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聖女二人はサバサバ系  作者: 三輪 有利佳  (旧 美輪 伊織)


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王家は聖女たちを引き留めたい

私の作品には珍しくイケメン登場

〈五六九年〉



 ウランバルブ王国建国祭 光暮月九日


 二年前まで王国は大規模な魔物繁殖の被害で甚大な被害を受けていた。


 魔物と分類される生物たちは『魔素』という有害な気を撒き散らし、人も動物も弱らせた。

 そして植物も影響を受けていくため、水にも被害が及び国の状態は戦時の状態よりも衰退していた。


 幸か不幸か魔獣がいることで国そのものが危険地帯となり、他国が攻め込もうという状態にはなりはしなかったが、友好国が手を差し伸べることも殆どなかった。


 そんな滅びの未来が確定していたとき、転機が訪れた。

 光かがやく神殿の中庭に突如黒髪の二人の女性が現れたのだ。

 ウランバルブ王家は彼女たちを神から遣わされた奇跡と信じ、神官たちによって彼女たちの力を慎重に調べた。

 その結果、彼女たちこそ現れた魔物たちを討ち取ることのできる〈聖女〉であると確信した。


 二人の女性は河北結菜と南川聖奈と名乗った。

 ユイナとセイナは聖なる力が使えることを自覚し、恐怖に震えながらもウランバルブ王国のために戦うことを決意してくれた。

 

 聖女の降臨により魔物たちは次々討伐され、数を減らし、そして遂に壊滅の状態まで持っていくことに成功した。


 セイナたちは民たちに救国の聖女と呼ばれた。魔物の排気する魔素の影響を受けない体質で、しかも神の力を使う異世界の人間である。

 

 聖女は魔法とは違う『聖力』という力を使えた。

 特に魔物たちの発する魔素を消し去る力は素晴らしく、人間たちの討伐軍に勝機を与えた。以前なら魔素を吸ってしまった兵士たちは体を弱らせ、多くの人たちは長時間戦うことも難しかったが、聖女が魔素を消し去ってくれるおかげで、全力で剣や槍を振るうことが出来る。聖女が討伐軍に参加し始めるとあっという間に恐ろしい化け物たちを弱体化させていった。


 聖女の存在は瞬く間に軍の中でも常に特別なものとなっていった。聖女二人はウランバルブ王国で初めて顔を合わせたそうだ。日本という国の違う地域からスッと神の門(ゲート)に吸い込まれたらしい。初対面であったが息は見事に合っており、どんな状況でも戦闘を補い合い、共に戦う軍人にも、魔術師たちにも人当たりよく接した。国の作法は違えど、聖女は仕草に品があり協調性に優れていた。

 生活習慣の違いもあり苦労も多かったと思うが、国の騎士団や魔術師たちと力を合わせ、無惨な姿になってしまった地域へ文句一つ言わずに足を運んだ。

 

 辺境の農地は枯れ果てていたのに、二人の力により緑を取り戻し、魔獣は消えた。汚染された山の水源は再び元の美しい湧き水を多くの民に提供できるようになり、そして魔素の影響で弱っていた家畜たちも聖女の聖力に触れることで病を克服した。

 飢えで苦しんでいた民たちも聖女たちの知恵により食糧を得ることができ、徐々に元気を取り戻す。

 文句も言わず王国中を回ったユイナとセイナは多くの民に感謝される存在となったのだ。

 

 結果ウランバルブ王国は魔物や魔獣により奪われた多くのものをたった二年で取り戻していく。

 勿論簡単な道程ではなかった。だが『白金の森林地帯』と呼ばれる、国で一番深い森を取り戻せたとき、軍も王家も魔獣討伐の終焉だと勝利の雄叫びを挙げたのだ。

 その知らせを受け国中の民が喜び、貴族は聖女を持て囃した。


 

 王家はこれを盛大に祝うと国中に知らせを届けた。

 勿論多くの民にもその慶事を祝ってもらうために振る舞いをする。

 同時に、建国祭の夜会を開催すると大々的に発表した。魔物騒動で結婚の機会を先延ばしにされた貴族令嬢と令息たちを盛りあげようと、各家庭に招待状が届けられた。

 国中の適齢期の貴族を集めての夜会は本当に久しぶりで、デビュタントから上の年齢制限なく未婚の者たちが招待されている。今回に限り爵位は関係なく、国に忠誠を誓っている貴族であれば下位の者でも良いとした。

 

 これまで尽くしてくれた貴族の者たちの労い。純粋な王家の厚意で年頃の子達縁談のチャンスを用意したと国民は好意的に捉えていた。



 しかし貴族家の誰もがわかっている。

 この夜会はある目的のために用意されていると。

 王家の真意はずっと分かりやすくこの二年間自分たちに伝えられ続けていた。

 聖女二人をどうにかこの国に留めるために結婚して子を儲けて欲しい。この一択だ。

 神殿には細く小さな『神の門(ゲート)』がずっと残っている。人が通れる大きさではないがきっと聖女たちを神が元の世界に戻す瞬間に再び大きく開くのであろうと予想された。

 王家や貴族は考える。相手は所詮女であると。彼女たちに夫と子供がいれば国を離れることができなくなるに違いないと目論んだ。


 見目麗しい男、もしくは凛々しく勇敢な騎士、王国に従順な高位の貴族は彼女たちを釣り上げる立派な餌である。

 魔獣の脅威は去ったとはいえ、あの『聖力』は大変魅力的な力である。是が非でも国としては囲いたい力であるが故に、聖女を無理強いせず、だが少々強引な方法で留めたい。いや、その血が欲しくて堪らない。


 王家も二年間ぼんやりしていたわけではない。

 ことある毎に王家は聖女を呼び出した。


「この度の森の浄化本当に苦労であったな。褒美に広大な土地と王家に次ぐ爵位を与えよう」

 セイナは答えた。

「過分なお気遣いは要らないですよ。私たちは日本に戻りますからそのように後々残るものは必要ありません。他に武勲を挙げた兵士たちにあげてくださって大丈夫ですよ」

 

「良くぞ辺境地の家畜を蘇らせてくれた!第二王子の妃となって是非国の繁栄を見届けてほしい」

 ユイナは首を激しく横に振った。

「陛下!私には勿体無い縁談ですし、あの美貌の王子の横に立つことなど私如きには到底無理です。私は日本に帰りますから王子には相応しい令嬢と縁を結んであげてください」


 残念なことに彼女たちは多くの宝石にも、豊かな領地にも、貴族の爵位にも興味を示さず、令嬢達が喉から手が出るほど憧れる王子殿下にも興味を示さなかった。

 そして二人になると『早くスマホ生活に戻りたい』『マジでおにぎり食べたいわ』『4DXで映画見たくない?』などとわからない言葉で話している。魔術師たちも王国総出で『スマホ』や『おにぎり』『4DX』というものが他国にあるのでは無いか……と必死に探したがそれらは全く見つからず王家は焦っていた。


 聖女の力が凄ければ凄いほど議会と王たちが聖女をこの世界、いや国に根を下ろしてくれるように説得する施策として家庭を持ってくれ!と切望した。


 何度も何度も褒美を断られた国王は一生懸命考えた。当然貴族院や学者たちも意見を述べる。

 いっそのこと監禁してしまえば良いのでは?と乱暴な案も出たのだが、聖女の〈聖力〉とは神の手助けがあってのこと。清らかな存在の二人を害すると、のちにとんでもない神罰が降ってしまうでしょう……と神官が震えながら言うので即座に己の欲を引っ込めた。


 そして幾度も行われた議会からの提案で高位貴族の子どもたちは婚約者候補たちとの仲を一旦保留とされた。それが二年前の聖女が降臨して数週間で決まったのだった。

 聖女にどんな男が見初められるかわからない。チャンスを多く残す必要性がある。

 ウランバルブ王国では十五歳前後を目処に貴族は婚約者を決めてしまうことが通例だ。

 そこをなんとか!と聖女の事情を伝えることで貴族たちに考えてもらったのだ。

 

 社交界では皆が尤もらしく語る。

 〈国の有事に神の国から使わされた聖女様が私たちの代わりにお役目を果たしてくれる。我が国のために聖女様たちが身命を賭してつくしてくださるというのに、結婚や婚約などの祝い事は控えるべきである。なぜなら聖女様たちは討伐の期間、女性としてのこれらの祝い事から離れるのだ。せめてご帰還されるまでの間、ウランバルブ王国では婚約者を持たぬ令嬢令息は彼らに敬意を払うべきだあるだろう。それゆえに縁を結ぶことは控えるようにしよう〉


 確かに自国のために聖女は戦うわけではなく、ウランバルブ王国の民のために尽くしてくれるのだ。

 だが当然納得できない家もある。猛反対したのは令嬢を抱える家である。


 女性には結婚適齢期というものがある。行き遅れた娘を本当に良い家に縁付けることが出来るのか?と不安が拭えない。

 娘の幸せと家の利を考えて夫を慎重に選び、そして一番良いのは早くに相手を見つけることだ。


 しかし早すぎる婚約は破談の原因になるし、遅すぎると相手が少なくなっていく。

 年齢の差が大きすぎると相手の趣味を疑われ、そして婚姻の内容が微妙になる。

 男女の年齢差が逆の場合はもっとだ。


 男子のいる貴族家でも焦っている家がいくつか見られたのは言うまでもない。


 『まだ何とかなるだろう』と悠長に構えていた令息が『結婚や婚約は待つように……』と言われ『はいそうですか』と数年待ったとしよう。

 不確定である平和な未来を何年待つのか分からないのは不安でしかない。一年で済めば良いが十年待ったら今は青年と言われても、数年経てば『中年』と言われてしまう。

 貴族家たちは王家たちが決めたルールにいち早く決着がつくことを日々祈っていた。


 気持ちでは勿論聖女たちに感謝している。


 諦めた領地が復活できた伯爵家。逃げ出していた男爵家族。

 だが、貴族にとって結婚は本当に重要であったため、この案をすんなり呑み込んだものは少ない。

 

 だから聖女たちがまさかの二年である程度の目処をつけてくれたことは有り難く、本当に『感謝の気持ち』を形にしたいと思う家も多かった。



 国には国民が熱を上げる素晴らしい未婚青年が三人いた。

 彼らの血筋は完璧で容姿も性格も親たちから贔屓目に見ても申し分のない人間だ。

 第二王子。

 国防の要になる公爵家の嫡男が一人

 宰相の息子が一人。


 多くの若者たちは両親から『頼むぞ!』と肩を叩かれるのは当然であるが、この三人には特に期待は集められていた。

 王としては『とにかく誰でもいいから聖女たちを射止めてくれ!!』というのが本音であった。

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