ウランバルブ王国のイケメン三人
ちょっと切ないような勘違い男のような?
王家の子供は三人。王太子は第二王子より五歳上の二十五歳。王女は第二王子の二つ年上の二十二歳。こちらは魔獣騒動で危険になったウランバルブの血筋を絶やさないようにと海を渡った国に嫁いで行った。
長兄の王太子はすでに幼い息子二人を授かって良い家庭を築いていた。
だから尚更仲の良い第二王子の婚約がずっと整わないことを気に病んでいた。勿論国策を理解してはいる。しかし親族としての情は別の問題であった。
第二王子の名はオスカー。
彼は王家特有の濃い金髪と翡翠の瞳を持った容姿で、明るい性格。そして責任感の強い男であった。
「兄上、私の結婚を心配してくださって本当にありがとうございます。必ずや聖女を口説いてみせましょう」
幼少期から女性に困ったことがないオスカーは自信を持って王や兄たちに語った。
公爵家の嫡男ジェラルド、宰相の息子パーカーも国策を理解し親を安心させるように言う。
「国の一大事です。私たちで聖女様たちを惚れさせ、是が非でも私たちと結婚していただけるようにしましょう。三人も居るんですから聖女様たちの理想にある程度は沿えると思います」
高位の貴族である青年たちは自信に溢れていた。
学園でも社交界でも三人の男たちの前にはいつも女性が列をなしていたからだ。
どの令嬢も一度で良いので踊ってくださいませ……と瞳を潤ませるし、夫人たちも『ああ、我が家にあのような素晴らしい息子が縁付いてくれたら……』とため息を溢す。
貴族たちから見ても彼らは決して傲慢ではないし、礼儀正しくまっすぐに育った良い青年であったのだ。
だから『最終的にどうにかなるに違いない』と考えていたところもあった。
そして彼らは討伐隊が編成されたあと、それぞれ縁のあった婚約者候補の令嬢に別れを告げた。
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オスカーは王宮に来ていたメイナード侯爵令嬢を呼び止めると、ガゼボに誘った。
「メイナード侯爵令嬢……わたしは貴方との未来をずっと幼少期から考えていたが聖女を娶る使命を陛下から頂戴した。故に君とは婚約できない」
紫の瞳と銀髪のメイナード侯爵令嬢は瞳をそっと伏せた。
「わたくしはオスカー殿下を幼い頃から愛しておりました。聖女様が現れた今も殿下とともにありたいと思っています。もし聖女様に選ばれなかったときはわたくしとの未来も考えてくださいませんか?」
恋する令嬢は涙ながらに訴えた。王家の真意を理解しながらも恋する乙女は言わずにはいられなかったのだ。
しかしオスカーは思っていた。
〈おそらくどちらかの聖女は王子である私を選ぶだろう。未来がわかっているのにメイナードを待たせては彼女は良い縁談を逃してしまうかもしれない〉
「ああ、私の銀の百合……あなたの涙に応えられない私を許してくれ……黒髪に黒い瞳の大人しい容姿の彼女たちに私の心が奪われることはない。生涯私の真の愛は美しき妖精のような貴女だけに捧げよう」
二人の最初で最後の口付けを使用人たちは目を伏せて見逃した。
こうしてメイナード侯爵令嬢は泣く泣くオスカーを諦めた。
公爵家のジェラルドはキャロライン伯爵令嬢を夜会に招待した。
討伐のために集められた軍人たちを鼓舞するその夜会はいつもと違い、男女共に熱気に満ちた夜であった。
会場を離れ、涼むために出たベランダでジャケットを手すりに置くと二人は向かい合ってワルツを踊り始める。
ジェラルドは癖のある柔らかな巻き毛をかき揚げ、少しラフな雰囲気でシャツの首元を緩めた。
「キャロライン……本当に君はイタズラな精霊のようだ。僕の心を盗んだままいつも振り回すね。今日も明日も君の美しさは変わらないだろう」
「ジェラルド様……王家から我が家にも通達が参りました……
もしかしてジェラルド様も聖女様のところへ行ってしまわれるのですか?」
キャロラインは令嬢らしく感情を荒立てることはない。ゆるく巻いた金髪がターンするとふわりと揺れる。
だが表情は静かに悲しみに耐えているのだと細く吐き出すため息でわかる。
ジェラルドはそんな彼女の様子に悲しげに目を細めた。
「ずっと君と結婚すると思っていたよ。だから男友達との約束を優先してしまって、君とのデートを何度もキャンセルしちゃったね。今日ほど後悔している日はないよ」
ジェラルドは人気のある人柄からか付き合いが多かった。それ故にキャロラインはお茶の約束を直前で断られたり、夜会のパートナーをドタキャンされたりすることが度々あった。
キャロラインはそんな時不満ひとつ漏らさず、静かに微笑んでいた。
見た目の華やかさだけではないものがキャロラインにはあった。彼の社交界での地盤固めだと分かっていたし、そこを理解する頭の良さもある令嬢であったからだ。
ジェラルドには『どうせ結婚するのだし』と心のどこかに言い訳があった。
誠実にはしようと考えていたため、ジェラルドはとっておきのプレゼントで機嫌をとっていた。それが二人のルーティンである。
国で一番歴史が古く、経済力のあるフラボア伯爵家の長女としての矜持もあったのだろう。彼女のわがままをジェラルドは聞いたことがなかった。
「聖女様はお二人です。オスカー殿下とパーカー様が選ばれると言うこともあるのではないのでしょうか?」
キャロラインは俯きながら小さな声で囁いた。
その声の小ささにジェラルドの胸は締め付けられる。いつもは控えめなスタンスの彼女が精一杯の気持ちをぶつけているのが手に取るように分かるからだ。
〈ああ、この美しく柔らかな金髪と菫色の瞳をずっと自分のものにしたかった……だが……僕のような明るい性格の男はきっと聖女たちの荒んだ気持ちを救うだろうことは分かっている。ユイナ様は特に僕の髪を気に入られて『シンジ君を思い出すわ』と言われていた。きっとユイナ様の想い人と僕は姿が似ているに違いない。このことをキャロラインに伝えたらきっと彼女は絶望してしまうだろう。せめて、僕にできることは彼女を諦めさせることだ〉
「僕の大切な人。僕はね誰よりも君のことが心配なんだ。だから僕のことは忘れて素敵な相手を見つけてくれ。この月明かりの下で踊った記憶を胸に僕は『愛』を封じると決めている。聖女を迎えて国を維持することも貴族の役目だから……どうか僕の分も幸せになって」
「ジェラルド様……私は貴方の気持ちが痛いほどわかりますわ……国のために将来を全て捧げる姿勢を尊敬いたします」
そう言うと握っていた手を振り解きバルコニーから走り去って行った。
淑女中の淑女と言われたキャロラインが走ったのをこの日ジェラルドは初めて見た。
白い頸と指先が月光で照らされていたのが妙に印象的でジェラルドはきっと今日というこの時間を一生自分は忘れないだろう……と唇を噛み締めた。
宰相の息子パーカーは陽の光が注ぐ薔薇庭園で最後の茶会を開いた。
艶やかな黒髪を背中でゆったりと結び眼鏡を掛けている鼻筋はスッと通っている。パーカーは知的な雰囲気が魅力の社交界では有名な美男子だ。
そして向かいに座った令嬢は、薄桃色のドレスがよく似合う、人形のように可愛らしい女性。ビビアン・ジーニー伯爵令嬢。
「ビビアン……もう知っていると思うが父は私に密命を授けた。聖女様たちにこの国へ残ってもらえるように夫になるべく努力するようにと。異世界からの女性たちであるから貴族として全てを兼ね備えているビビアン嬢に比べても彼女たちに魅力を感じてはいない。しかし自分の本心を殺しても国益を考えた時に、あの力は是が非でも国のものとしたいのだ」
美しい赤毛のビビアン伯爵令嬢は大きな瞳を潤ませた。琥珀色の瞳からはすでに涙がプクリと浮かんでいる。
「幼い頃からずっと貴方だけを見つめてきました。パーカー様の血の滲むような努力も、王家を支えるための魔術の鍛錬も知っています。人ができぬ努力を続けた貴方は素晴らしい人。全てがわたくしにとって太陽のような存在。この気持ちを一生抱えて生きていくには辛すぎます。どうか貴方様を待つことを許していただけませんか?」
席を立つとパーカーはビビアンの細い肩を抱きしめてその柔らかな髪に頬を埋めた。
背の高いパーカーが長い腕でしっかりとビビアンを抱きしめる。
「私の暁の君。きっと私は黒髪の聖女たちを同じように抱擁することはないだろう。君の愛を信じている。だから君の未来を作るためにも私は心を殺すと決めたのだ。愛しているよ。この庭園に咲き誇る薔薇のような君の髪を私は毎夜夢の中で慈しむだろう。どうか生きてくれ。そして次に生まれ変わるときは必ず添い遂げよう」
「パーカー様ぁ〜!どうか討伐で怪我をなさらないでくださいませ」
ビビアンは大粒の涙をこぼした。パーカーは額や頬に何度も口付けをし、彼女を宥めたのだった。
〈ああ、本当に可愛らしい……愛しいビビ。きっと私は聖女たちのどちらかに選ばれてしまうだろう。男たちの中で一際美しい顔立ちはどうやっても隠せない。それに彼女たちに近しい髪色を持っているのは唯一私だけだからな……セイナ様は嬉しそうに私の髪色を褒めていた。『日本の髪色がこの国でも見れたのでホッとしました。やはりどうしても明るい髪の色や瞳に囲まれていると落ち着かなくって』と。彼女たちは知らない国で日々戦っている。だからそんな聖女様たちを雑に扱うことは出来ない……ビビ……どうか許してくれ。来世ではきっと君と結婚する〉
こうして、パーカーはビビアンに別れを告げた。
男たち三人はこれからの討伐中にどんな困難があろうとも聖女を口説く!!と改めて決意するのであった。




