、ここで白石がコンになった。
俺が友達になると決めたからか?
教室に戻ると、白石はいつもの白石に戻っていた。
それよりも気になる視線がある。
なぜか塩田が刺すような視線をこちらに向けている。
見ると、一瞬怒ったような表情を見せ、そのまま机に突っ伏してしまった。
何だ?
何か言いたいことがあるのか?
後で聞いてみるか……
「これで決定したな」
落合だ。
「ホント朝倉ってバカだよねー」
佐々木が呆れる。
なんだか分からないが、2人は俺に呆れていた。
「あのな朝倉。お前はさっきまでクラスのみんなからフラれた人認定なんだよ」
隣の席で落合が言う。
「なのにまた白石に声かけるってことは、またチャレンジしたと思われても仕方ないだろ?」
「いやでも別に何かをしたわけじゃなくて、今までのことを謝っただけだぞ?」
「それでも。周りの人がそう思えばまた告白したと思われちゃうって話したでしょ?」
後ろから佐々木も話しに入ってくる。
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「またクラスのみんなは、朝倉がかおるちゃんのことを狙ってるって思うよ?」
「しかもまた失敗したってな」
佐々木の後に落合が続ける。
みんなの前で白石と話すのはもうよそう。
●
「あの……」
休み時間に、控えめな声で声をかけられた。
塩田だ。
俺の周りには落合も佐々木もいない。
狙って声をかけたのだろう。
「ん?」
「約束……」
「約束?」
「酷いです! 約束したのに……」
世の中にはタイミングが悪いなんてことがよくある。
正にこのタイミングで佐々木が席に戻ってきた。
「え?」
ほぅら。勘違いしてる。
「どした?」
落合も戻ってきた。
これは勘違いが伝播する流れだ。
「な……何でもありません……」
あー。終わった……
塩田が今の捨て台詞で去っていくことで、俺が何かをしたというのが確定したな……
「何をしたの?」
佐々木があからさまに怪しむ。
「いや。ほんとに分からないんだよ」
「分からなくてあんな反応されるか?」
落合も怪しむ。
「約束って言ってたぞ」
「いや。ほんとに何の約束もしてないんだよ」
強いて言えば、美術準備室に居たことを言わないことくらいだが。
「そういえばさっき、さくのこと聞いてたよね?」
「そうなのか? やっぱりなんかあったんじゃないのか?」
佐々木の言葉を聞いて落合が益々疑う。
「分かったよ。後でちゃんと話聞いておくよ」
やれやれ。
これだから人付き合いは嫌いなんだよ……
●
高校の授業はこんなものか。と思うことがいくつかある。
共同発表もそうだし、今からやる美術の授業もそうだ。
校庭にあるもので、自由に風景を描くというものだが……
「何描くか決まったか?」
落合だ。
「全く決まらん。もう少しあっちの方探してみるわ」
そう言って俺は、人が少なそうなプールの方へ向かってみた。
そこには、アサガオがたくさん咲いていた。
懐かしいな。確か小学生の頃に育てる授業をやったな。
なぜか少しだけ胸が痛んだ。
よし。夏場のプールを描くことにしよう。
そう思ってスケッチブックを取り出した。
「あ……」
控えめな声がして、そちらを向くと塩田がそこに居た。
「……ここなら人が少ないと思って……」
か細い声で塩田が言う。
俺と同じ考えか。
俺は、そうか。とだけ答えてプールの絵を描いていた。
「さっきのことだけど……」
ポツリ。と塩田が口を開く。
「あぁ。約束のこと?」
「勘違いしてたみたい……ごめん……」
「よくあることだ。気にするな」
「でも友達に変な誤解を与えちゃったと思うし……」
まぁ確かに落合と佐々木は誤解をしていたな。
「大丈夫だろ。あの2人なら」
「それならよかった……」
しばらく、絵を描く音と風が吹く音しかしなかった。
「いいな……」
筆を置いて塩田が言う。
「え?」
思わず筆が止まった。
決して上手くはないが、かなり筆が進んでいたのに……
「私にはそういう友達がいないから……」
「いや。俺だって落合とか佐々木が友達かって聞かれたらよく分かんないぞ?」
ただ何となく話しかけられているだけだし。
「でも。信頼してるじゃん」
「信頼?」
「誤解されてるかもって私が言った時に、あの2人なら大丈夫ってすぐ答えてたでしょ?」
真っすぐこちらを見てくる。
言われて気づいた。
いつの間にか俺は、落合と佐々木のことをそこまで信頼していたのか……
そうか。落合と佐々木は俺の友達なのか……
「私ってこんな性格だから。何でも話せる人がいなくて……うまく喋れないし、小さい頃は気持ち悪いなんて言われたこともあったの……」
「じゃあ……俺が練習台になろうか?」
「え?」
「うまく喋れないのは練習すれば良くなるだろうし、俺も人付き合いが苦手だから気持ちはすごくよく分かる」
そう言って手を差し出した。
人が多いのも嫌いだし、たくさんの注目を浴びるのも嫌いだ。
だが、それでも心のどこかで羨ましく思っていた。
本当に信頼できる友達が欲しいと思っていた。
きっと、
塩田も同じはずだ。
「うん。よろしくね」
にこりと塩田が微笑んで、俺と握手をした。
風がアサガオとプールの水を揺らして、俺と塩田の髪を撫でて行った。




